そういう話
気付いたら砂糖吐いてました
「今日はいい天気だな」
「……ええ、そうね」
「もう立冬も過ぎたってのに、少し暑いくらいじゃないか?」
「……ええ、そうね」
「……あずさ?」
「……ええ、そうね」
「あずささーん?」
「……あ、え、な、なに?」
「いや、さっきからなんか上の空だけど……どうかしたのか?」
「な、なんでもないわ、慎。今日はほら、少し暑いじゃない? だから少しボーっとしてたっていうか」
「そうか? ならいいんだけど……何か悩みとかあるなら、俺で良ければいつでも聞くぞ?」
「え、ええ、そうね……むしろ、慎にしか出来ない相談があるし……」
「それなら聞くぞ? 役に立てるかは分からないけど」
「じ、じゃあ、その……言うけど……」
「うん、どんどん言ってくれ」
「わ、わた……私と、その……」
「うん」
「つ、つつ、付き合ってくれ……ない?」
「ああ、別にいいぞ。どこに付き合えばいいんだ?」
「……はぁ……」
「……え、何で溜め息?」
「何でもないわよ……。今日は雰囲気を変えてみたけど……やっぱり伝わらなかったか……」
「は? 伝わらなかったって……」
「あー、いーのいーの。なんていうかもう、私もこの流れに慣れてきたっていうか、予想通りだから」
「よく分かんないんだけど?」
「いーのよ、別に。慎はそんな風に抜けててくれれば」
「……なんか、バカにされてないか、俺?」
「そうね、今日は暖かくていい天気よね」
「ん、ああそうだけど」
「ならいいじゃない」
「何がいいんだよ……まぁいいけど」
「そうそう。慎のそういうところ、私は好きだよ」
「それはどーも。……で、付き合うって、どこに行くんだ? このまま制服で寄れる場所なのか?」
「そうね、本来の意味で言えば、もうこの時点で成立してるんだけど……」
「はい?」
「まぁ、買い物にでも付き合ってもらおうかしらね」
「買い物って……スーパーとかでタイムセールス?」
「高校生とは思えないほど主婦的な考えね。まぁ、そういうの、嫌いじゃないけど」
「昔から俺、料理とか好きだしね」
「知ってるわよ。幼馴染なんだし」
「だよな。……それで、真面目にどこに行くんだ?」
「あんたの家」
「俺の家? 来ても何もないぞ?」
「知ってる」
「じゃあなんで来たいんだよ……」
「冗談よ、冗談。半分くらい」
「半分?」
「気にしないで。とりあえず、ウィンドウショッピングでもしましょう」
「オシャレっぽく言ってるけど、それは特に目当てもなくブラつこうって意味だよな」
「ええ、そうとも言うわね。言わずとも分かるなんて、私たち息ピッタリね」
「そりゃまぁ腐れ縁だし。つか、結局いつも通りかよ。最近はよく、妙にかしこまって『付き合ってくれ』なんて言ってくるから、毎回どこへ行くんだか心配になってんだぞ、俺」
「私はあんたのそのニブさが心配になるわ。別の意味では安心するけど」
「別の意味?」
「そのままの意味よ。というか、どこに行くか心配って……私が毎回あんたをどこに連れてこうとしてると思ってるのよ」
「ん、そうだな……いきなり『海の向こうの明日を見に行きたい』とか訳の分からないこと言われて、俺のバイクの後ろに跨ったり……とか」
「それはドキドキするわね。私が」
「なんで発案者のお前がドキドキすんだよ」
「乙女心よ」
「すまん、もう少し噛み砕いて説明してくれないか?」
「それにしてもいいわね、バイクで海」
「いや良くないから。こっから海って、どんだけ遠いと思ってるんだ」
「いいじゃない。ガソリン代くらいは出すわよ?」
「や、運転すんのがメンドイ」
「……ヘタレね」
「悪かったな」
「いいわ、今さらそんな事気にしないし、そこも顧みれば長所だわ」
「さいですか。……それで、話し逸れまくりだけど、実際どこ行くんだ?」
「一泊二日の那須高原ツーリング」
「……出来ればさ、往復二時間に収まる場所にしてくんないかな? ていうかツーリングって、なんでバイクを出すことになってんだよ」
「流れ」
「そんな流れ、俺がぶった切ってやる」
「いいじゃない。バイクの後ろに女の子乗せるのって、男の子の夢なんだし」
「理想と現実は違うんだぞ?」
「じゃあ現実で私が抱きつこうか?」
「どうしてそうなる……」
「流れ」
「さいですか。……それで、本当にどこに行くんだ?」
「海の向こうの明日を――」
「却下だ」
「最後まで言わせなさいよ」
「させるかっつの」
「いいじゃない、海」
「寒いから嫌だ。あと海ってのは恋人たちのもんだ」
「今日は暑いくらいの晴天よ? それにそう言うなら、若い男と女が冬の海って、どこかロマンチックじゃない?」
「火サスチックだよ、俺の中じゃ」
「例えばどんな感じに?」
「あずさッ!」
「今更何よ!!」
「……俺が悪かった」
「……バカッ……寂しかった!!」
「この泥棒猫(裏声)」
「お母様……!!」
「みたいな感じかな。……って、いつまでお前は俺に抱きついてんだ」
「いいじゃない、別に。それに今の、どっちかっていうと昼ドラよ」
「あー、そういやそうだっけ……」
「ええ。昼ドラ先生よ」
「つかお前、よく俺に合わせられたな。……いや、それより離れてくんないか?」
「いいじゃない、別に。寒いんだし」
「暑いくらいの晴天って言ったのはどの口だ」
「この口。あとその口」
「分かったから、口と口を近づけるな」
「……嫌なの?」
「嫌っていうか照れくさい」
「そ。ならいいわ」
「何がいいんだか……。って、話し逸れまくってんだけど」
「そうね。何の話だったかしら?」
「えー、確かどこに行こうかって話だった気がする」
「海の向こう――」
「だからそれは却下だっての」
「どうして?」
「どうしてって、面倒だし」
「本当にそれだけ?」
「ああ」
「実は私のこと、嫌いとか?」
「それはない。嫌ってたら一緒に帰ったりとか、幼馴染なんてやってないっつの。ていうか何だその疑問は」
「たまにはそういう気分になるのよ」
「さいで。……で、幾度となく言ったけど、真面目の真面目にどこに行くんだ?」
「そうね、いい加減、私も話をはぐらかしたり、伝わらなかったって逃げるのはやめるわ」
「…………?」
「行きたいところ、付き合って欲しいところ、一杯あるわ」
「あー……出来れば今日一日で帰って来れる場所にしてくれないか?」
「すぐに帰ってこれるわよ」
「……どこだよ、それ」
「とりあえず、私と付き合ってくれない?」
「付き合うって、だからどこに?」
「ええ、分かってるわ。あんたのそういうニブチンで純真なところとか……好きだし」
「は?」
「付き合って。私と」
「…………」
「どこへ行くとかそういうのじゃなくて」
「……あ」
「なに? その間抜けた『あ』って」
「いや、すまん、その……もしかして、だけどさ」
「うん」
「これって、そういう話……?」
「……それ以外に何があるって言うのよ」
「…………」
「…………」
「ああ、うん。海、行く?」
「そうね、海は恋人たちのモノだものね」
「じゃ、行くか」
「うん」
「それにしても……まったく気付かなかったんだけど」
「気付きなさいよ、ばーか」
……それはある暖かい冬の日の出来事。
こんなん書いてる暇があったら連載してる方を更新しろよ、という罠。
それはさておき、短い話でしたが読んで頂きありがとうございました。少しでも「リア充爆発しろー」とか「お前ら結婚しろー」という気持ちになっていただければ幸いです。