1話
一年生の春
入学式。
校門の前で、鷹宮玲奈は立ち止まった。
スラッとした170センチ代の長身だが胸はやや主張してくる。
黒髪で耳やうなじが見えるフロント長めのショートカットで綺麗な顔立ちに切れ長の目。
朝の空気はまだ冬の名残を含んでいて、肺の奥に冷たく染み込む。
新品の制服は糊の匂いがして、肩にかかる感触が少し硬い。
目の前には、これから三年間通うことになる校舎。
白い壁に反射した光がまぶしく、思わず目を細めた。
足元には、散り始めた桜の花びらがまだきれいな形で落ちている。
誰かに踏まれる前の、ほんの短い時間だけ存在できる、儚い色。
(ここで、三年間)
無名校。
入部を決めている駅伝で名前を聞いたこともない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
玲奈にとって大事なのはただひとつ。
――ここで自分が走れるかどうか。
それだけだった。
入部する部活は陸上部の駅伝。
その日まではビックリするような事はあまり起きず、2、3回驚く事が起きたが学校生活や部活に問題ない範囲におさめた。
部活動紹介があった日の放課後。
廊下には派手なポスターや勧誘の声が溢れていた。
テニス部、吹奏楽部、ダンス部。
楽しそうな笑顔が並ぶ中、玲奈の足は迷わず校舎裏へ向かう。
その途中途中でバレー部やバスケ部などの部活から身長を見て声をかけられた。
グラウンドの隅に近づくにつれて、砂の匂いが濃くなる。
シューズが地面を蹴る乾いた音。
誰かの息遣い。
リズムのある足音。
フェンス越しに見えたのは、真剣な顔で走る先輩たちだった。
三年生が中心になり流れるように練習が進んでいく。
誰も無駄口を叩かない。
練習中にスマホを触る者もいない。
笑い声すらほとんど聞こえない。
全国に行けるほどの強豪ではない。
それでも、全員が“勝ちたい”と思っている空気がはっきりと伝わってくる。
玲奈はフェンスに手をかけたまま、しばらくその光景を見つめていた。
(……ここの陸上部ちゃんとしてる……)
その光景を見た玲奈の胸の奥が少しだけ熱くなった。




