表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どういうことなの……?  作者: クルト133
自分が終わり、自分が始まった春休み
9/18

どうにか丸く収まった?

どうぞ

 今、佐伯は俺の腕の中いる。さっきの口論の後に俺は佐伯を抱きしめ、そして佐伯は俺に抱きついている。


「……………………」


 いつまでそうしていただろうか、最初は胸にたまっていた物を全て吐き出すかのように泣いていた佐伯も、今は静かに俺の胸に顔を埋めている。そうやって佐伯が落ち着くと熱くなっていた俺の頭も冷えて冷静な判断ができるようになってきた。すると今まで気にしていなかった、いやどちらかというと気にしないようにしていた感触が感じられるようになってしまったようだ。


「あの……佐伯さん、できればそろそろ離れて欲しいんですが……」


「なんで? 思う存分甘えていいって言ったのは悠伎だよ?」


 いやまあそう言いましたけどね、ほら当たってるんですよ何がとは言わないけど。


「お願い、もう少しだけ、後少しでいいからこのままの状態でいて」


 そう言って佐伯はさらにぎゅっと抱きしめる力を強めてきた。そして腰には二つの柔らかい感触ががが


(やばい柔らかい銀髪からは何かいい匂いがするしそうだ無心になろう無心無心無心無心……)


「煩悩退散煩悩退散煩悩退散思考抹殺思考抹殺思考抹殺何も考えるな何も考えるな…………」


 呪詛のように言葉を並べて邪な感情を追い出そうとする。でもやっぱりおっぱい気持ちいい……ってそうじゃない!!


「ん、悠伎ありがと、もう大丈夫……ってどうしたの?」


「何も考え……あ、いやナンデモナイデスエエナンデモナイデストモ」


 あ、あっぶねぇー危うくトリップするところだった、やばいあれは一種の兵器クラスの破壊力がある。


「なんで挙動不審なのかよくわからないけど……まあいいや」


 挙動不審なのは誰のせいだと思ってるんだ、自分の今の容姿に自覚をもってくれ、これで動揺しなかったらそいつは男じゃない。


「そんなことよりも教えとかなきゃならない事がいろいろあるんだけど、何から説明しようかな……」


 そんな事とはなんだそんな事とは、俺の中での壮絶な本能と理性の戦いの時間を返せ。人の心を弄ぶだけ弄んでこいつは……能天気というか無防備というか。


「まずは学校の事なんだけど、戸籍とか入学とかの問題は病院があの手この手を尽くしてなんとかしてくれたらしいので普通に通う事が出来るそうです。本当によかったよ悠伎と同じ学校に通えて」


「なるほど、そこの心配はないって事か、よかったな佐伯」


 本当に嬉しそうな表情でそんな事を言ってくれる佐伯さん、やばい可愛い口では素っ気ないこと言ってしまったけど内心はもうウハウハです。え、えがおが眩しい。


「それと、俺の名前は佐伯じゃなくて斎花になったからこれからはそう呼んでね」


「ああ、わか……え? まじ?」


「うん、まじまじ大マジ」


 それはできれば早く言って欲しかった。


「いや言おうと思ったけど悠伎が焦って聞いてくれないから」


 うぐ、それ言われると辛いっていうか佐伯さん……いや斎花さんなんであなたはナチュラルに人の心を読んでるんですか、そして私の記憶が正しければ取り乱していたのは私だけではなかったような気がするんでせうが。


「う……そのことは忘れてください……今思い出すと恥ずかしい……」


 俺も恥ずかしかったから安心しろ、ていうかなんで俺がしゃべってないのに会話が成立するんだろうか?


「何か女になってから悠伎の思考が読めるようになった、なんでだろうね?」


 女って怖い。


「これ以上ここでグダグダしてたらいくら時間があっても足りないから次行くね? それでここからが重要なんだけど、あの俺たちが巻き込まれた事件って他の場所でも起こったらしいの」


 一瞬グダグダしてたのは俺だけのせいじゃないって突っ込もうとしたが、やめた。急にさえ……斎花の顔が真面目になったからだ。


「それで今の俺みたいに性転換した人が何人かいるみたいなの、犯人もまだ捕まっていないらしくて……」


「え!?」


 そんなはずは……あの時確か救急車と同時に警察も来て犯人達は捕まったはず、それなのになんで……


「あの時捕まった犯人達は雇われ主に従って行動しただけ、つまりはただの捨て駒だよ。真犯人は別にいる。」


「計画的犯罪ってわけか」


 捕まっても大丈夫な奴らを現地に赴かせたこと、それが数箇所で起こったこと、そしてゲームセンターの新機体の稼働日という男性が多くいる場所と日を狙ったこと、明らかに計画されたものだ。


「でも、それだと犯人の目的がさっぱりわからないような……?」


 計画はされているけど、特定の誰かを狙ったわけではない無差別襲撃。これだと犯人の目的は男を女に手当たりしだい変えたいというものになるが、そんなことをして犯人に何の特がある?


「そう、悠伎の言うとおり犯人の目的が分かっていない、だから犯人が今後どういう行動をとってくるかわからない」


 確かにその通りだ、相手の意図がわからないとこちらも動きようがない。


「だけど俺は否応でもこの事件に関わっていかなければならない、でも悠伎はまだ少し関わっただけだ。それでもこれ以上事件に深入りしたら悠伎まで俺みたいになってしまうかもしれない。」


 そう言ってさえ……斎花は一旦言葉を切って深呼吸をする、その表情は何かを覚悟したようなそんな力強い意思が見受けられた。


「俺と違って悠伎は完全には巻き込まれていない、まだ片足を突っ込んだだけの状態だ。でも今まで通りに俺と付き合っていたら否応なく巻き込まれるだろうなと思う。」


「……何が言いたい?」


 俺はそうさえ……斎花に問いかける、この時俺は少し威圧するような声になってしまった。


「引き返すなら今の内ってことだよ」


 斎花はその声に怯えることなく言い放ってきた、普段ならその声を聞いただけで動揺したり狼狽えたりする筈の斎花が。


「今なら何もなかったことにできる、知らなかったことにしていつもの日常に戻ることができる。でも……それでも悠伎が一緒に戦ってくれるというなら……俺の……わたしのそばにいてくれるって言うなら……その覚悟は……ありますか?」


 斎花から放たれる言葉は紛れも無く本気のものだとわかる、その言葉に込められた気迫に俺は一瞬たじろいた、がそれも一瞬のこと、そのまま斎花の目をじっと見つめる。これは拒絶ではなく、いわば警告。

斎花は俺のために今のことを言ったのだろうな、確かにこのまま斎花と一緒にいれば俺は事件に巻き込まれる事は間違いない。


「よし斎花、ちょっとこっちに来い」


「……………………?」


 しばらくお互いの目を見つめ合っていた俺たち二人だが、俺がそう呼びかけると斎花は怪訝な顔をしながらもこっちへ寄ってきた。そんな無防備に寄ってくる斎花に対して俺は


「二回も同じ事を聞くなばかもの」


「ふぇ……? ひぇいひゃいいひゃいまひゃでふかっひぇひゃなひてひゃないひへ!!」


 本日二回目の頬引っ張りが炸裂、こいつも懲りない奴だ。


「あのな、さっきも言ったと思うけど俺は斎花のことを親友だと思っている。親友なら一緒にいることに理由なんてない、それが親友ってもんだ。後な、今なら引き返せるって言うけど俺はもう完璧に巻き込まれてるよ、あの事件の時にちらっと見えたが一人か二人ぐらいは捕まえきれずに逃げてた、その時点で真犯人には姿が変わっている斎花より俺の方が顔はわれちまってるだろうよ。それにどちらにせよ俺はこの事件に関わるつもりだ、たとえ関わるなって言われてもな」


 そこで俺は息を吐き、大きく吸う、目の前にいるこの馬鹿にいい聞かせる言葉を紡ぐために。


「自分の親友がここまで思い悩むほど傷つけられたんだ、それに見合うお礼をしないと俺の気が済まない。」


「ひぇい?」


 俺のその言葉で斎花は面食らったような表情をしているが、俺としては何をそんなに驚いているのかわからない。当たり前のことを言っただけだ。


「そして、ありがとな、俺のことを心配してくれて、だけどそんなことより自分のことを心配しろ。まだ手が震えてるぞ」


「え?」


 お礼ととともに斎花の頬から手を話しつつそんなことを指摘する。斎花は今気づいたみたいなすっとぼけた表情をしていた、おそらく自分でも気づいていなかったんだろう。


「覚悟なんてとうにできてる、そうじゃなきゃここまで全力疾走してお前を説得なんてしに来ないさ。

さっきも言ったけどお前はひとりじゃない。だからな……ええっと…………これからもよろしくな、斎花」


 俺は途中で気恥ずかしくなり、そっぽをむきながら手を差し出す。これからも二人でどんな道のりでも共に歩んで行こうという、誓いが込められた握手をするために。


「うん……うん!!」


 斎花はその言葉を聞くとまるで向日葵のような笑顔を浮かべて、俺の手をしっかりと握り返してきた。今までの影をさした笑みとは違い、心からの笑顔が今の斎花の表情にはあった。


「ありがとう……これからもよろしく…………そして―――」


 斎花は俺の手を握りしめ、胸の前に持ってきて両手で優しく優しく包み込む。その感触に俺は思わずドキッとしたが、次の斎花の口から放たれた言葉にはそれの何倍もの威力があった


「大好きだよ、悠伎」


 眩しい笑顔とともに放たれたその言葉は、俺の思考を停止させるには充分すぎるぐらいの威力があった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ