クラスはどうしてこうなったの……?
ものすごいスランプでした、しばらくリハビリします。投稿がかなり遅れてしまって申し訳ありません…………
今、俺と悠伎は自分達の割り当てられた教室の前まで来ていた。この先に、一年間勉強や様々な行事を一緒に行い、苦楽を共にするクラスメイト達が待っている。待っているんだけど……
「ごめんもうちょっとまって…………まだ心の準備が」
「そう言ってもう十分ぐらい教室の前で立ちっぱなしなわけだが……そろそろホームルーム始まっちまうぞ?」
そうは言われてもコミ症の俺からしたら初対面の人が大量にいる新クラスに入るということは、いわば地雷が大量に埋まっている場所を裸足で歩くようなものなのだ。少しでもへまをしてそれを踏んでしまうと取り返しのつかないようなことになってしまう。
「いいから入るぞ、こんなところで二人そろって突っ立っていたら逆に目立っていまうだろ」
「それもそうだけど……しょうがない、腹をくくろう」
当然のことだけど俺達は教室の中に知り合いが一人もいない、それはこの教室には俺達のことを知っている人物がゼロだと言うことを示している。つまり……
「ファーストコンタクトを失敗するとすべてが終わると……」
「なんか大げさだな……当たり障りのないことを言えば間違いはないだろ……」
その考え方は甘い……悠伎は自己紹介の恐ろしさというものを全く分かっていないようだ。
「いい悠伎? まずクラスの自己紹介というのは一人ずつやるでしょ? そうしたらクラスの視線を全方向から受け止めるわけ、そんな状況だと緊張しちゃうじゃん?」
「誰でもそうだと思うが……何か問題あるのかそれ?」
はぁ……ここまで説明しても全くわからないとは……リア中にはわからない悩みだったね爆発しろ。
「だからさ、緊張して何も言えなくなるわけ、そしたらみんなはそれを見てこう思うわけだよ『ああ、こいつコミュ障のボッチだ』と……」
「それはさすがに被害妄想すぎるだろ!?」
それは悠伎が誰にでも分け隔てなく接することができる人間だから思わないだけだよ。普通何も知らない人がそんな行動起こしたら誰だってそう思うぞ、俺だってそう思う。
「というわけで……覚悟を決めて逝こうか……?」
「なんか発音がおかしく聞こえる……ま、まあピンチになったらフォローするし心配すんなよ!!」
悠伎は危なくなったら助けてくれる宣言をしているが、こういう時悠伎は半分ぐらいの確率で状況を悪化させることがある、信用できない。
「うん、期待しないでおくよ……」
そうして胸の中に一抹の不安を覚えながら、俺たちは自分の教室に入っていった。
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「……………………」
「その……なんていうか…………元気出せよ…………?」
今、俺は机に上に顔を張り付け、突っ伏している状態である。
「…………終わった……ボクの学校生活はもう終了してしまった…………」
「いやこれからだから!! まだ斎花の学校生活始まってすらいないから!!」
悠伎はこうやって励ましてくれているが、もうほとんど手遅れの状態だと思う……自分でもやっちゃったなあと自覚できるぐらいなんだ、他の人がどう思ってるかぐらい予想できるよ……。
「……もうマジ無理…………」
「ちょ!? 斎花さん気をしっかり持って!!」
なんでこうなってしまっているかというと、あの後、どことなくやる気のなさそうな担任の先生が軽い自己紹介と事務連絡を済ませた後、いよいよもってお待ちかね? の自己紹介タイムに突入したわけなんだけど……
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「それじゃあパッパパッパさっさとにいくぞー、次のやつもテキトーに自己紹介よろしく」
「あ……は、はいぃぃ!!」
俺の前の人がちょっとボケをみたいなのをかまして少し教室内が暖かい空気に覆われたところで、ついに自分の番がやってきた。なんか他の人の自己紹介よりかなり注目されているような気がしないでもないけど大丈夫、俺ならやれる、イメージトレーニングもばっちりだし何も恐れることはない。
「名前はむりゃっ……!!」
…………いきなり噛んだ……みんなに注目されている中で噛んだ……もうこの時点で恥ずかしくてなきそうである……おいこら悠伎肩がプルプル震えてるのが見えてるぞ。
「……………………え、えーっと…………」
やばい、今ので頭の中で考えていた内容が全部吹っ飛んで真っ白になってしまった。心なしか周りの視線が少し暖かくなったような気がする……
(だめだ何も頭に浮かんでこない……悠伎help me!!}
助けを求めて悠伎にアイコンタクトを送ると口パクと目線で……
ま・ず・は・な・ま・え・と・す・ん・で・い・る・ば・しょ・を・い・え
と返答がきた。
「む、村宮斎花………………高咲から……きま……した」
さっきのミスで動揺している俺は、かみかみになりながらもひたすら無心になることで恥ずかしさをごまかし、悠伎に言われたとおりに言葉を必死に紡いでいく。
つ・ぎ・な・に・い・え・ば・い・い?
いまだに頭が真っ白で何も考えられない俺は再び悠伎に口パクと目線で助けを求めた、最初に言おうと思っていたことなんて忘却の彼方へ飛んで行ってしまっている。
つ・ぎ・は・しゅ・み・と・か・よ・く・い・く・ば・しょ・を・い・え
「趣味は……ゲ、ゲーム……とかで……よくゲーセンに行ったり……します」
趣味といっても胸を張って言えるような趣味はないので、無意識のうちに一番無難そうな物を選んで言葉にしていた。周りの人たちも何人か反応していたし、どうやら順調に進んで行っているようだ。
(よし、頭から内容が吹っ飛んだ時はどうなるかと思ったけど、悠伎が予想外ちゃんとフォローしてくれたしこれで何とかなる)
そう思って俺は心の中でホッと胸を撫で下ろした、これで第一印象は少なくとも悪い方向にはいかない……はず。
さ・い・ご・は・な・に・い・え・ば・い・い?
そう思って俺はこの試練に終止符を打つべく、最後に言うべき一言を悠伎に問いかけた。俺一人ならどうにもならなかっただろうけど、力を合わせればどんな壁だって超えていける。一人は皆のために、皆は一人のために理論バンザイ。
さ・い・ご・は・な……
おっと、自分の心中で胴上げを始めていたら、悠伎が最後のメッセージを送信しようとしていた。これが終われば一年間で最初の試練が無事に終了する……さぁ……戦いを終わらせようではないか!!
い・ま・じ・ぶ・ん・が・お・もっ・て・い・る・こ・と・を・いっ・て・お・わ・り・だ
そして悠伎から送られてきた最後のアイコンタクトは、なんとも抽象的なものだった。
(今自分が思っていることかぁ…………なんかあったっけ?)
最近は事件の後始末のせいでドタバタしていたから、やらなきゃいけないことが多すぎて今の自分を振り返る事なんてほとんどしていなかった。
(なんかあったかなあ…………?}
なにかあったか頭の中を掘り起こしてみるが、考えても考えてもよさそうな案は浮かばず、ただただ空白の時間が過ぎていく。
(やばい……なにかいわなきゃ……なにか……)
いきなり口をつぐんだ俺を不審に思ったのか、そろそろ周りの視線にも訝しげな色が混ざり始めてきた。それに比例して俺の焦り度も増していく。
「ええと……」チラッ
俺だけではどうにも打開策が浮かんでこないので、悠伎に助けを求めることにする。え、なに他人に任せてばっかりじゃなくて自分で少しは考えろって? 自分で考えても碌な事になったためしがない。
そ・れ・は・じ・ぶ・ん・で・か・ん・が・え・て・く・れ
悠伎から再びアイコンタクトが送られてくるが、その返答はとても無慈悲で残酷なものだった、こいつ肝心なときに役に立たない……
(何いえばいいかわからないから聴いたのに、それじゃ意味ないじゃないか!!)
もうこれ以上の救援は見込めない、時間的にもそろそろコミ症判定をくらう頃合だろう。意を決してなにかをいうしか道は残されていない、何かいわないと!!
「ええと……その……まだこの体に馴れてないので……おかしな反応するかもしれませんが、よ……よろし…………あ」
このときは自分の言っていることをしっかりと認識していなかった、頭がこんがらがってなにも考えることができなかった。
ん? どういうことだ? この体? 他に体でもあるのか? ザワ……ザワ……
「え……いや……あ、あはは……」
「よくわからんがまあ終わりということでいいんだなー? じゃあ次のやつ頼むわー」
やってしまった……焦るあまり周りの人からしたらわけのわからないことを言ってしまった……しかも事情が事情だけに話しにくいから弁解することすらかなわない。
「えーっと、私の名前は~~~~……」
俺の後ろにいる人が自己紹介を始めたけど、今はそれを聞いている余裕がない。何とかしてさっきの発言を取り消す方法を考えるが、そんなものは思いつかない。
(これならまだコミ症判定喰らった方がマシだったなあ……)
最初からわかってたはずなのに、自分でも言ってたはずなのに…………
(初期印象って…………消えないんだよな……)
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「それじゃあ今日はもう解散だー、さっさと家に帰るなり、ここで騒ぐなり好きにすればいいぞー。それじゃあな」
あれから注意するべきことや業務連絡、ありきたりなことを先生がいくつか話して解散……という流れになったらしい。自分の状況を整理して考えることで精いっぱいであの後皆が話していた内容などは事務連絡含めてまったく覚えていない……というかは耳に入ってきていない。
「~~~~でさ~~」
「~~~~へぇ、それでそれで~~?」
あの後、悠伎もクラスのやつに呼ばれ、俺は自分の机の上で伸びていた。開始早々あんなことをやらかした俺なんかに話しかけてくる奴なんか存在するわけもなく、話し相手の悠伎も行ってしまった為にとても暇である。
「~~~~てなってね~~」
(はぁ……俺もあんな風に話すことができたらな……)
そうしたら最初のあんな失敗はなかったのだろうか? 今頃クラスの皆と話すことができたのかな……
「……ちょっといいかしら?」
「まぁ、そんなありもしない話をしてもしかたがないかぁ……」
第一実際俺がそんなに話せる人間だったらこんなことに困ってないだろうし……
「……無視しないでくれる?」
「…………え? お……ボクのことですか?」
そんな独り言をつぶやいていると、あんな自己紹介を聞いた後だというのに肩に手を置いて俺に話かけてくる勇者がいた。まさか話しかけられるると思っていなかった俺は、素の口調がのどの先まで出かかったがなんとか飲み込んでその話かけてきた勇者のほうを向いた。
そこには――――
「――――あなたに聞きたいことがあるの、ちょっと一緒に来てくれないかしら?」
――――漆黒の長い黒髪をなびかせ、深い海の底を思わせるような瞳でこちらを見つめる、美しい女子生徒の姿があった。
まえがきどうしよう……




