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序章
ヨーロッパを悠々と流れるライン河。そのライン河で暮らす人魚の中に、ローレライという女性がいた。
彼女は、秋に実った麦穂のような髪をせせらぎに揺らめかし、瞳は遠い故郷の深海を嵌め込んだように深い碧を湛え、その肌は貝が大事に育てた真珠のように白く滑らかで、人魚の中でも特に美しい女性だった。
彼女はひもじい家の生まれなのだが、その美貌から何処の誰と結婚するのかというのがみんなの話の種となっていた。
けれど、彼女はまだ恋愛というものを知らず、結婚というのもその内親が決める事だと思っていてなんの興味もなかった。
彼女の関心は、河を泳ぐ魚の煌めきや空を過ぎる鳥の囀り、岸辺に咲くそう多くない花々など、そういうものに向けられていた。
そんなローレライの一番のお気に入りは、海から来た行商の人魚から貰った綺麗な桜色の貝殻で出来た髪飾り。