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93話 裏市場での再会

 地喰い虫の杖は再び行方をくらました。

 だが、リラーグには裏市場と言うものが新たに出来ていたらしく、そこに情報を求めユーリたちは奴隷市場跡地へと向かう。

 そこで、彼女たちは懐かしい人たちに出会うのだが?

 屋敷を後にした僕たちは元奴隷市場で開かれているお祭り……裏市場へと足を運んだ。

 裏と言ってもお店を構えてる所も出張店を開いていたり、ちゃんと審査の元場所を提供しているらしい。

 お客の方は冒険者が多いみたいで、こちらも審査を通して中には入れるとのことだ。


「テメェじゃ話にならねぇ!! 上を出せ!!」


 そして、クロネコさんは苛立ちしっぽをゆらゆらを動かしながら兵士さんに怒鳴りつけてる。

 どうやら、何日か前に申請を出しておかなければいけなかったらしく、中には入れないとのことだ。


「クロネコさん怒鳴っても仕方ないよ、ここは今申請をして後日入った方が……」

「だから、それが必要だったら俺が言ってるだろうが! とにかく上を出せ!」


 ああ、兵士さん困ってるし、今にも泣きそうだ。


「駄目な物は駄目です! それに、今日のことは上に報告させていただきます! 危険な人物を――」


 兵士さんは気丈にもクロネコさんにそう言い返していると、彼の前にもう一人の兵士が立ち言葉を遮り、クロネコさんへ深々と頭を下げた。


「大変失礼致しました。そちらの方は存じております……」


 そう言って僕たちに顔を向けて来た兵は。


「あっ……あの時の」


 グリフィンゾンビが攻めてきた時、妹が先日結婚したと言っていた人だ。


「テメェが責任者か?」

「いえ、一般兵です。ですが上より、もし来られたら自由に出入りさせろと言われております。お手数をお掛けしました、どうぞお入り下さい」

「先輩!?」


 もし来られたらって僕たちのこと? それに自由にって……


「チッ、上に言っておけ! 下の躾ぐらいはちゃんとしろってな!!」

「はい、私含め次は無い様、心得ます」


 彼の対応に毒気を抜かれたのか、クロネコさんは僕たちへ振り返ると顎で行くぞと告げてきた。


「あの、ありがとうございます」


 兵士さんたちの前を通った時、僕が礼を告げると彼は笑顔を見せ両掌を僕へと向ける。


「止めて下さい。この街があり、妹が無事幸せに暮らせるのは貴女のおかげです」


 な、なんか凄い感謝されてるけど、僕そんな凄いことしてないよ?


「そうだ、今日は武具屋のクルムさんが出店しているんです。お連れさんのお友達でしたよね?」

「クルム、まだ、街にいるの?」

「はい、こちらに住まわれるようですよ。ご心配なされていたので顔を見せてあげてください」


 へぇ、あの子戻りたがってたはずだけど、リラーグに住むことになったんだ。

 この人が教えてくれたってことは仲が良いってことだよね、それでかな?


「ユーリ、早く……店どこ?」

「入って左奥にありますよ」

「分かりました、行ってみます」


 欲しい情報は武器のことだし、彼女がなにか知っているかもしれない。

 なにより、シュカが放っておいても走って行ってしまいそうだ。


「クロネコさん、先に行っても大丈夫かな?」

「ああ、武具屋なら見かけたかもしれないな……行ってみるか」

「クロネコ、ユーリには素直だねー?」


 そう言えばそんな気もするけど、フィーの声が若干怖いのは気のせいなのかな?

 手にも力が入ってる気がする……いや、入ってる。


「一応は恩人だ、それに間違ったことを言ってる訳じゃないからな」


 彼はついて来いと言いながら先ほど教えてもらったように左奥を目指し歩いていく。


「偉そうにうざってぇ……金の話も結局されてねぇし」


 確かにしてないけど……なんの情報も無いから依頼として出しにくいんだと思うよ?

 そう言おうと思ったけど「それを探すのも依頼だ」と言い返されそうなので僕は黙っておいた。


「はぁ……前途多難なパーティー」

「大丈夫だ、いざと言う時はユーリがなんとかするはずだ」


 ドゥルガさんそれは買いかぶりすぎだと思います。


「いた……」


 シュカはクルムさんを見つけたんだろう、駆け出して行き僕たちは後を追う。

 そこには忙しそうにしている女性がいて。


「……凄い人だね」

「うん、そうだねー?」


 彼女は人混みに埋もれて耳だけ見えると言う状況だった。

 しかも相当忙しいらしく、見えている耳も右へ左へ、ぴんと立ったり折れ曲がったりとせわしなく動いている。

 流石にこの中に話しに行く訳にもいかないよね……っていうかシュカはこの状況で良く見つけられたね。


「これじゃ話どころじゃないね、仕方ない、少ししてから戻ってこようか」


 僕がそう言うと、シュカは少し考え。


「手伝って、来る」

「て、手伝うって凄い人混みだよ?」


 シュカの言葉にフィーがそう言ったのも束の間、シュカは人混みへと走り出すと軽々と飛び越え店へと入り込んだのだろう。

 クルムさんの耳がぴんっとしたかと思うと。


「シュカ!?」


 そう女性の声が聞えた。


「馬鹿女が、おい、少し時間を潰して……」

「シュカを置いていけないよ、ここで待っておこう」

「そうだねー?」


 僕がそう言うとフィーはそう言ってくれたけど、クロネコさんには舌打ちをされてしまった。

 いや、流石に置いてきぼりなんて出来ないよ。





 シュカが飛び込んでから、どの位待ったのだろう? 日もそんなに動いてないし、そんなに長い時間を待った訳では無いだろう。

 人混みはすっかり無くなり、そこには売り物が空っぽの店舗と二人がいた。

 人が引いたことで、彼女は僕たちがいることに気がついたのだろう、目を丸くしながら僕たちを見て頭を下げ始めた。


「お久しぶりです、クルムさん」

「す、すみませんシュカに手伝わせて、それにその――」


 彼女は謝りだし、気まずそうに店を見回す。


「あ、違うよ? 今日は装備を買いに来た訳じゃないよー?」


 フィーがそう告げてくれると、彼女はきょとんとした表情を作り。


「え、あの……では、どういった用なんでしょうか?」

「実は僕たち、地喰い虫の杖を探してるんだ。それで、それがここで売られていないかなって……」


 彼女にここに来た理由を告げると、クルムさんは嫌そうな表情を作り両耳を垂らすと……


「あの、気持ち悪い杖ですか?」


 さらに嫌そうにそれを口にした。


「知ってるのか! それは今どこにあるんだ!!」

「ひぃ!?」

「クロネコさん、急に怒鳴らないで、ビックリしてるよ……」


 なんで彼はいつもこう威嚇をしているのだろうか?


「チッ……おい、女お前に任せておく」

「はぁ、分かってるよ……それで、クルムさん見たことあるの?」


 彼女の様子からして、確実だろうけど確認の為に僕は聞いて見る。

 すると、再び嫌そうな顔を浮かべた兎の森族(フォーレ)クルムさんは頷き、それを肯定してくれた。


「いつだったか忘れましたけど、店仕舞いをしてると隣のお店に慌てて売りに来てる人がいて……それがその気持ちの悪い杖でした」

「そのお店ってあそこの人?」


 フィーは隣の店を指差し確認する。

 だが、彼女は首を横に振り……


「いえ、今日は出店していないみたいです」


 店を出してれば手間が省けたんだけど、そう都合良く行く訳ないよね。


「その人、どこの人?」

「リラーグの魔法道具屋の人だけど……そういえばこの頃店が開いてない様な?」

「あん? そいつなら別の街に物を売りに行ってるはずだ……いや、そうか……!!」


 再び、声をあげるクロネコさんにクルムさんはビックリしているけど、もう彼女に用は無いと思ったのだろう、彼は僕の方へと向き直ると。


「おい女、奴は恐らく数日後に事件を知ってリラーグじゃ売れないと判断し、別の街に行ったんだ。俺は奴の情報を洗ってくる」

「あ、うん、お願い」


 僕の返事を聞いた彼は尻尾をピンと立てたままその場を去る。


「な、なんなんですか……?」

「すまないな、だが、あの男も悪気があってやっている訳では無い。許してやってくれるか」

「え、ええ、ビックリしただけですから」


 怖がらせてしまったと思うのに、クルムさんは良い人だ。

 そんな中、苛立っているのだろう一際大きな舌打ちが聞え。


「どうだか、俺は帰っても良いか? このまま無料働きなんてやりたくねぇからなぁ」

「それは無いと思うよ?」

「そ、そうだよーもう少し待とう?」


 バルドは本当に相変わらずだなぁ……

 でも、これで杖の行方は解るかもしれない、クルムさんが偶々見ていてくれて良かった。


「そういえば、クルムさん」

「はい?」

「リラーグに住むことになったって聞いたけど……」


 僕の質問に彼女は小さく笑い声を上げる。


「ええ、戻るつもりだったんですけど、いくら領主様が冒険者を雇うお金の一部を出してくれても依頼金が高くなってしまうんです」

「それなら、シュカたち、連れて行く」

「そうだねー、依頼が終ったら連れて行くよ?」


 二人の言葉に続いて僕は頷くと抗議の声が聞えた。


「おい、それは無料ってことか!? 俺はやらねぇからな!!」


 う、うん……そういうと思ったよ。


「いえ、その実は……お客さんと仲良くなりまして、リラーグにいてくれと……」


 彼女は若干頬を染めながら、そう言葉にし……僕の脳裏にあの兵士さんの顔が思い浮かぶ。

 やっぱり、そういうことだったんだ。

 フィーも合点が言ったのだろう、僕の方に振り向きにっこりと微笑んできた。


「……クルム、まで……」

「……シュカ? 私までってなにが?」


 シュカはそう小さくつぶやいた。

 友達に良い人が出来たんだし……なにも、そんなこの世の終わりの様な表情にならなくても良いと思うんだけど……


「なん、でもない……末永く、爆発する」

「ば、爆発!?」

「シュカ!?」


 なんでシュカがその言葉を!? っと僕が彼女の名を叫び思ったのと同時に彼女の口からその答えが告げられた。


「ユーリの国、こういう時、言う、ユーリの師匠から、聞いた」

「そ、そうなんですか?」

「え、えっと……色々と複雑な時に使う……と思うよ?」


 ナタリア……貴女は一体なにを教えているんでしょうか?

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