プロローグ
「まずいな……忘れてた」
帰宅途中、俺は思わず口にした。
今月はかつかつだ……あまり金が使えないというのに、特売品を買い忘れてしまった……。
野菜が高くなってる今日この頃、十円でも安いのが欲しい所なのに……今から行っても間に合うか?
いや、間に合えば良し、間に合わなかったら諦めるしかない、チャレンジ精神は必要だ。
チャレンジ精神の使い方が間違っている気もするが、そうと決まれば行くしかない! ここからなら裏路地を通って行った方が早かったはずだ。
俺はそう考えると特売品を買いに行くために、裏路地へと足を踏み入れたところ、視線を奪われた。
別に変なことが起きているわけじゃない、ただそこに見慣れない店があったからだ。
「占い部屋……? はて、こんな所にこんな店出来たのか……うーん、何かの縁だし占ってもらうか?」
占いをやって貰おうなんて、生まれてからこの十六年という月日の中で一度も思わなかった。
「いやいや、でも野菜もなぁ……しかし、もう無いかもしれないのに行くのは体力の浪費になるしなぁ……」
俺が思い悩んでいると、店の中からのっそりとフードを深く被った婆さんが現れて何かを立てかけている……
目を凝らさずにもその文字は読むことが出来たんだけど、なんて言うか平仮名ばかりだなぁ。
書いてある内容はこうだ。
『おだいはきぶんしだい、むりょうから、せんえんまで』
気分次第って……しかし、千円かぁ……千円あればかなり贅沢な食事にありつける。
勿論、自分で作ると言う条件の物だが……。
それにしても、汚い字だ、しかもひらがなばかり微妙に不安でもある。
「うん、こっちにしよう」
でも、もしかしたら無料かもしれないし、面白い事が聞けるかもしれない。
野菜はスーパーに行った所で売り切れているかもしれない。
折角だし一回ぐらいやっておくか……そう思い裏路地にあったそこに足を向ける。
まぁ当っても当らなくて別に良い、取り合えずお願いしよう……。
「これ、絶対後で後悔するやつだよな……」
俺は自身の選択に苦笑を浮かべながら扉へと手をかけた。