アセンチュリオン
陵×冬華 というよりは、 陵+冬華 の話
その日は、のどかで平和な日だった。
――つい、さっきまでは。
【幸せな日常】
それが崩れたのは明らかに向こうのせいだった。期限の悪さを表に出して言の葉を紡ぐ。
「何しに来たんですか、陵さん」
「何しにって……お前の寝顔見に?」
ベッドの空いたスペースに座ってそう答えるのは、一年先輩らしい陵さん。……もうこの人にさんなんてつけなくていい気がしてきた。僕はというと、ベッドに潜ったまま、顔だけ出して答える。
「寝顔って……そんな趣味の悪い」
「そうか?俺はお前の寝顔眺めるの好きだがな」
この俺様め。そんな風に思いながら、同室の蘭君がどうしたのか知りたくなった。あ、いや、たしか今日は朝から出掛けていたはず。
「ほら、眠いんだろ。寝ろよ」
「あなたが来たせいで眠気も吹っ飛びました」
「ほう?」
ぎしり、とベッドが沈む。陵さんが乗ってきたんだ。
何してるんですか、と、上体を起こそうとして……顔の近さに驚く。
「な、何してるんですか」
「何って、眠くなること?……いや、暑くなることかな?」
真剣に、耳元で甘い声で囁かれて心臓が跳ねた。い、いや、イケメンにそうされてドキッとしない人なんて居ないよね!と自問自答していたら、ぽん。と頭を叩かれる。
「冗談だよ。ほら寝ろ。昨日も遅くまで【仕事】だったんだろ?」
「う……」
正論を言われてしまっては、寝るしかない。あやすように頭を撫でられるものだからか、睡魔はすぐに襲ってきた。
「ほら、おやすみ」
頬にキスをされて、額にもされて。
瞼におとされると、もう僕の意識は奥深くまで沈んでいた。
「おやすみ、俺の愛しい冬華」
……そう、陵さんが、言ったのをどこか遠くで聞きながら。