表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/210

95話 港町ドイズール

 クロネコからフィーナに告げられた言葉は依頼の拒否をしろと言うものだった。

 だが、彼女は依頼を受けると言い、一行は誰一人かけることなく依頼を受け港町へと向かう……

 目指すはフォーグ地方、果たして商人は見つかるのだろうか?

 翌日、僕たちは馬車に揺られ港を目指す。


「港ってどの位かかるの?」


 僕は目の前に座る森族(フォーレ)の男性、クロネコさんにそう聞くと彼はちらりと外へと目を向け――


「もうすぐだ」


 っと彼は教えてくれた。

 そう言えば僕、船には初めて乗るなぁ……

 向こうでも乗ったことがないから、本当に初めてだ。

 でも、素直に喜べない、その理由は隣にいるフィーだ……彼女は先ほどから僕の手を握ったまま顔を伏せてしまっている。

 心配になって、一度大丈夫か聞いたのだけど……「なんでもないよ?」と答えた後すぐにまた同じ状態に戻ってしまった。

 やっぱり、フィーはフォーグに行きたくない理由もあるんじゃ?


「おい馬鹿犬、お前やっぱり――」

「行くよ? ユーリが行くんだからねー」


 クロネコさんの声を遮る様にフィーは答え、それに苛立ちを見せた彼ははっきりと彼女に告げた。


「だからなんだ? その様子じゃ使えねぇ降りろ」

「フィーナ、元気無い、行きたくない場所、行かなくて良い……」


 シュカの言葉に頷き肯定するドゥルガさん……だけど、フィーは行くつもりなんだろう縋るような目で僕へとその視線を向けて来た。

 僕も心配ではある。

 フィーは明らかにいつもと違う、でも……僕は以前フィーにそれでもついて行きたいとシュカに言われた時はどうするの? と言われたことを思い出し……


「フィーが行くって言ってるんだ、置いて行けないよ」


 僕はそう答え、彼女の手を強く握った。


「あのなぁ、なにか遭ってからじゃ遅ぇんだよ!!」

「その時は僕がなんとかするよ」


 バルドは声を荒げ僕へとそう怒鳴りつけるが、僕がそう答えるとリーチェさん以外の視線が僕へと刺さる。

 うぅ……でも、こんな状態のフィーを放っておくなんて……それこそ出来ないよ。


「私はフィーナを連れて行くの賛成だね」


 馬車の中に沈黙が広がり始めそれを破ったのは唯一僕を見ていない女性だった。


「どういうことだ」

「まず戦力として、フィーナほどの剣士を置いていく理由が無い。それに――」


 彼女は言葉に合わせるようにフィーを見つめ。


「フィーナの場合、ここで降ろしても自分で勝手に来るよ」


 リーチェさんの言葉を聞き、フィーは顔を上げ同時に手に力が入ったのが分かった。


「リーチェ……」

「それに、フォーグに来た後も合流しないで一人で動くのが目に見えてる。無茶と書いてフィーナって読んだ方が良いってたまに思うからさ」


 一旦顔を上げたフィーはその言葉で再び、がっくりと下を向いてしまった。


「リーチェさん……」


 それ、否定出来ないです。


「……もう、二度と無茶しないよ?」


 そしてフィーは何故、僕にそれを言うのかな?

 無茶されたら困るからしないで欲しいけど。


「うん、絶対したら駄目だよ」


 僕はそう彼女に告げると……


「しないよ?」


 っともう一度呟いた。


「……チッ、分かったついて来るのは良いとして、なにか遭ったら女お前に任せたからな」

「最初からそのつもりだよ」


 そう答えるのと同時に馬車は止まり、クロネコさんは僕の答えに満足したのかニヤリと笑い。


「着いたぞ」


 そう言い残し馬車を降りた。

 ここは街や村と言って良いのだろうか?

 数件の家に酒場らしき場所、生活に必要な店はあるものの必要最低限といった感じで……


「凄い……」


 そこを抜けるとそこには大きな船があった。


「どこ見てるんだ?」

「へ? どこって……これから乗る船、だけど……」


 クロネコさんに声をかけられ、僕は彼の方へと振り向きながらそう返すと、彼は溜息をつきながら自身の後ろを指す。


「誰が()()()()()()()()()るっ()()言っ()()() 俺たちが乗るのはあれだ」


 あれでオンボロ!? 一体どんな船に乗るつもりなんだろう? そう心を弾ませ彼の後ろの船へと目を向ける。

 すると、そこにあったのは……


「ゆ、幽霊船?」

「ユ、ユーリ……空の方が安全かも知れないかな? 私頑張って目を瞑ってるよ?」

「いや、あっちの客船の方が明らかに綺麗でしょ」

「オンボロ、沈む」

「……おい、領主の野郎なに考えてやがる」

「俺が作った方がマシだな」


 明らかに古いを通り越してもう壊れる寸前であろう船、それを見た僕たちは一言ずつ言葉を残す。

 それに、ドゥルガさんは作った方がマシって……むしろお願いした方が良いかと思うぐらいだし、フィーに限っては空の方が良いとまで言い出してるよ。


「てめぇら……良いか! あれは見た目はアレだが――」

「アレってクロネコさん、自分で認めちゃってるよ……」


 僕が思わず呟くと彼は烈火のごとく怒りで燃え上がった双眸で僕を睨み。


「話は最後まで聞け」

「ご、ごめんなさい……」

「アレは船丸ごとアーティファクトだ……ちょっとやそっとじゃ沈まねーよ」


 へ? あれもアーティファクトなの!?

 いや、それよりも船丸ごと?


「でも、これだけ大きいと動かす魔力も尋常じゃないでしょ……言っておくけど私は魔力無いからね」

「流石に俺だってこのデカブツは動かせねぇぞ……」

「お前らには期待してねぇよ」


 クロネコさんは二人を言葉で一蹴すると、その目を僕へと再び向ける。


「…………ふぁ!? 僕!?」

「ああ、女お前はナタリアの弟子だろ? だとしたら、それなりの魔力はあるはずだ。お前と足りない分は酒場で適当に魔法使いを雇えば良い」

「ちょ、ちょっとまって――」

「分かったら酒場に行くぞ」


 僕の制止の声を聞かずクロネコさんは先ほど通ってきた道を戻っていく、いくらなんでも船丸ごとを魔力で動かすなんて無理だよ!?


『否定します』

「ソティルまで!?」


 突然聞えたソティルの声に僕は声を荒げる。

 すると、当然リーチェさんたちには訝しげな目を向けられる訳で……


「ユーリ、ソティルがなにか言ってたの?」

「う、うん……」

「ソティルって誰よ? 頭の中にいるお友達?」


 リーチェさんの中で僕はどんな解釈になってるのでしょうか?


「えっと、ユーリ専用の魔法……を司る精霊だよ? で、なんて言ってたの?」

「船を動かすのは無理だよって考えたら、否定しますって……」


 流石に無理だと思うけどなぁ。


『繰り返させていただきます、否定します。ご主人(ユーリ)様の魔力の量は常人を遥かに越えております』


 確かに僕は魔力が多い方で、回復も早いけど……


「ユーリ皆に置いてかれちゃうよ?」

「う、うん……すぐに行こう」


 仮に動かせたとしても、僕としてはあまり魔力を消耗したくない。

 ヒールに関してもそうだし、余力は残しておきたい、良い魔法使いが見つかってくれれば良いなぁ……





 酒場に行くとそこには外の光景からは予想できないほど人で溢れていた。

 仕事上がりなのだろうか漁師の人たちが大漁を喜びながら乾杯をし、お酒かそれとも船に酔ったのか冒険者らしき女性は机に上半身を預け、それを見て多いに笑う仲間たちは赤い顔をしている。

 そんな中をクロネコさんはカウンターにいる店主と話していた。

 彼の周りには僕とフィー以外が立っていて、彼らに手招きをされ僕たちもそちらへと足を運ぶ。


「遅ぇ……お前は前からそうだな、ボーっとしてるから馬鹿に襲われるんだ」

「ぅ……」


 お願いしますバルドさん、出会った当初のことは言わないで欲しい。


「黙れ、今話してる所だろうが! で、だ……サヴァルニャラハを動かせる人員が欲しい訳だ」


 サヴァルニャラハ……あの船の名前かな?

 なんか言いにくい名前だ……途中で噛みそうだよ。


「なるほど、ですが遠征となりますと料金の方がお高くなってしまいますが……」

「構わない、言い値で払う」


 言い値って……いや、なんか金銭感覚が麻痺しそうだ。


「では、一人当たり金貨二枚、内の三人を手配しましょう」

「ああ、分かったそれで良い。後払いできっかり払ってやるよ」


 店主さんは頷くと店の奥へと歩き出す。

 先ほど机に倒れていた人の所だ。

 彼はそこにいる人たちに声をかけ暫らく話すと彼らは僕たちの方へと顔を向ける。

 一番年上そうの男性はニカリと歯を見せて笑い、美形の男性はそれに続き会釈をし、机に突っ伏していた女性……彼女はやけに赤い顔でこちらへと向くと再び机に向き直った。

 やっぱり、一人はお酒に酔ってたみたいだ。

 そちらへと足を運ぶと店主さんは彼らを紹介してくれた。


「うちで一番の冒険者です」

「おう! 話は聞いたぜ、全員魔法を使える安心してくれや」

「まぁ、レオさんはあまり頼りにならないでしょうけどね、申し送れましたオレはホークと言います」


 丁寧にお辞儀をし、自己紹介をする男性はなんと言うかメガネの似合う好青年だ。

 代わりにおじさんの方はなんと言うかゼルさんを思わせるようだけど、どこか優しそうな雰囲気で彼ほど声もでかくない。


「おい女、お前が頭だろ! 先に名乗れ」

「ふぇ!?」


 いつから僕はこのパーティーのリーダーにされたんでしょうか?

 戸惑いつつも僕は三人へと向き直り頭を下げる。


「ユーリ・リュミレイユです。それと――」


 僕がそう言うと皆はそれぞれ名乗りを上げてくれて一人を残し名前は伝えあった。

 最後にホークさんが呆れた表情を作り女性へと指を向けると。


「そこで酒に溺れたのはシアンと言います」


 彼女の名前を教えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ