学校生活の始まりはどういうことなの…………?
ごめんなさい、いろいろと修正前の文章が混じってました。
「スカートよし、セーターよし、シャツは……見えないからわかんないけどたぶん大丈夫でしょ」
俺は今、鏡の前で自分の姿を確認し、身だしなみをチェックしている。
「はあ……やっぱ股あたりがスースーして変な感じがするよぅ」
今の俺の姿は下はチェック柄のスカート、上は……よく知らないけどおそらくセーターと呼ばれているやつを着ている。というのも昨日が春休み最後の一日で、今日は響音高校の入学式があるから当たり前のことなんだけどね。
「うーん……制服は特に変じゃないけど…………自分がこれを着ているって考えると違和感がひしひしと」
医者の話によると精神は身体に引っ張られるらしいからそのうち違和感も消えるって言ってたけど……無くならないなあ……
「髪もボサボサじゃないし、靴下もたゆんたゆんじゃないし……よし、これでばっちりかな!!」
髪がはねてないかとか、リボンはちゃんとまっすぐに結べているかとかの確認も終わり、朝ご飯の片づけなんかも終わった。
「さて、悠伎が来るまで何して待っておこうか」
いつもは寝坊寸前まで寝ていて悠伎にたたき起こされている俺だけど、昨日は早く寝たおかげでいつもより一時間くらい早く目が覚めてしまった。
「やることないなぁ……」
早起きは三文の得とかは言うけど、実際は得した気分になるだけで時間をもてあましたりするんだよなあ……
「……悠伎が来るまで寝てよ……」
そう言って俺はソファーにダイブする、まあ悠伎が来るまでは暇だし仕方がないよね。俺に暇を持て余させた悠伎が8割ぐらい悪い、そういうことにしておこう。
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「で、俺に全部責任を押し付けつつ、ソファーに寝転がったと……それも制服のままで」
「ボクは悪くない、暇な時間とお日様が悪いんや」
結局あのまま俺は悠伎が来るまでソファーで爆睡してしまい、しかも寝相でソファーから転げ落ちてしまったせいで整えていた制服や髪がぐちゃぐちゃになってしまった。おかげでいつもより余裕をもって起きたのに駅まで走っている状況です。
「今日こそ走らなくていいと思ったのに……しかもスカートだから走りにくいし」
前まではズボンだったから気にせずに走れたけど、スカートで意識せずに走ると見えてしまうために速度が落ちてしまう。何が見えてしまうかは俺の口からは言わない。
「走らなくちゃ間に合わないような時間になったのは誰のせいでしたっけ斎花さん?」
「ノーコメントで」
そんな軽口を叩き合いながら俺たちは駅の改札口を目指す、電車が出るまであと5分、ここからが勝負どころだ!!
「悠伎疲れた、おぶって」
スカートで走るのは精神的にしんどい。
「今おぶったら確実に遅刻するわ!! つかお前あんまり疲れてないだろ!!」
えー、か弱い女の子の頼みぐらい聞いてくれてもいいじゃないか、確かにそんな疲れてはないけどさ。
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「えー、このたびは皆さん、入学おめでとうございます。この響音高校では…………」
「いやー何とか無事に間に合ってよかったね」
あの後、目の前で閉まりそうになった電車の扉に悠伎を投げ入れ、悠伎がつっかえ棒の役割をまっとうしているうちに滑り込み、なんとか遅刻は免れた。
「俺は全然無事じゃなかったからな? あの時流れたアナウンスと突き刺さる周りの視線で身が縮こまる思いだったからな?」
そういえば確かにアナウンスで『駆け込み乗車は周りのお客様の大変ご迷惑となりますので、ご遠慮ください』と流れていたなあ、でもみんなも急ぎの用事があったらやっちゃうよね、駆け込み乗車。
「つーかあれ駆け込み乗車っていうのか……ダイナミックすぎるだろ」
「しょうがないじゃん、ああでもしないと間に合わないし」
入学式当日から二人そろって仲良く遅刻とか絶対に目立つし何としてでも阻止したかった。だから俺は悪くない……はず。
「というわけでして……この学校の特色は…………」
と俺と悠伎がどうでもいい無駄口をたたいてる間にも、響音高校が誇る校長先生らしき人の話はずっと続いていた。しかし悲しきかな、いったいこの中の何人の人が話を真面目に聞いているんだろう、初めの方は真面目に聞いている人もいたが、今ではほとんどの人が舟をこいだり端末をいじったりしている。まあ何が言いたいかというと……
「しかし長い……いったいどこまで続くんだろうこの話…………?」
校長先生の話って大体長いのがデフォルトだけどなんでなんだろうね? そりゃあ身分上の問題で話さなきゃいけないこととかあるのはわかるけどさあ……自分の家の盆栽の話とか間違いなく話さなくていいでしょ…………
「こればっかりは仕方ないな……どこの高校でも起こり得る恒例行事だし」
「それはわかってるんだけどね……ただちょっと気になることがあるというか……」
「ん?」
別に校長先生の話が長いことはそこまで不満はない、もともとそういうものだってわかってるし、こうやって話し相手もいるからそこまで暇なわけでもない。じゃあ何がさっきから気になっているかっていうと……
「なんか周りから少し視線を感じる…………様な気がする」
俺は昔に荒れている時代があったから周りからの視線には鋭いほうだ。直接じっと見てくる奴はいないけど、横目で俺の事をチラチラとうかがうような視線を向けてくる奴がさっきから増えている。
「ああ、おそらく話が長引いて暇を持て余した奴が増えたんだろうな、それで偶然斎花のことが目に入ったと」
「え? それでなんでボクが見られる事につながるの?」
ただ姿を見られただけで視線を集めてしまうとか、俺は天然記念物か何かですかと言いたい。俺なんか見ても暇つぶしにすらならないだろうに……あれか、悠伎としゃべってる音量が大きくて耳障りなのだろうか?
「はあ……いつまでもこんなんで大丈夫なのかこいつ……」
ごめん悠伎、俺には何が何だかわからないや。まあいいか、視線を感じるといってもせいぜい十人分ぐらいみたいだし、本当に偶々目に入っただけなんだろ……!?
「何!? 今の視線は……とても正常な人間が出せるようなものじゃない……」
今感じる殆どの視線には好奇の色が感じられるだけで、特に敵意やなどのマイナス感情は感じられない。しかし、さっき俺を一瞬捉えた視線は俺の体の自由を奪い、背筋を凍らせるには十分すぎる威力だった。まるですべての感情を抜き落とし、この世のありとあらゆるマイナスの色を混ぜ込んだ……そんな薄気味悪い視線、いったいどんなことがあったら人はあのような視線ができるのだろうか?
「ん、何か言ったか? さてはようやくこの視線の理由に気づいたんだな?」
「へ? あ、いやなんでもない!!」
引きつった表情で固まっていた俺を怪訝に思ったのか、悠伎は俺にそんなことを話しかけてきた。あの視線に気をとられていた俺はとっさに返すことができず、少し口ごもってしまう。
「なんかちょっと汗かいてるみたいだけど大丈夫か?」
「…………大丈夫、ちょっと朝走って暑くなったから汗かいてるだけ」
さすが悠伎こういうことには非常に鋭いが、今までの事で慣れている俺もそれに対して自然に返した。もしかしたらここで悠伎にあの視線について伝えたほうがいいのかもしれない。
(でももう見られている感じはしないし、そもそも俺の勘違いという可能性もあるし……)
しかし、あの視線はもう感じられないし、俺を本当に見ていたのかもわからない。もしかしたら俺の勘違いでまったくの杞憂かもしれない。これまでで悠伎には数え切れないぐらい負担をかけてしまっているのだ。これ以上あるかもわからない事なんかで悠伎の重しを増やしたくない。
「だったらいいけどな、何かあったらほんとに言えよ? 隠してたっていい事がないのはこの前のことでわかっただろうし」
「うん、わかってる。何かあったら伝えるよ」
そうだ、悠伎は何かあったら伝えろと言った。ならまだ事が起こるかもわからない事は伝えなくても大丈夫だろうと、俺はそう思った。
「しかし……さっきから何なんだ……この濃厚な敵意の視線は…………」
横で悠伎が何かをボソッと言っていたが、俺は自分を正当化するのとさっきの視線の持ち主を探すのに必死で、悠伎がこぼした言葉が俺に届く事はなかった。
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あの後、多くの人々を夢の世界へ誘った校長先生の話もやっと終わり、俺たちはクラス発表が掲示されている掲示板の前でクラスを確認しようとしている、しているんだけど…………
「もうちょっとで……みえ……みえ…………!!」
背伸びをしてみるも掲示板までに人のバリケードが作られていて掲示板が全く見えない、あくまで俺の背が低いわけではなく、周りの人が大きすぎるせいだ、もう一度いう、俺は小さくない。
「みえ……みえ…………!!」
あまりにも見えないもんだからジャンプして少しずつ確認しようと思ったら、悠伎に後ろから肩を押されて止められた。なんだよと思って後ろにいる悠伎に抗議の視線を向けると……
「ぴょんぴょん飛ぶんじゃない、別のものが見えちまうぞ」
「え?」
そんなことを言われた、見えるって何がだろう? そう思って悠伎の視線をたどってみると……あ、なるほど。
「パンツね、悠伎君のエッチ」
「せめてもうチョイ恥ずかしがって言ってくれ、真顔で言うとか女子力なさすぎだろ……」
「ボクが女子力高くても困るでしょ……」
この前から危機感を持て羞恥心を持てと悠伎から言われ続けているが、俺の中でそのような感情が湧き上がる様子はまったく見られない。やばいとは思うけど、改善仕様がないもんだからどうしようもない。
「ったく、ほら、俺が見てきてやるからここで待っててくれ」
いつまでも背伸びしてうーんうーんとうなっている俺を見かねて、悠伎は人ごみを書き分けて掲示板に向かってクラスを確認しにいった。
「うーん、やっぱり見えな…………!?」
すると悠伎が確認しに行った後、俺に少し降りかかっていた視線にまぎれて、さっき始業式で感じていたものと同質の視線が再び俺を捕らえた。
(どこだ……どこから俺を見ているんだ視線の持ち主…………!!)
俺は周りを見渡してその人物を探す。俺が変な動きをしたからなのか、はたまた初めから俺を見ていたのかはわからないが、俺に向けられた視線はそれなりに多く、特定するのは困難を極めた。
「おう、見てきたぞ……ってどうした? しきりに周りを見渡したりして」
「え……あ、ああちょっと周りの視線が気になってどこを見ているのかなーっっと思ってさ」
またしても視線の持ち主を見つけられなかった俺はとっさに嘘をついた、できればこの事を悠伎に伝えるのはその人物を特定してからにしたい。見つけないことにはこちらから動きようがない、今伝えても悠伎の神経が磨り減るだけだろう。
「それはお前を見ていたんだろうな……その証拠にお前の一言で全員目をそらしたし」
どうやら適当についた嘘は周りがうまく動いてくれたおかげで信じてもらう事ができた。その間にさっきまで感じられたすべてを凍りつかせる視線は、いつの間にかなくなっていた。
「ほら、そんなどうでもいいことは置いておいて俺達のホームルームに行くぞ」
「俺達の……って事は?」
「ああ、同じクラスだ」
これはかなりラッキーだ、悠伎と同じクラスならちょっとボロが出てもフォローしてくれるし、何よりボッチにならなくてすむ!!
「それなら早くクラスの行こう!! これから一年間お世話になる教室に!!」
「あ、おい!! ったく廊下を走るんじゃない!!」
「はやくはやく!!」
このとき俺はかなりテンションが上がっていた。基本人付き合いがうまくない俺は、おそらくクラスになじむ事は簡単にはできないだろう。もしかしたら一年間ずっとクラスで一人かもしれない……そんな事も覚悟はしていた。しかし、悠伎と一緒のクラスになった事でその心配もなくなり、これからの一年間が非常に明るいものに見えた。
「…………ちぃ……これは一筋縄ではいかないな…………」
そうやって舞い上がってしまったからだろうか? 俺はさっきの視線のことをすっかり頭の片隅に追いやってしまった。そして気付かなかった、気付く事ができなかった……その視線が俺だけを見ているわけではなくて、悠伎の首筋には一筋の汗が流れていた事に……
次からは気をつけます




