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9話 冒険の準備

 ナタリアの手紙はユーリに魔物退治をさせろ、との内容だった。

 焦るユーリを余所にゼルとフィーナはナタリアの要求をのんだようだ。

 一方ユーリは悩むものの、戻ってもばれると理解し、魔物退治をすることを決意した。

 部屋に入った僕はベッドへ腰掛けながら明日の対策を練っていた。

 さて、どうしたものか……魔物退治なんて勿論したことがないし、今使える魔法で相手に手傷を負わせられるのはマテリアルショットだけだ。

 一応、教えてもらった魔法にはフレイムボールというのもあるけど、失敗して焼け野原にするわけにはいかないし……。

 絶対にそんな事をしないという自信はない! 椅子を破壊するぐらいだからな。

 僕がうんうんと唸っていると『コンッコンッコンッ』という規則正しいノックの音が聞こえた。


「ん?」


 今酒場に居るとすると尋ねて来たのはフィーナさんかな?


「ちょっと待って今開けるから」


 ドアを開けるとそこにはフィーナさんではなく見慣れたメイドさん、シアさんが立っていた。


「シアさん! お帰りなさい」

「はい、ただいま戻りました。屋敷に戻る前にユーリ様に挨拶をと……」


 彼女の言葉を聞き僕はちらりと外を見る。

 結構暗くなってきてるけど大丈夫なのだろうか? 不安ではあるけどあのバルドの師匠だ。

 僕が一人で出歩くよりはるかに安全だ。


「そっか、馬車って言っても気をつけて帰ってね」

「ありがとうございます。では、お先に帰らせていただきます」

「分かった、じゃぁまた明日」


 シアさんはそう言うとお辞儀をしてドアを閉め去って行く、暫らくすると馬の鳴き声がし、馬車の去っていく音が遠めに聞こえた。


「あ、しまった……」


 彼女が去ってしまってから気が付いた……戦いのコツとか聞いておけばよかった。

 と、とにかく明日はフィーナさんの邪魔にならないように注意しないとな。

 一応、対策としてはマテリアルショットを上手く使えるようにイメージトレーニングはしておかないとな。

 自身は……無い。





「ユーリ、起きてる~?」

「んぅ……ふぃーな、さん?」


 あれ? もう朝? いつの間にか寝てたのか、準備も何も出来ていないのだけど……とは言ってももう後には引けないし、行くしかない。


「ユーリー?」


 まだ寝たい気だったが、彼女はどうやら寝かせてくれない様だ。


「え、えっと、起きました!」

「うん、部屋、入っても大丈夫かな?」

「は、ぃ……」


 いや、待て今の僕は髪はボサボサ寝巻きのままだし、はっきり言ってみっともない姿だ。

 男同士なら別に笑って済ませられるが今は違う、いや、同姓でもちょっと、これはどうなんだろうっていうか、同姓じゃなくても女性には見せたくはないな。


「入るよー?」

「いや、ちょ、ちょっと待ってください! 支度をしたら下に向かいますので!」


 ドアのノブが回転しかけた所でフィーナさんはどうやら部屋に入るのを止めてくれたようで変わりに返事が返ってきた。


「うん、分かった。じゃぁ、先にご飯食べてるね」


 また、ご飯か……天丼ですね、いやこの世界に天丼は無いだろうけど……。

 とそんなこと考えてるより待たせているのだから、さっさと支度をして下に降りよう。

 服を着替え鏡の前で髪を整える。


「髪、結構伸びたなー」


 それにしてもこの体にも慣れたものだ。最初は元の髪よりちょっと長いだけの髪でも整えるのに苦労したと言うのに……。


「よし、行くか!」


 そう鏡に映る自分に声をかけ僕は部屋を出た。

 ドアを開けると下の方で何だか賑やかな声がするけど、フィーナさんとバルドかな?

 それにしては知らない声が聞こえるな、昨日は見かけなかったが別のお客でも居たのだろうか。


「すごい人が一杯だ……」


 席なんて空いてないんじゃないか? っと言うか大盛況だな。


「おう、ユーリ! フィーはそっちに居るぞ!」

「あ、ありがと!」


 ゼルさんに案内された方に顔を向けると、確かにフィーナさんがそこに居た。

 彼女もこっちに気がついたようで手を振っている。


「おはよう、フィーナさん」

「おはよう、ご飯食べたら買い物に行こうか?」

「はい、それにしても、すごい人気な店だったんだね、ここ」


 失礼かもしれないが、昨日の時点では人が客である僕とシアさんを含めて五人……寂れているのかと思っていた。


「まぁね、おじさんの料理は美味しいし、安いからね」

「確かに美味しかった、でも、まさかこんなになるとは……」


 改めて見渡すと帰るお客さんに合わせて入ってくるお客さん。

 顔ぶれは変わってはいるが席は満席だ。

 今、座ってる席はフィーナさんが確保しておいてくれたのだろうか? なんにせよこれだけ人気であれば座れるのはありがたい。


「昨日は帰ってくるなりバルドが暴れたらしいからね? 私が居ればすぐ抑えたんだけど、あの子相手じゃいくらおじさんでも止めるのは大変だから……それで、お客さん帰っちゃったみたいなんだよね」


 フィーナさんはそう言うと苦笑いをしながら頬をかく……。

 バルドが暴れたってもしかして僕の所為だろうか? いや、もしかしなくてもそうだろうな、多分。


「っとその話は置いておいてユーリ、一応聞いておくけど得意な武器ってあるの?」

「……えっと――」


 無い、よなぁ……剣道とかやってたわけでもないし、得意な武器と言われてもピンとこない。


「うーん……」

「その様子じゃ無さそうだね、武器屋で直接触ってみるしかないかな」


 お、お手数おかけします…………。


「じゃ、一旦この話は終わり、ユーリのご飯終ったら行こうか?」

「わかった、すぐに食べるよ」



 食事が終わり月夜の花亭からフィーナさんに連れられてやって来たのは、ゲームをやったことがある人ならお世話になるであろう武具店だ。

 店にはいくつかの鎧や武器が飾ってある……うん、こういう風景はゲームで見たことあるぞ。

 しかし、飾ってあるものも武器だし、これを持って暴れたりする人が居たら危ないんじゃないだろうか? あ、その前に飾っておかないと商品として意味が無いな……。

 でも、飾ってある武器を良く見てみると、刃が丸みを帯びていて、このままじゃ使えないみたいだ。てことはこの武器は売り物じゃないのか?


「フィーナさん、これ刃が丸くなってるみたいですけど……」

「あー、それは見本だよ前に暴れた人が居たみたいで、対処が面倒だからってわざわざ作ったみたい」


 やっぱり居たんだ暴れる人……しかも、対処が面倒だから見本を作ったって発想がすごいな……っというか刃が丸くても危ないことには代わりが無さそうだけど。


「おや、フィーナじゃないかそっちの子は新人かい?」


 奥から出てきた店主さんは女性だった。

 こういうところは筋骨隆々な男の人かと思っていたんだけど。


「まぁ、そんなところかな? ねぇ、リーチェ! この子に動きやすい服を後、武器は適当に……」

「適当? とは言ってもなぁ~アンタ得意な武器は?」


 ですよねー、だが残念ながら答えは決まってるんだよな……。


「えっと、武器持ったことない……」

「はぁ!? 持ったことないのに冒険者になろうっての!? バカなの? 死ぬの!?」


 うわぁ……どこかで聞いたような台詞を吐くなよ。


「仕方がないなぁ……とりあえず奥にちょっと武器を試せる場所があるから、そこで武器を触ってみな……ウチは生き残るための武具を扱ってるんだからね、流石にまともに扱えない武器は売れないよ」


 へぇ……それはありがたいな、実戦で使って才能がまるで無い……なんてことにはならないわけだ……フィーナさんが案内してくれた店がここで良かった。

 店主さんに案内されたのは一人が武器を振るうには十分そうな部屋だった。

 天井も高く作ってあるようでフィーナさんの大剣でも大丈夫そうだ。


「まずは剣だな……普通の長剣だ。振れないならそれよりも軽いものじゃなきゃ話にならないしね」

「随分ちっちゃい剣だね?」


 フィーナさんは持ってきた長剣を見ながらそう言うが……多分。


「いや、フィーナの剣は論外だから普通、精霊魔法頼りの森族(フォーレ)がそんな馬鹿でかい剣持たないから」


 やっぱりそうか、僕も思った。


「えー、でも私はこれの方が戦いやすいんだけどな?」

「ま、あんたが良いなら、それで良いんだけどね、それよりもえーっと君」


 そう言えば、まだ名乗ってなかったな。


「ユーリって言います」


 彼女は僕の名前を聞くと頷き剣を差し出してきた。


「んじゃ、ユーリ……とりあえず、この剣振ってみて」


 手渡された剣は思ったほど重くは無く、なんとなくゲームの通常攻撃のようにその剣を振るってみた。

 うーん、振ってみた感じもやっぱり思ったより重くは無いかな? 鉄の塊だしもっと重いと思ったんだけど。


「こう、かな?」

「……使えないわけじゃないとは思うけど……足元がふらついてるし、腰もへっぴり腰だね、はっきり言って下手でダサくて弱そう」

「っと言うかそれじゃ…………危ないね」


 酷い言われ様だ。

 そして、フィーナさんその無言の部分には一体どんな言葉が含まれているんだ? そして、否定をしてください。


「そ、そう言われても武器なんて本当に触ったことも無いから……」

「いや、君のは武器以前の問題だね、腰が入ってないから物を振り回してるだけにしかならない。下手すりゃものに振り回されてると言っても良い……子供のお遊びの方がよっぽどマシなぐらいだよ」


 酷い言われ様だ……僕は子供以下なのか……


「で、でも、ほら一応持てたから、ね? ユーリ落ち込まないで?」

「う、うん……」


 フィーナさん……優しいなぁ。

 美人だけど可愛いし……笑みを向けられるとこう、ドキドキするってあれ? 僕なんで今ドキッとしたんだろうか?

 僕の疑問なんてどうでもいいはずのリーチェさんは呆れているようで……。


「確かに持てたね、だからそれなりの筋力はあるんだろうし、ある程度の武器は扱えるだろうけど、今回は冒険やめて武器の扱いの練習を――――」

「「それは困る!」」


 彼女の提案になぜかフィーナさんも声を揃えて言ってくれた。


「ユーリはともかく……なんでフィーナまで」

「だって、魔物倒した証と記憶を持っていかないと私まで怒られそうだから!」

「誰に怒られるんだか……」

「それは、えっと……と、とりあえず初心者でも、使えそうな武器って他に無いかな?」


 そんな武器があれば話が早いけど無いだろうな。

 でも、僕は一応魔法と言うものもあるから本当に身を守る術として武器が必要なだけだ。

 ある程度、扱えればこの際小さなナイフや最悪お鍋のふたでも良いだろう……。

 ふた、いや盾だってそのまま殴ったり突進したりすれば立派な武器になる!

 というか元々盾は身を守りながら突進するための武器だ。

 だから使い方的には間違っていない、うん……強引な理屈だが間違ってない!


「初心者でも扱えて……ある程度、身を守る武器ねぇ………無いよ」

「そんなハッキリ言わなくても……ユーリが可愛そうだよ?」


 ありがとうフィーナさん……でも、確かに無いと思う……ん?


「あの、あそこにある弓って」

「弓? アンタねぇ弓って難しいんだよ! 弦は引けるだろうけど的に当てるのは練習が必要なの、そもそも弧を描いて飛んでいく――――」

「いや、弓で良いです。最悪使えなければ矢だけでも」

「はぁ?」


 僕が考えたのはシンプルだ。

 僕が出来ることでなおかつ役に立つ物、それは弓というより矢だ。


「最悪――魔法で矢を飛ばすよ」

「へ?」

「ちょ、ちょっと待って、あんた魔法使いなの? ていうかマテリアルショットで矢を飛ばすなんて聞いたこと無いよ! 普通は岩とかでしょ?」

「でも、不可能では無いはず。魔法の力であればまっすぐ飛んで行くから」


 つまり普通に弓を使うより扱いが簡単になるはずだ。

 ……魔法さえ暴走しなければ、だけど。


「魔法には色々使い方があるんだねー」


 なぜフィーナさんが感心するんだ? 精霊魔法を使えるんだから別に驚くほどじゃないと思うけどっていうか、この世界には武器を飛ばそうって発想にいたる人は居なかったのか?

 いや、多分いたんだろうけどやっぱり岩とかの方が威力があるんだろうなぁ……。

 後は昨日みたいに動けないってことにならなければ良いけど……今度は戦うってことを覚悟してるんだし大丈夫だろう……。


「とは言ってもあんた武器使ったこと無いんでしょ? リスクが怒られるぐらいなら諦めな」

「そんなこと言わずにお願いします!」

「私もついてるし、そんな危険な所には行かないから大丈夫。それに、誰だって最初はそうでしょ?」


 おお、フィーナさんナイスフォロー!


「………………」

「お願いっ! また材料持ってくるからさ、ね?」

「……はぁ、分かった。じゃぁ魔法用に多めに矢を売るよ、でも、ちゃんとした装備ぐらい買って行って」


 普通なら売るだけ売って後は知るか、だと思うのに良い人だな。


「分かったよ、ありがとう!」


 彼女の言っているとおり装備と道具に関しては妥協は一切出来ない、昨日お金余り使わなくて良かった。


「まいどあり~」


 装備を整え店を出たのはそれから暫らくしてからだった。

 見た目的には駆け出しの冒険者っぽくはなったのだろうか?

 これでとりあえずの装備と道具は揃えたことになる……とは言ってもお金を半分近く使ってしまった。

 あっちでもそうだったけど、お金って使おうと思うとすぐに無くなるんだよな、貯めたり節約したりするのは大変なのに……。

 まぁ、これでとりあえずは冒険の準備は出来たわけだが……。


「ところでフィーナさんこれから何処に行くの?」

「んー、近くの森に行こうかな蜜が取れる頃だし」

「蜜?」

「うん、比較的、大人しい虫型の魔物が溜める花の蜜だよ。甘いし、美味しいし、結構高く売れるんだ」


 それって、つまり蜂蜜だよな?


「あれ? でも、毒とかもってるんじゃ?」


 蜂だし……多分。


「良く知ってるね? 持ってることには持ってるけど、今回、行くところの奴はそんなに怖い毒じゃないよ? ちょっと腫れるくらい。でも、蜜を狙って他の魔物が来る可能性があるから丁度良いと思うよ?」


 腫れるくらいか……なら大丈夫なのか? 他の魔物と言うのも強く無ければ良いんだけど……具体的に言えばハチミツ大好きな熊さんぐらい温厚なら大歓迎だ。


「んじゃ! 取り合えず、出発しよっか?」


 心配する僕を余所にフィーナさんは笑顔でそう言って僕の手を引き街の門へと向かっていく。

 こうして、僕の初めての冒険は始まった。

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