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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編置き場

約束の証

作者: 高倉 碧依

 ゆーびきりげんまん

 うそついたら

 はりせんぼんのーます

 ゆびきった……



 うす暗く、机と椅子だけが置いてある殺風景な狭い部屋の中、男は机を挟んで座っている女に聞いた。


「何故あんなことをしたんだ?」


 男の問いに、女は小さく微笑みながらもよくわからないというように首を傾げた。

 男はしばらく黙って女の返答を待っていたが、女は何も言わない。


「君が彼にしたことの理由を聞いているんだ」


 再度された男の問いに、女はそれはそれは幸せそうに微笑んだ。


「だって約束をしたから」

「約束?」

「彼が愛しているのは私だけ、だけど仕事のために好きでもない女と結婚しなくちゃいけなかった。

彼が私以外の女と一緒になるなんて、耐えられない。

だから私は彼と別れようと思ったわ。

だけど彼が嫌がるの。

愛してるのは私だけだと言って、別れたくないと私を抱きしめるの。

……だから、私は彼が約束を守るならと、条件を出した。

彼は私と約束をしたわ、私以外の女を愛さない。

たとえ他の女と結婚しても、その腕に抱くのは私だけ……」


 天井を見つめながら、歌うように話す女の瞳を、男はまるで硝子玉のようだと思った。

 何の感情も見えずに、ただただ目の前のものを映す硝子玉。

 それは、どこか不思議な魅力で男を惹きつけた。

 女はその硝子玉に男を映すと、うっとりとした表情で語る。


「だから私は約束の証を渡した。

痛みなんて感じなかった。

これで私と彼がいつも一緒にいられることが、嬉しくて仕方がなかった。

彼も喜んでいたのに……。

急に彼からの連絡がなくなったの。

私が何度電話してもつながらないし、メールの返事もなかった。

きっと彼の妻気取りの女が私達の事を知って、邪魔をしているんだと私にはすぐにわかったの。

彼が動けないなら私が逢いに行けばいい……。

だからあの日、彼の仕事が終わるのを会社の前で待ってたの。

私を見たとき、彼は目を見開いて喜んでいたわ。

逢いたかったと伝えたら、近くの公園まで私を連れて行って、情熱的に抱きしめてくれた。

彼の手が私の首に触れているときは、その幸福に酔いしれたわ。

だって彼が私を誰にも渡したくないと思っていると実感したんだもの。

でも、彼ったら途中でその手を離してしまった……。

それが悲しくて悲しくて仕方がなかったから聞いたの。

私のことを愛してる? って、

私だけを愛してる? って……。

泣きながら愛してると彼が言うから、なら私にも約束の証を頂戴? とお願いしたの。

家から持っていった裁縫鋏で彼から証を貰ったら、彼、嬉しくて泣いちゃって」


 コロコロと笑う女の口元を隠しているその手には、小指がなかった。

 女の話を聞きながら、歪なその手を見つめていると……男の気持ちは不思議と高揚していった。


「ねぇ、刑事さん。

私たちは約束をしただけ。

私たちの愛が永遠だという約束をしただけ。

それの何がいけないの?」



 ゆーびきりげんまん

 うそついたら

 はりせんぼんのーます

 ゆびきった……


 女が歌うと、ガタンっという音を立て、男の同僚が勢いよく部屋を飛び出していった。

 これでこの部屋には自分達二人だけ――。

 そのことに喜びを感じる男もまた、静かに狂い始めていた――。

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