表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/37

第10章 前編 「帰りたい」

本日、第10章 前編・中編・後編 の3話投稿しています。

年末、父は背中を痛がっていた。


年齢もあるし、疲れだろうと、

そのときは思っていた。


けれど痛みは引かなかった。


正月の集まりには出られなかった。


そして正月早々、

救急搬送されたと母から連絡が入る。


義実家への挨拶を終えて帰宅した直後だった。


入院が決まった、と母は淡々と告げた。


まさか、ここまでとは思っていなかった。


翌日、父が好きな神社へ初詣に行く。


夫と子ども達と並んで参道を歩き、

健康のお守りを買った。


病院へ向かい、枕元に結ぶ。


父は嬉しそうに笑った。


「帰りたいなぁ…家に…」


ぽつりと落ちた声。


私は「すぐに帰れるよ」と答える。


そう言いながら、

胸の奥では別の予感が膨らんでいた。


長くなるかもしれない、と。


原因はすぐには分からなかった。


背中に膿が溜まっていると説明を受けた。


手術が必要だと言われ、

母と並んで、同意書にサインをした。


手術は行われた。


けれど回復は遅かった。


透析で落ちている体力が戻らない。


やがて、もっと大きな病院への転院が決まる。


転院先では面会制限が始まっていた。


コロナ禍で、

病室に入れる人数は限られている。


見舞いに行った日。


父は私を見て言った。


「誰…分からない」


冗談かと思った。


けれど目の奥は本気だった。


その瞬間、何かが崩れる音がした。


少しずつ回復する中で、

母からこんな話を聞いた。


父が、私に似た看護師を見かけて、


「この子、○○に似てるな」


と言ったらしい。


忘れられていなかった。


それだけで、少し息ができた。


やがて元の病院に戻る。


心臓が弱っていると説明を受け、

ペースメーカーを勧められる。


母と並んで話を聞き、同意する。


少しでも良くなるなら、

それでいいと思った。


面会は続けて制限されていた。


会えない時間が増えていく。


手術説明や手続きのときにしか会えなかった。


そのたびに、父は言った。


「帰りたい」


小さく、同じ言葉。


家に。

自分の布団に。

いつもの椅子に。


それが叶う未来を、

私はまだ想像していた。


ICUに入ることもあった。


医師に「覚悟を」と告げられる。


静かにうなずくしかない。


それでもICUから出られたとき、

ほんの少しだけ心が軽くなった。


回復の兆しと、不安は並んでいた。


どちらが本当なのか、

分からないまま。


入院から約6ヶ月。


深夜。


居候している姉から連絡が入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ