第一話 見えてしまうもの
最初に見えたのは、
事故だった。
横断歩道で、
信号が変わるのを待っていた男が、
一歩踏み出した瞬間、
頭上に濁った影をまとった。
嫌な感じがした。
次の瞬間、
トラックのブレーキ音と、
鈍い音が重なった。
男は、
その場で動かなくなった。
周囲がざわつく中、
私は立ち尽くしていた。
——当たった。
そんな言葉が、
胸の奥で冷たく鳴った。
それは、
予感ではなかった。
偶然でも、
想像でもない。
人の周囲に、
うっすらと浮かぶ“色”が、
はっきりと見えたのだ。
生きている人間は、
安定した輪郭を持っている。
だが、
死に近い人間のそれは、
歪み、
濁り、
今にも崩れそうだった。
その日から、
私はそれを見るようになった。
事故に遭う人。
病に倒れる人。
理由もなく命を落とす人。
彼らの周囲には、
例外なく、
同じ“兆し”があった。
最初は、
目を逸らした。
気のせいだと、
思い込もうとした。
だが、
結果は必ず一致した。
見えた者は、
死んだ。
私は、
自分の力を
特別だとは思わなかった。
むしろ、
厄介だと思った。
何もできないのに、
知ってしまう。
それは、
罰に近い。
だが、
ある日、
考えが変わった。
——助けられるのではないか。
見えているのなら、
避けさせることも、
止めることも、
できるはずだ。
それは、
正義感というより、
焦りだった。
何もしなければ、
見殺しにしたことになる。
そう思った。
私はまだ、
このときは知らなかった。
この能力が、
人を救うためのものでは
ないかもしれないことを。
そして、
善意が、
善として受け取られない世界が
確かに存在することを。
私は、
善と悪の境界に、
足を踏み入れていた。
その狭間が、
どれほど深いのかも知らずに。
第二話:助けられた人




