7話
夏の日差しは容赦ない。
首筋を焼くような熱。
汗が目に入り、視界が滲む。
それでも玲奈は走る。
インターバル。
距離走。
坂ダッシュ。
ノートに書いてあるメニューを一つずつ潰していく。
誰に命令されたわけでもない。
褒められることもない。
(……それでも、やる)
走らなかったら何も残らない気がした。
その頃の同級生たちのSNS。
カラオケ。
ゲーセン。
プリクラ。
「今日も楽しかった♡」
「はやく彼氏ほしー♡」
画面を閉じる。
(……私は、ここでいい)
比べない。
羨ましがらない。
青春の1ページは人それぞれだ。
ただ、自分の呼吸と足音だけを信じる。
そんな駅伝に集中する毎日が続く中、たまに体育館裏や校舎の外に呼び出される事がある。
そういう時はいつも決まって「ごめんなさい。あなたに興味ないの。」と言ってすぐに断る。
今の私は告白される事など本当に興味が無かった。
ある日、雷雨の後のグラウンド。
水たまりがあちこちに残り、空気が重たい。
玲奈はシューズが濡れるのも構わず走った。
泥が跳ね、ふくらはぎに張り付く。
誰も見ていないから転んでも笑われない。
(……誰もいないからこそ、集中できる)
それでも――
立ち上がる。
砂を払ってまた走る。
稀に顔見せ程度に来ていた先輩たちは、完全に来なくなった。
同級生たちは、もう退部届を出したかのように部の話すらしない。
先生は、とっくの昔に存在しないみたいだった。
陸上部の駅伝は、形だけ残った。
それでも玲奈は毎日来た。
雨の日も。
猛暑の日も。
風の強い日も。
誰も来ないグラウンドに、一人で足跡を刻む。
(……私は、私のために走る)
誰かに認められたいわけじゃない。
ただ――
走る自分だけは、裏切りたくなかった。
夕焼けに染まる空。
一人で走る影が長く伸びる。
汗が頬を伝い、顎から落ちて砂に吸い込まれる。
呼吸は荒い。
脚は重い。
それでも心だけは、不思議と静かだった。
(……最後の大会まで……絶対に、走る)
誰も応援しなくても。
誰も期待しなくても。
私は、走る。
それだけが玲奈を立たせていた。




