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第3章 前編 「重くなっていく」

本日、第3章 前編・中編・後編 の3話投稿しています。

結婚4年目、私たちは母の実家での同居を始めた。


じーちゃんとばーちゃんの家に入り、夫と二人で暮らしていた生活から、いきなり四人での生活に変わった。


私は第一子を妊娠していた。


喜びと同時に、現実は想像以上に重かった。


同居が始まると、家事の量は一気に増えた。


二人の生活から四人の生活になると、洗濯も食事の準備も片付けも、比べ物にならないほど増えた。


私は当初、「手伝うつもり」でいた。

でも、気づけばほぼすべての役目が私に回ってきた。


同居を始めて間もない頃のこと。


夫の休みの日、夕食の準備をしていると、ばーちゃんが箸を並べてくれた。


けれど、夫の分だけがない。


夫が席に着く前に、私は慌てて用意した。


お茶の時間も同じだった。


湯のみが並ぶ中に、夫の分だけがない。


わざとなのか、ただの物忘れなのか、分からない。


でも、それは一度ではなかった。


座る時間はほとんどなく、朝から晩まで食事の準備、洗濯、掃除、買い出し、片付け……同じことの繰り返しだった。


ばーちゃんは自分で台所に立っていた。

でも鍋の火をかけたまま別の部屋に行ってしまうことが毎日のようにあった。


気づけば焦げ臭いにおいが漂い、鍋は真っ黒に焦げている。


危ないと声をかけても、「大丈夫」と言うだけで聞かない。

結局、私が後始末をすることになる。


焦げついた鍋を何度もこすり、洗う。

深いため息をつく。


料理も、作っても残されたり、捨てられたり、投げることもあった。


ある日、目玉焼きを投げ捨てられた。

もう、冷蔵庫には卵がない。

自分の分をあげるのも嫌で、投げ捨てた人には目玉焼きを出さなかった。


後日、そのことは言わず、私にだけおかずが無かったと叔母に告げ口された。

そして叔母から「何でばーちゃんにだけ出してあげないの?」と怒られた。


何が正解なのか、まったくわからない。


気持ちの整理もつかず、どうして私だけがこんなに苦しまなければならないのかと、頭が混乱する日々だった。


ばーちゃんの認知症も少しずつ進んでいた。


トイレに入ると便器の外に尿がこぼれていることもあり、服や体からは常にアンモニアの匂いが漂っていた。


時には、トイレ前でズボンを下ろしたまま寝ていることもある。


介護用パンツを勧めても、絶対に着けてくれなかった。


洗濯や掃除、消臭、片付けは膨大で、妊娠中の体には正直きつかった。


それでも叔母たちが手を出すことはほぼなく、口だけで小言を言うことのほうが多かった。


私の心は休まることなく、日々が流れていった。


一方、じーちゃんは穏やかで、私の味方でいてくれた。


畑仕事の合間の休憩、縁側でお茶を飲みながら話す時間だけが、少しだけ心を休められる瞬間だった。


ばーちゃんは、じーちゃんが誰かと楽しそうに話していると、目に見えて機嫌が悪くなった。


ご近所の人と立ち話をしているだけでも、不機嫌になる。


家族であっても同じだった。


その空気が重くて、私はじーちゃんとゆっくり話すことさえ、どこかで気を遣うようになっていった。


それでも、縁側で並んでお茶を飲む時間だけは、ほんのわずかに心がゆるんだ。


その瞬間だけ、家の重い空気から少し解放される気がした。


妊娠中の体調も影響して、次第に精神的余裕はなくなった。


少しきつい言い方をしてしまうこともあった。

すると、母や叔母から咎められ、自己嫌悪に陥る。


妊娠しているのに、誰にも気遣われない孤独感。


自分でも優しくできないことに罪悪感を覚える。


日常の中で、私の仕事は目に見えない。


鍋の焦げ落としや排泄の後始末、洗濯や掃除をしても、誰かに褒められることはない。


ただ、当たり前のように次の仕事が待っている。


終わったと思えば、また最初に戻る毎日だった。


結婚5年目、第一子を出産した。


しかし生活は何も変わらなかった。


出産で体力は落ちているのに、すぐに家事と介護に戻る。


ばーちゃんは赤ちゃんを抱っこしたがったが、一人で立つこともふらつき、よくつまずく。


それでも立ったまま抱こうとするので、私は「座ってからにして」と何度も伝えた。


危険だから、そのままでは渡せなかった。


椅子に座らせてから抱っこしてもらう。

それだけでも毎回一苦労だった。


妊娠中も出産後も、気が休まる時間はほとんどなかった。


育児と家事、そして介護が完全に同時進行になる。


赤ちゃんの泣き声が聞こえるたびに、家事を中断して対応し、ばーちゃんのトイレや洗濯も同時にこなす。


休む暇など、どこにもなかった。


この頃から、私ははっきりと感じ始めていた。


家を継ぐという選択は、思っていたよりもずっと重いものだ、と。


心の中では覚悟していたはずなのに、実際に生活が始まると、その重さに押しつぶされそうになった。


何をしても間違っている気がする。


助け合うはずの家族生活は、助け合うどころか、私一人が回しているように思えた。


夜、布団に入って天井を見つめながら、「今日、何してたっけ」と思う虚無感。


赤ちゃんの甘い匂いと、生活臭、洗濯や掃除で立ち込めるアンモニア臭が混ざった家のにおい。


全身が鉛のように重く、布団に横になっても体が休まることはなかった。


それでも、じーちゃんとの縁側でのお茶の時間だけ が救いだった。

ぬるいお茶をすすりながら、少しだけ心が落ち着く。


その瞬間、家の中の緊張や疲労を忘れ、深く呼吸できた。


けれども、私は知っていた。


これはまだ始まりに過ぎなかった。


妊娠中から始まった同居生活の負担は、赤ちゃんが生まれたことでさらに強まり、これから先、育児と介護、そして家事の無限ループが続くのだと――。

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