10話 初めての外出
装備を買いに行ったユーリたち、だが……ユーリには剣が扱えなかった。
腰が全く入っておらず、店主曰く、ダサくて弱そう。
どうにかして、魔物を倒した記憶を持ち帰りたいユーリは大量の矢と防具を買い、フィーナと共に森へと向かう。
僕たちは街を出て、屋敷とは正反対の方向へと歩き始める。
目的はそう、ハチミツと魔物退治だ。
森は街の入り口から見えるほどだったが、意外に距離がありしばらく歩くことになった。
しかし、森と言うだけあってかなり広い面積だ。
「森に入ったらはぐれないようにね? 昨日、迷子になったんでしょ?」
前を歩くフィーナさんが振り向き様に僕にそう忠告してくれた。
……あまり思い出したくないことなんだけど、誰に聞いたんだ?
いや、考えるほどでもないか、恐らくは助けてくれた少年、バルドにでも聞いたのだろう。
「分かった、所であの森って迷いやすいとかあるの?」
「ん? 特に術的な物は無いから、ちゃんと目印さえ残してれば、大丈夫――――とそうだ!」
フィーナさんは布袋からナイフを一本取り出し僕に渡してきたけど……。
僕にナイフはまだ扱えないんだよなぁ。
「これは?」
「保険、もし、はぐれたらこのナイフで木に傷をつけて進んで? 自分の名前か目印になりそうなのを残してね?」
なるほど、名前ぐらいならこの世界の文字で書けるし、矢印ならすぐに分かるだろう。
「ありがとう、でも、はぐれないように心がけるよ」
もう、一人は勘弁だしね……そう言いかけて情けなく思い、その言葉は飲み込んだ。
「じゃぁ行こうかー、目的はこの森のちょっと奥の方にあるから、その間に魔物が出てくるかもしれないけど、焦らないようにね?」
「大丈夫、矢も取り出しやすいところに持ってるし警戒は怠らないよ!」
こればっかりはうっかり忘れてました! じゃ、済まないからな。
寧ろ、使いやすいように持ってないと『武器や防具は装備しなきゃ意味無いんだぜ』っと店の人に言われてしまいそうだ。
森の中を進み始めて数分と言ったところだろう、フィーナさんが腕を僕の前に出し静止を促した。
「ユーリ、魔物だよ!」
「う、うん!」
昨日は一人と言うのもあったからか全く動けなかったが、今日はなんとか動けそうではある……これなら大丈夫そうだ。なら後は落ち着いて敵を良く見るんだ!
目の前に居る魔物は古木のバケモノ、一体どういう構造をしているのだろうか? 枝が腕で根っこは脚のように動いている……ゆっくりと向かってくることからすばしっこくは無いようだ。
「ユーリは落ち着いて詠唱を……私は左の団体を倒すから、右のをお願い!」
そう言うのが早いか、遅いか、森族である、フィーナさんは腰にぶら下げてる馬鹿でかい剣を抜くと凄まじい速さで突進していく。
……昨日あった時から犬だと思ってたが、今はまるで狼のようだ。
所でナタリアの話だと森族って剣とかで戦うとかは聞いていないような?
そんな事を考えながらその姿をしばらく見ていたが僕にもやることがある。
フィーナさんに言われたとおり右に居る魔物を倒さなければ。
落ち着いてやれば大丈夫だ……足は震えてはいるが声は出せそうだ。
僕は矢を数本手に取り、深呼吸をし詠唱を唱える。
「我が意に従い意志を持て、マテリアルショット!!」
魔法の名を唱えると共に飛んでいく矢、予想通りと言うかなんと言うか……僕はもう、ちょっと早く飛ばそうとしたんだけど、ソレよりは遅い。
……とはいえソレを踏まえてのイメージだ……速度としては十分。
だが、僕の放った魔法の矢は虚しくも魔物の横を通り抜けて行った。
「大丈夫、大丈夫だ。今度はちゃんと当ててみせる……我が意に従い意志を持て! マテリアルショットォォォォ!!」
今度の矢は何とか魔物の腕をもぎ取ることは出来た。
今僕は恐らく……この世界の雑魚相手にかなり本気で戦っている。
だけど実際、僕には接近されたら対抗手段がない。
先程フィーナさんに受け取ったナイフですらまともに扱えるかどうかだ。
これがゲームならゲームオーバーでセーブポイントからやり直せるだろう……。
でも、これは紛れも無い現実だ。
それにこの世界には回復魔法が無い――――。
つまり、蘇生魔法なんてあるわけが無ないのだ……したがって死にたくなければ例え雑魚相手でも新米冒険者の僕が手を抜くという選択肢は無かった。
僕は飛ばした矢の軌道を思い出し、もう一度詠唱を唱え。
「マテリアルショット!!」
魔法の名を発した。
「はぁ……はぁ」
「ホントに魔法使えたんだー、さすがナタリアの弟子だねっ!」
酷いもんだ。
アレから何発も矢を放ったのだけど、フィーナさんは僕が一匹しとめる間に倒しきり、後は眺めているだけだった。
本当に『みーてーるーだーけー』っと言う奴だった……美人で優しそうな顔をしているが、さすがナタリアの友人と言った所だろう……放置プレイをされるとは思わなかった。
それにしても、たった一回の戦闘なのに結構矢も魔力も使ったな、矢を多めっと言うか買いこんで置いて正解だった。
とはいえゲームのように一万本など、馬鹿げた物は持てないから、薬や他の道具の邪魔にならないよう持てるだけ買ってきたのだけど……なんていうかアレだ。
買う時に現実を思い知った。
一本なら重くは無いのだけど、やっぱり束になると重いし……その上、魔法で使えば外れても衝撃で折れて使い物になりそうも無い。
金銭面でもきついな……これは何か武器でも練習しておかないと駄目だな。
「うーん、それにしても……」
僕が考えごとをしながら息を整えていると、フィーナさんは辺りを見渡してから僕に向き直り苦笑いをした。
「魔法ヘタ、だね」
彼女が見たのは木に突き刺さった無数の矢……当然、その矢を放ったのは僕だ。
勿論、魔物を狙ったのだが、当った数より外れた数の方が多い。結構矢を使った理由がコレだ。
「う、動いてる的に当てるのは初めてだっただけで!」
「でも、あの魔物は動きが遅い方だよ?」
うん、確かに遅かった。
正直アレより速いと当てられる気がしない、今後、矢を使い続けていくなら慣れるまでが大変だな。
「と、とにかく魔法うんぬんは横に置いておいて、目的の場所はもうちょっと進むのかな?」
「え? あ、うん……もう少しかな?」
だから何で疑問系なんだ、フィーナさん……本当に道はあっているのだろうか? あってるんだろうけど、こうクエスチョンマークが頭に浮かんでそうなニュアンスで言われると不安にもなる。
「み、道あってますよね?」
失礼だとは思うけど一応聞いてみると彼女は少し考える素振りを見せた。
「大丈夫、これでも鼻は利くんだよ!」
ああ、なるほど――って犬じゃないんだから、いや犬っぽいけど……。
「……多分」
「多分っ!?」
ちょ、ちょっと待ってくれ! これってまさか二人で迷子とかないよね?
「ほ、方位磁石とか地図とか持って来てないの!?」
方角が分かれば多分街が解るだろうし、なおかつ地図があれば完璧だ。
だから、ソレぐらいは持ってきてるだろう――――。
「地図はあるけど、ホウイジシャクってなに?」
…………この世界には方位磁石は無いのだろうか?
「えっと、方角が解る物です北とか西とか……」
「へ~、そんな便利な物があるんだ」
本気でないのか! いや、あるはずだ。
何か別な方法で方角を調べる方法が――。
「そういうのって魔法とかが普通だと思ってたよ」
「…………」
「あれ? なんで膝を着いてガックリしてるの?」
魔法かよ! いや、本当何も無いのかと思った……。
いや、まてよ? 僕、まだその魔法教わってないよな?
「ほ、他に無いの?」
「あるよ、精霊に聞くとか」
「早く聞こう、迷子は――――」
「迷ったらねっ!」
フィーナさんにっこり笑っている場合ではないのでは……ん? え、迷ったら? ってことは……まだ、迷子じゃないのか……?
「行くよー?」
もしかして、僕の取り越し苦労だったってこと?
てっきり迷子だと思ってた僕はその場に立ち尽くし次第に小さくなっていくフィーナさんの背中を眺めていたが、すぐにはっとし彼女の背を追った。
「……ま、待って!」
結局は僕の取り越し苦労だったようで、迷い無く先を進むフィーナさんの後を付いて行く。
その後も出てくる木の魔物たちを退治しながら、さらに少し歩いていくと小さな広場のような場所に辿り着いた。
良く見ないまでも蜂の巣箱があるし、養蜂の為の広場だろう。
「着いたよ、っとユーリ持って来ておいたローブかぶっておいてね」
「うん」
ローブとは街で予め買っておいた防護服だ。
「それにしても、便利な防護……ローブだよね、どこでも買えるの?」
「ん? これはタリムでしか売ってないよ、蜜はタリムの名産品だからね」
そうだったのか、じゃ、あのクレープ的な物もタリムの名産品だったりするのかな?
「じゃ、蜜を取ろうか」
「でも、どうやって取るの?」
見た所、遠心分離機のような道具はないし、ろ過出来そうな物も無い。持ってきてるのは入れ物だけだし……。
「切り取って、この中に入れるの」
随分とダイレクトだな、それよりも……
「そんなことしてあの魔物は怒らないの!?」
僕は周りに飛んでいる明らかに警戒してる様子の蜂のような魔物を指差した。
「大丈夫、大人しいし、蜜を取るのは私がやるから、ユーリは辺りを警戒してくれるかな?」
「わ、わかった!」
取りあえず作業が終るまで魔物の気配には気をつけないと、この格好じゃフィーナさん戦えそうもないし、魔法で何とかするしかないな……そう考えてながら辺りを見渡すと少し離れた茂みの方で何か動いた気がした。




