バーコード
小林大輔。今年20歳の大学生。東京で一人暮しをしている。
今日もコンビニで週に3日のアルバイト。
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」が絶え間なく繰り返される。
だが、もう一つ繰り返される事がある。
──ピッ
──ピッ
バーコード。商品の値段を瞬時に読み取る。
小林大輔は、バーコードを読み取る作業が好きだった………。
大学校舎内。ここでも小林大輔はバーコードを読み取る。
──ピッ──今日の一限の授業、680円。
──ピッ──今日の弁当、1500円。
──ピッ──今日の友人との会話、525円。
アパートに帰宅しても、小林大輔はバーコードを読み取る。
──ピッ──今のテレビ番組、330円。
──ピッ──風呂の湯加減、420円。
何にでも値段を付けなくては気が済まない。
そんなある日、小林大輔の目の前に驚愕の物体が現れる。『ソレ』は、大学の帰り道に偶然見掛けただけだ。だが、小林大輔の脳内には今までにない数字が表示された。
──ピッ──……測定不可。測定不可。
小林大輔の生活は、ここから大きく変わった。
毎日『ソレ』の後を追い続けた。
そして、バーコードを読み取ってみる。
──ピッ──測定不可。測定不可。
その表示が出るたびに身体が震えた。
だが、『ソレ』を手にとることはしない。値段のわからない商品では買えない。
アルバイトをやめ、値段を付ける動作もなくなった。ただ、たった一つの『ソレ』にだけバーコードを毎日あてる。
結果はいつもどこでも同じ。
──ピッ──測定不可。測定不可。
小林大輔は、とうとう『ソレ』に手を伸ばした。値段がわからない、未知の商品を。
精一杯の誠意を込めて………。
【X月Y日の新聞より】
今日、午後四時過ぎ。
東京都Z市に住む女性(20)が、同市に住む同じ大学に通う大学生、小林大輔容疑者(20)に連れ去られそうになったところを、パトカーで巡回中の警察官に取り押さえられ逮捕されました。
調べによると小林容疑者は、数カ月前から被害者の女性を付け回し、女性は友人に
「ストーカーがいて困っている」と漏らしていました。
小林容疑者は意識が朦朧としており、麻薬をやっていた疑いもあるとして、取調べを受けております。
小林容疑者は、取り押さえられた時、次のような言葉を何度も呟いていたそうです。
「ピッ──僕の貴女への想い、100000000……200000000……300000000……上昇中。測定不可。測定不可………」
【W月Z日の新聞より】
自殺した小林大輔(21)は前日、次のような言葉を家族に話していました。
「──ピッ──僕の人生、0円………。」
彼には、昔からこのように物事やその日の出来事に『値段』を付ける奇妙なクセがあり、専門家はこれを『資本主義の生み出した病魔』と分析しており、今後もこういったケースが増えるのではと………。
──ピッ──
──ピッ──………
短編を主に書きます。興味があれば、「apple」と検索してみてください