お買い物でどうしてこうなった
どうぞ
「えーっと……取り敢えずごめん……」
「いや……こっちこそ見てしまってごめん……」
あの後、寝起きで働かない頭を起こすために洗面所で顔を洗ってきて、その十分後ぐらいに完全に覚醒した。で、今悠伎と向かい合って反省中。
「いやぁ……いつもの癖でつい……」
「頼むから自分の容姿を考えて行動してくれ…………まあ役得っちゃあ役得だけど(ボソ)」
確かにさっきのはあまりにも無防備過ぎたとは思うし、実際に悠伎が機転を利かせてくれなかったらいろいろと危なかったし……今度から注意しないと。
「しかし、いくら中二のころ勇気を出してエロ本買ったはいいけどいざ読んでみると三ページぐらいで顔真っ赤にして、五ページで目を回して倒れたということまで知ってる仲でも、少しは恥ずかしくな……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悠伎がとんでもないことを言いかけやがったので俺は慌てて大声で奴の声を遮る、そんな俺の消したい黒歴史、最後まで言わせてたまるか!!
「わ、忘れろ!! そのことは忘れろ!! さもなくば今ここでお前の記憶を俺の手で抹消する!!」
「ちょ!! おいこら暴れるなあぶな……!! って今のは確実に殺す気だっただろ!?」
ちっ、頭を砕く勢いで渾身の回し蹴りを放ったが、ギリギリのところで躱されてしまった、おしい。
「本当に女の子としての自覚が一ミリでもあるのか疑問だ」
「余計なお世話だこんちくしょう」
こっちだってまだこの体になってから四日目なんです。そんな少ない日数で今までの男としての意識が消えるわけがない、いや、消えてたまるか。
「それで、何の用で呼んだんだ? まさかさっきのことが理由じゃ…………」
「ちょっとそこで黙って顔赤くしないでよ、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか」
今思い返してみると今朝の俺って相当恥ずかしいことしてたんだなと思う、しかし何故だろう? あんな姿を見られたのに、羞恥心や危機感といったものをあまり感じなかった。それどころかいつものことだと思い込んで当たり前と思っていた節すらある。悠伎の言うとおり少しは自覚を持たないと取り返しのつかないことが起こりかねないかもしれないが、こればっかりは今すぐ直せるものでもない。
「ふぅ……気を取り直してっと、じゃあ今日の要件を伝えるね? まずは……」
ぐぅ~~
軽く咳払いしつつ改めて話を切り出そうとしたら、俺のお腹からそんな音が出た。
「……………………」
「……………………」
き、気まずい。
「……と、取り敢えず、朝ごはんを食べよう」
悠伎の心遣いが目にしみる。やめろそんな微笑ましいものを見るような目で俺を見るなぁぁぁ…………
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「え? 服が欲しい?」
「うん、ほら俺って当たり前だけど男用の服しかないでしょ? だから必要かな~と思って」
あれから朝ごはんを用意して、いつものように二人で後片付けまで済ませ、いつもどおりの会話をしてさっきの気まずさを吹き飛ばしつつ今日の本題に入ることにした。
「なるほど、じゃあ俺はそれの荷物持ちをすればいいってわけか」
「いや、悠伎には俺と一緒に服とか色々選ぶのを手伝ってもらおーかと」
「あーなるほ……いやでもちょっと待て、俺女の服のことなんて全く詳しくないぞ?」
「大丈夫大丈夫、俺が服を着たのを見て似合ってるかどうかを言ってくれればいいよ、できれば似合いそうな服を適当に持ってきてくれたら嬉しいけど」
その俺の一言に悠伎は腕を組んで考え込む、が少ししたら顔を上げて
「まあいいよ、それくらいならできるだろうし」
と言ってくれた。さすが悠伎、話が早くて助かる。
「そうと決まれば早速買いに行こう、服もそうだけど日用品なんかも買わなくちゃいけないだろうし」
ちなみにここからデパートまでは徒歩十分ぐらいという場所にある、今から出かけたらちょうどいい時間帯になるだろう、そうと決まったら用意しなくちゃ。
「じゃあとりあえず着替えなきゃね、悠伎~着替えとってきて~」
家には男物しかないけど寝巻きで外に出るよりはましだろう。帰りは買ってきた服をそのまま着て帰ったほうがいいかな、そんなことを考えつつ寝巻きの上に手をかけ……
「テイクアップツー!!」
「わぁぁ!?」
ようとしたところで悠伎に取り押さえられた、やっぱり慣れないなあ。
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あの後、また出る前にひと悶着あり、悠伎からありがた~いお説教をいただくなんてこともあったが、今無事にデパートに到着した。女になってから外に出るのはまだ二回目で、周りの目が少し気になったりもしたが特に問題らしい問題も起こることなく、注目されたりすることもなかった。まあ今時銀髪なんて珍しくもなんともないし、当たり前っちゃあ当たり前なんだけどね。
「さて、デパートについたはいいが……時間が中途半端だな」
「昼ごはんにしては早すぎるし、かと言ってゆっくり選んでたらお腹減りそうだし……確かに中途半端だなあ」
只今の時間は午前十一時半を少し過ぎたぐらいで、お昼時にはあと三十分ほど早いかなーという感じの時間。先に昼ごはんを食べてもいいんだけど、朝が遅かったからあんまりお腹はすいてない。
「うーん、時間ももったいないし、あんまり腹も減ってないから先に衣服店に行ったほうがいいと思うんだがどうだ? さえ……斎花」
そうやって考えていると横から悠伎がそんな提案をしてきた、俺も全く同じ意見なので特に反論はないので頷く、が少し言いたいことができたので言わせてもらうことにした。
「それについては賛成なんだけど……そろそろ慣れない? 俺の名前呼ぶの」
別に二人きりの時だったらいいんだけど、こんなたくさんの人がいるような場所で名前を間違えられるといつかボロが出てしまうかもしれないし、そろそろ慣れてくれないと困る。
「そう言われてもなあ……やっぱり今までに染み付いた習慣をすぐに直すのは無理だ」
一度俺の名前を間違えずに呼べるように練習したほうがいいかもしれない、家で発声練習でもさせてみようかな?
「それと俺も前々から気になってて言おうと思ってたことがあるんだが」
「ん?」
「そんな容姿で一人称が『俺』ってなんか違和感ありありなんだが……直したほうがいいんじゃないか?」
「あー、そういえば」
確かに……普通女の子って自分のこと『俺』なんて言わないもんなあ……
「さすがにこのままじゃ無理があるよね……」
でもいきなり『私』なんて一人称はなぁ……うん、自分のことを『私』って言ってる自分を想像して軽く寒気がした。
「家に帰ったらそこらへんのことも考えなくちゃ、それより服だ服、早く買いに行こう」
「おっと、まごまごしてると本格的に選ぶ時間がなくなるな、早いとこ行くとするか」
この時俺はまだ知らなかった……この先に待ち受ける運命に……
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「さて、やってまいりました男の夢の楽園へ!!」
「おいこらそんなことをこんな場所で言うな、おもに俺が周りから不当な扱いを受ける」
今俺たちがやってきたのはデパートの中にある衣服店、その中でも婦人服などが売っている女性向けのコーナーの中だ。そこには当然女性用の下着も含まれていて、ヘタレな悠伎にはちょっと目に毒かもしれない。
「なんか今失礼なこと考えなかったか? すごい不快感に襲われたんだが」
「イエナンニモコレッポッチモカンガエテナイデスヨ?」
く、なぜコイツはこうもしょーもないことには鋭いんだ、そんな無駄なことに使うぐらいだったらもっと有意義なとこで使えこの鈍感朴念仁が!!
「また失礼なことを言われた気がする……まあいいか、さっさと選んでここから移動しよう。」
「居づらいのはわかるけど、悠伎目が泳ぎすぎ、そんなんだから変な目で見られるんだ」
いやまあ男としてその気持ちはわからんでもない(※あなたは女です)……なんか余計な茶々が入ったような気がするけど無視無視、けど悠伎は別に一人で来てるわけじゃなく俺が隣にいるわけだし堂々としとけば変な目で見られることはないと思うんだけどなあ……
「あとさっさと選べって言っても、サイズとかわからないから選びようがないんだけど」
「しまったサイズのことは全く考えてなかった……うーん」
悠伎も全く考えてなかったようだ、うーん困ったなあどこかでサイズを測るところがあればいいんだけど……
「お客様、なにかお探しでしょうか?」
「うん?」
すると、ちょうどいいところに店員さんが来てくれた。せっかくだからこの人に聞いてみよ……う?
「実はコイツの服を選びに来たんですが、サイズがわからなくてですね」
「ああ、それでしたら」
何故だろう、普通の会話で、特におかしいことは何もない。なのに何故かひじょーに嫌な気がする。さっきから悠伎との会話の間にちょくちょくこっちを見ている笑顔が獲物を前にした肉食獣の表情に見えるのはなんでだろう?
「サイズはこちらで測らしていただきます。それと、今のお客様のご格好は非常にふさわしくありません。ですので、服や下着などはこちらから選ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
店員さんの言っていることはとてもまともで、こちらとしても願ったり叶ったりな事なんだけど……なんだろうこの寒気、やっぱり嫌な予感がする。
「ああ、それでしたらぜひともお願いしたいです、斎花もそれでいいよな?」
「え、あ、う、うん」
俺の勘が一刻も早く断るべきだ、と伝えてくるが、特におかしい点は何もないのでつい反射的に了承してしまった。い、いや別に変なことは言ってないし、何もないよね?
「それではお客様、私と一緒にこちらへ来てください。そこにいる彼氏さんが驚くぐらいに着飾ってあげましょう」
「い、いや斎花と俺はそんな関係じゃないから……」
そう小さな声で否定の言葉を並べる悠伎、否定するならはっきりと否定しようよ……ほら店員さん笑ってるし。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、ではこちらになりますお客様」
まあ大丈夫でしょ、そう気楽に思って悠伎に下のカフェテリアで待っておくように指示し、俺は店員さんについていった。




