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第5章 前編 「二年だけ」

本日、第5章 前編・中編・後編 の3話投稿しています。

結婚9年目の春。

次姉家族が住んでいた借家が、取り壊されることになった。


老朽化が進み、大家から

「申し訳ないが…」

と告げられたという。


次の住まいは、決まっていなかった。


姉は父に相談し、

「新しく借りるお金なんかない」

と言ったそうだ。


しばらく実家に住めばいい。


そう言い出したのは、父だった。


あくまで一時的な同居。

立て直すまでの“つなぎ”。


その話を、私は父から直接聞いた。


その頃、父は透析に通っていて、昼間は家にいることが増えていた。

母と弟は仕事で不在。

私はまだ子どもが小さく、仕事の時間を調節していた。


母実家で息が詰まると、子どもを連れて実家に避難することがあった。

姉家族が来る前の、まだ静かな昼間。

そのときだった。


「居候することになる」

父は、先に私に話した。


そして、続けて言った。


「二年だけって言ってあるから」


二年経ったら、必ず出ていく。


「その間に金を貯めて出ていくように言ってある」


父は確認するように、ゆっくりと言った。


私はその言葉に、かすかな安堵を覚えた。


期限があるなら、耐えられる。

そう思った。


二年。

長いけれど、終わりがあるなら数えられる。


けれど――


その約束を知っていたのは、私だけだった。


母も弟も、「そんな話は聞いていない」と言う。

姉にそれとなく尋ねても、

「んー?」

と曖昧に笑うだけ。


私は、確かに聞いたはずなのに。

あの場にいたのは、父と私だけだった。


もしかして。


私が都合よく受け取っただけなのだろうか。


本当に「言ってある」と言ったのか。

それとも、「言うつもりだ」と聞き違えたのか。


自分の記憶が、少しずつ揺らぐ。


でも。


あのとき、確かに救われた気持ちは本物だった。


二年、その言葉があったから、私はうなずけた。


だからこそ。


その言葉が、胸の奥に小さな棘のように残り続ける。


二年だけ。


……ほんとに?


頼りにしていいのか分からないその約束を

私はたったひとりで握りしめていた。

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