Fors
青藍の話
「は?悪魔が出た?」
【F o r s】
それはなんてことはない、ただの日曜日だった。
いつものように、起きて、本を読んで、午後からはアクセサリーショップで新作のアクセサリーをあさる。そんな日になるはずだった。
これから出かけようかとしていた時に、それは鳴った。
スマートフォンを見ると、そこには【車輪の輪】の文字が。
何だろう、と思って出てみると、聞こえてきたのは切羽詰まった声。
『青藍さん?き、こえ……すか?』
「あぁ、聞こえてる。どうかしたのか?」
『実は今、悪魔が出てて――』
助けに来てほしい、と。
仕方ないな、と思いながらも、出かける準備を切り替えて、すぐさま【車輪の輪】へと向かった。
助けに来たのはいいが、森の中で迷ってしまった僕はどうしようもなくなってしまっていた。いつもの剣を片手に、道を切り開きながらそれでもなお鬱蒼とした森を行く。
すると、右手の方から悲鳴が聞こえてきた。
木の間を縫い、悲鳴の上がった方へと移動すると、大きな角を持った悪魔がいた。
すかさず、背後を取って思いっきりジャンプする。そして落下の勢いを借りて、悪魔の首を切り裂いた。
血がシャワーのように降ってくるが、気にはしていられない。と、悪魔越しにそちらの方を見ると、明らかに安堵した表情の少年が立っていた。
「せ、青藍さんー!」
「なんだ、怖かったのか?」
「そりゃ怖いですよ!怖くないのなんて【色】持ちの皆さんぐらいですよ!」
ほう、と少年はため息をつく。僕もため息つきたいんだけどな。
悪魔を見てみると、その体はもうすでにどこかへと消えていってしまっていた。かわりに、そこには大きな黒水晶がぽつんと置いてあった。
「これは黒薔薇水晶ですね!」
「ぶら……なんだそれ?」
「アクセサリーなんかで使われる宝石ですよ!シルバー素材にも合います!」
「ほう……」
黒水晶を手に取り、光にかざしてみる。よく見ると、その表面には薔薇の模様が彫られていた。
後々知ったことだが、この水晶は貴重らしい。悪魔の体内でしか生成できない特殊な水晶で、悪魔が激減した今、高価なものになっているらしい。
それを、懐に入れると、座っていた少年を立ち上がらせて一緒に転移魔法を使う。
後に奇跡の巫女と呼ばれる少年の貴重で平穏な一日の話。