92話 呼び出された理由
リラーグへとたどり着いたユーリたちは龍狩りの槍で荷を降ろすと、クロネコのもとへと向かう。
果たして、呼び出された理由とは?
杖はリラーグにあるのだろうか?
僕たちは早速クロネコさんの所へと向かう。
彼が手に入れた情報とはなんだろうか?
逸る気持ちを抑えながらも、僕たちは歩き彼のアジトへと辿りついた。
家は……修理したのだろうか? いや、修理と言えるのだろうか? 壊れている扉を叩こうとして、僕はふと止まる。
そういえば、彼は扉を叩かれるのを何故か嫌っていたよね?
「クロネコさん! いますか?」
僕は家へ向かって声を掛けると、暫らくして扉が開く……そこには以前この街でお世話になった情報屋。
クロネコその人が顔を見せてくれた。
「ようやく来たか、行くぞ」
「へ? 行くぞって、どこに行く気なのクロネコ」
しっかりと僕の手を握ったままフィーは彼に当然の疑問を投げる。
すると、不機嫌そうにその場に立っていたバルドもその疑問に乗り。
「その通りだ。見知らねぇ人間の情報持ってる野郎なんて、信用出来ねぇからな……」
うわぁ……警戒してる。
「あん? 俺はこの街一番の情報屋で、お前が知ってるナタリアやゼルが世話になってたんだぜ?」
「ねぇ、そうするとクロネコさんいくつから情報屋やってるんだろう?」
僕がこっそりフィーへと耳打ちをすると、彼女は同じ様にこっそりと教えてくれた。
「八歳位の時からだよ? お陰で何度も助かったんだよー」
「おい、別にこっそり言う内容でもないだろうが、女、馬鹿犬もだ早く来い」
「待てよテメェ、その前に金の話だ!!」
「お前がリーチェだな、戦えない女を連れて行くのは不満だが我慢してくれ」
「あ、ああ~まぁ身を守るくらいなら出来るさ、武器商だからね」
彼はバルドを無視することにしたのか、さっさと進んで行ってしまった。
それにしても、リーチェさんの武器商だからと言うのは、どういう理由なんだろうか?
僕が首を傾げていると再び、フィーが耳打ちをしてくる。
「武器を扱う以上、取りあえずは使える様にしたみたいだよー、お陰でその武器を扱う人の気持ちを理解してくれるんだよ?」
「へぇ、凄い……だから、凄腕なんだね」
素直に感心したっていうかそれ、どんな状況にも合わせられて有利かと思うんだけど……
いや、よくよく考えれば武器を何個も積まないといけないから無理か。
「暑苦しい」
「どうした、シュカ? 今日はそんなに暑くないぞ」
「違う、意味……」
後ろから、シュカの愚痴が聞えるような気がするけど……きっと気のせいだよね?
恐る恐る振り返って見ると彼女は瞼を半分下ろして、呆れきった顔で僕とフィーを見ていた。
以前はあんなにウキウキした様な顔を浮かべていた彼女はどこに行ったんだろう?
「人間というのは良く分からないな」
ドゥルガさん、僕も同意見です。
それにしても……クロネコさんはどこに行くつもりなんだろう?
暫らく歩くと、大きな建物が目に入る。
まさか……、いやでも、クロネコさんは真っ直ぐ向かってるみたいだ。
「……シルトが、フィーナから、ユーリを奪いに、来た」
「うわぁ!? フィー!?」
その屋敷が領主の物で、そこに向かっている様子だということを理解した僕の後ろから何故か若干高揚した声が聞え、その声に反応したフィーに僕は抱きつかれた。
「フィーナ? あんたなにやってるの?」
「なんでもないよー?」
リーチェさんに若干声が硬い返事を返すと、僕を抱く力が少し強まる。
うぅ、流石に外だと恥ずかしいよ? フィー……それに。
「フィー、これだと歩きにくいよ」
僕が当然の訴えをすると彼女は。
「そっか、ごめんね?」
「いや、謝るほ――うわぁ!?」
僕を両手で抱え始めた。
所謂お姫様抱っこだ……出来ることなら僕がしてあげたいって違う!?
フィーは平然と歩き出してるし、もしかしてこのまま行く気なの!?
「フィーナ、頑張れ」
そして、さっきまで不機嫌そうだったシュカは意地悪な顔を浮かべてるし、君もか! 君もSだったのか!?
「遊んでないでさっさとついて来い」
「おい、金の話がまだだぞ」
「うるせぇよ馬鹿野郎、金の話は後だ。そんぐらい理解しろよ」
クロネコさんはついてくれば、なんでも良いみたいで特に僕とフィーを指摘することは無く……しつこくお金の話をしていたバルドにキレかかっている。
彼はやっぱり屋敷へと向かってるみたいだ……そういえば領主さんに理由があるって書いてったっけ?
そうだ、書いてあっただから向かってるんだ。
「フィー降ろして、手紙に領主さんに呼び出した理由があるって書いてあったよ」
「でも……」
そう言っても降ろすのをためらう彼女に僕は小声で言う。
「僕のことナタリアから聞いたでしょ? それにフィーの方が大切だよ」
「――ッ!!」
ん? 何故かフィーが黙って顔を背けてしまった。
怒るようなことは言ってないんだけど、そもそもフィーが僕に怒ることはあまり無いよね?
疑問を浮かべている内に彼女は要望通り、僕を降ろしてくれた。
ふぅ、取りあえず抱っこに関しては二人の時にしてもらおう、出来れば僕がしてあげたいんだけど。
それはそうとして、あの二人の口喧嘩を止めないと……その内バルドが手を出しそうだ。
「バルドもクロネコさんの言うこと聞いて! 理由が領主さんにあるなら、依頼の話はそっちだよ」
「なんだって……?」
「分かってるじゃねぇか、馬鹿野郎とは脳みその出来が違うな」
「ぁあ!?」
それは果たして褒められたのだろうか?
それにまた挑発をして……
「後、クロネコさんも挑発するの止めること、殴られても知らないよ。バルドが強いの知ってるんでしょ?」
「っうぐ……チッ、ついて来い」
はぁ、取りあえずはバルドも黙ったし、クロネコさんは挑発するのやめたみたいだし、着くまでなにも起こらなければ良いんだけど……
おっと、歩く前にフィーと手を繋いでおかないと、はぐれたら困るよね。
そう思って彼女の手を握る。
でも、まだフィーは明後日の方を向いていて……
「フィー?」
「な、なんでもないよ!?」
僕の声に慌てて振り返った彼女の顔は赤かった。
「連れて来たぞ」
「あ……は、はい! お、おい! 扉を開けろユーリ様たちが来られた」
クロネコさんが門兵へ僕たちを連れて来たことを言うと、彼らはすぐに屋敷の中へと通してくれた。
様って……この街で僕たちは一体どんな対応になってるの? ただの冒険者のはずなのに。
いや、それよりもこの人以前クロネコさんを警戒してた人だよね? なんか元気が無いように思えるけど……
「どうぞ、今部屋に案内いたします」
扉をくぐり屋敷に入ると別の兵が僕たちを案内してくれる。
通されたのは以前と同じでふかふかの椅子がある部屋だ。
「少々、お待ち下さい」
気になるのはこの兵も元気が無いことだ。
一体なんなんだろう?
兵が去った後、クロネコさんは静かに口を開いた。
「馬鹿犬、それに馬鹿女もだ。外に聞き耳を立てておけ」
「ん? 分かった」
「…………」
彼の馬鹿って言うのは癖なんだろうか?
「女、兵たちの様子をどう思った?」
そして、なんで僕に対しては馬鹿をつけない呼び方なんだろう……
「えっと、元気が無いよね? なんか起きたの?」
「ああ、詳しいことは領主が来てから話すが、先に言っておくことがある」
その真剣な表情に僕は息を呑み、彼の言葉を待つ。
「……リラーグの領主スクードが死んだ」
「……え?」
死んだ?
「でも、私たちが会った時には元気だったよ!?」
「病気の様子、無かった……」
僕は二人の言葉に頷く。
「クロネコ、その領主は誰かに殺されたと言うことか」
「急病じゃない? 世の中、珍しい物では無いでしょ」
「いや……フィーナたちや俺を呼んだ理由からして、殺しはともかくが病気はねぇな」
「分かってるじゃねぇか」
クロネコさんは目を細めバルドへと視線を動かすと口角を吊り上げる。
「馬鹿野郎が言った通り殺しだ」
彼がそう断言すると、扉の開く音がしその音に続く様に声が聞える。
「そして、それが呪いだと言うことですよ」
部屋に入ってきたのは領主の息子であるシルトさんだ。
いや、現領主といった方が良いんだろう。
「お待たせいたしました。それでクロネコ、目星はついているのですか?」
「ああ、おい女、ナタリアに呪いをかけた杖……嘘じゃないだろうな?」
「ん? 見た目のこと、それだったら実際に見たわけじゃないけど、フロルにいる氷狼の情報だよ」
僕の言葉に再びクロネコさんは口角を上げ、一瞬笑う。
「悪くない答えだ、あの馬鹿げた魔物を倒したか」
彼は「なら間違いがない」と付け加え、話を続けた。
「いいか、お前らが帰ってからこの街に一人の魔法使いが来た。魔物を一晩で消し去る様な奴だ、住む所も金もないってことで領主は屋敷抱えの魔法使いとして雇った訳だ」
「う、うん……それで?」
「だが、実際は魔法もロクに使えない落ちこぼれだ。それがバレ屋敷を追い出されると思った奴は……」
「息子である、私に呪いをかけようとしました」
クロネコさんの言葉に続きシルトさんはそう言う……
つまり、呪いを解いて欲しかったら住まわせろってことだったんだろう。
だけど、シルトさんにかけるはずの呪いは領主さんにかかった。
見た目が違う以上、間違うなんてことは無い。
「……領主さんがトランスでシルトさんに成り代わったってこと?」
「はい、私は父に貴女方の屋敷を見てきて欲しいと言われ外出中でした」
「だが、呪いをかけたのは昼だ当然窓から”日の光が入る”」
日の光……僕たちが呼ばれたのはやっぱり。
「ルテー……」
「ああ、陽光の呪いルテー、俺も実物は初めて見たが地喰い虫が這っている杖だ……何人か見てるからな間違いねぇ」
「それは、今どこ……?」
シュカの言葉にクロネコさんたちは首を振る。
「分かりません、父を殺した後、彼は逃げたんです。街中に私に領主が殺されたと言いふらしながら」
「それなら、すぐに見つかるんじゃ?」
「ああ、見つかったよ……領主と同じ様に干からびた死体が街中でな」
どういうこと?
呪いをかけたのはその人でその人は見つかっていて、でも死んでいた?
「杖だけが見つからないってこと?」
「ああ……杖が見つかれば良かったんだが、シルトは父殺しと役人殺しの疑いがかけられた」
「お陰で私は街に繰り出すことが出来ません、運良くクロネコさんが呪いの可能性を考えて来てくれたお陰で貴女方を呼ぶことは出来ましたが……」
なるほど……
「でも、アーティファクトって持ち主を決めるんだよね?」
「その通りだ。だが、それはあくまでアーティファクト見つかった時の話だ……それ以降は誰でも扱える」
そういえば、ソティルも奪ったり、売ったりする人がいるって言ってたっけ……
見つけてしまえば誰でも使える魔法か……呪いを解く為にも探さないといけないし、このまま放っておいても厄介なのは間違いが無い。
「つまり、僕たちもシルトさんも杖が必要、僕たちが探し出せば良いんだね?」
「ああ、その通りだ」
「でも、全くの手がかりが無いんじゃ探しようが無いんじゃない? その杖消えたんでしょ?」
リーチェさん……そんなはっきり言わなくても……
「んーなら、そういう怪しい物を扱ってる場所とか行けば良いんじゃないかな?」
「あん? だから杖は持っていかれたって言っただろうが!!」
「だって、その役人は故意に殺されたとは思えないよ? 呪いの杖って解ってたら街中で使わないよ?」
確かにフィーが言う通り、見ている人がいるかもしれない場所でそんなものは使えない。
だとしたら、故意に殺されたわけじゃなくて――
「奪って使った所で初めて効果を知って、慌てて売り払った?」
「そうか! 言われてみればあんな所に死体があったのは変だ! くそっ!! 俺としたことが馬鹿犬より劣ってただと!?」
「バカバカ言わないで欲しいんだけど?」
ああ、フィーの笑顔が怖くなってしまっている。
とにかく、これ以上情報が無いしフィーの言うことは最もだ。
「クロネコさん、今リラーグに闇市とか、そういうの扱ってる場所ってある?」
「ああ、奴隷市場後だ。店を持たない奴らが売りを出しててな怪しい物も取り扱ってる」
あそこか……
「分かった、皆行ってみよう」
「そうだねー、クロネコ? もし情報があったら馬鹿はやめてね?」
「馬鹿は馬鹿だろ」
ああ、もう……クロネコさんフィーを怒らせるのは止めて欲しいなぁ。
「フィー、行こう?」
僕は彼女の手を引き部屋を強引に抜け出し”出口”に向けて歩き出す。
「そっちは違いますよ!」
……出口じゃなかったみたいだ。
うぅ……なんでいつもこうなのかな?




