第三話 救えない数
それから、
私は人を見る癖がついた。
駅。
交差点。
病院の待合室。
人が集まる場所ほど、
“それ”は見つけやすかった。
一人。
また一人。
濁りをまとった人間を見つけては、
距離を測る。
止められるか。
声をかけられるか。
手が届くか。
助けられる数は、
思っていたより少なかった。
理由は単純だ。
同時に、
複数の“死相”が見えることがある。
通勤ラッシュのホームで、
三人。
横断歩道の向こうで、
二人。
バス停の列で、
また一人。
私は、
立ち尽くすしかなかった。
どれか一人に近づけば、
他が見えなくなる。
全員に声をかければ、
不審者になる。
私は、
初めて知った。
救いには、
数の限界がある。
ある日、
小さな事故を目撃した。
自転車と歩行者がぶつかり、
転倒しただけの、
軽いものだった。
だが、
転んだ男性の周囲に、
微かに濁りが残っていた。
消えきっていない。
——間に合わなかったのか。
それとも、
助けるべきではなかったのか。
答えは、
見えなかった。
私は、
助けられた人の顔と、
助けられなかった人の背中を、
同じ数だけ覚えている。
その重さは、
等しくない。
救えなかった一人の方が、
ずっと重い。
この能力は、
選ばせる。
誰を救うか。
誰を見捨てるか。
選んでいるつもりはない。
だが、
結果として、
私は選んでいた。
その夜、
空港のロビーで、
私は立ち止まった。
出発案内の表示の前で、
一つの便だけが、
異様に濁って見えた。
搭乗ゲートに向かう人々。
その全員に、
同じ兆しがあった。
——多すぎる。
助けられる数ではない。
私は、
初めて理解した。
これは、
個人の善意で
どうにかできる範囲を
超えている。
それでも、
目を逸らすことは
できなかった。
私は、
立ち尽くしたまま、
表示板を見上げていた。
善と悪の狭間で、
数を数えながら。
第四話:嘘という選択




