オレが魔王に跪いた日
勇者ギルマノスは一人孤独に魔王城を突き進むが……。
オレは勇者だ。
神に選ばれ勇者から英雄となるべく鍛えあげてきた。
それは自分の欲のためじゃなく、この世界の者たちを護るためだ。
そして現在、魔王を倒すべく一人で敵陣にのりこんでいる。
仲間は居ない。
最初の頃はいたけど、オレについてこれる者が一人もいなかった。そう恐怖し逃げ出す者、強くて勇敢な仲間であっても死んでしまったりする。
その他にも思い出したくないことなどもあるが、こんなところだ。
魔王城の廊下を奥へと進んでいる。その度に敵が襲ってくるが、オレは剣をふるい一瞬で倒していった。
弱い……弱すぎる。ここは本当に魔王城なのかよ。
次々と現れる魔物を、アッサリと駆逐していく。だが段々と呆れてくる。
もっと早く魔王がいる場所に辿り着けないのかと思いながら襲いくる魔物を倒す。
暫く魔物の群れを倒していくうちに魔王の待つ部屋だと思われる立派な扉の前まできた。
スゲェー……こんな巨大で豪華な扉はみたことないぞ。
そう思いながら扉を押してみる。思ったよりも簡単に扉が開いた。
もっと……なんか仕掛けってないのか? そこまでする必要がないほど魔王が強いってこと……。
拍子抜けしながら部屋へ入る。中は黒と紫の二色で統一されていた。
扉から先まで敷かれている絨毯は黒っぽい紫色をしている。
その絨毯を歩き警戒しながら先へと向かい進んだ。
随分と広い……いや広すぎるぞ!!
あまりにも広すぎる部屋に体力を奪われ疲れ果ててくる。
魔王は……何処だ? これで居なかったら最悪だぞ。
先へと進んでいくと、やっと玉座がみえてきた。
それをみたオレは再び身を引き締める。
何時でも抜けるように手を腰に刺す剣の柄に添えて先にみえる玉座へと歩みをはやめる。
玉座の前まできたオレは絶句した。
「お兄ちゃん誰? ボクね……魔王のマオちゃんだよ」
そうそこには人間で云えば十歳ぐらいの子供が居て玉座に腰掛けていた。
「オレは……勇者ギルマノス・ハルゼアだ。君が魔王なのか?」
「うん、そうだよ。でも、まだ勉強途中なんだけどね」
オレの脳裏に今殺してしまえば楽だと浮かんでいる。だが、そんな卑劣なことをできる訳もない。
「お兄ちゃんって勇者なんだね。じゃあ、ボクを倒しに来たの?」
そう問われて余計に倒すなんてできないと思ってしまった。
オレには無理だ。
そう思い跪き頭を下げる。
「最初は、そのつもりだった。だが、オレには君を倒すことなんてできない。それなら、いっそ君の手でオレの命を絶ってください」
もういい……どうせ魔王を討伐したって無意味だ。
そう思っていると目の前に魔王であるマオが立っていた。
それをみたオレは覚悟を決める。
「なんで死のうとするの? お兄ちゃんは強いのに……これからも活躍するんだよね?」
その言葉にオレは唖然とした。
魔王とはいえ、まさか子供の口からそう言われたのだ。
「……活躍か、フッ! そうだな……四十五年も生きてきて敵わなかった夢だ」
「じゃあ勇者をやめて、ボクに色々教えてくれない?」
その言葉を聞きオレは耳を疑う。
「魔王の配下になれってことか?」
「うん、お兄ちゃんなら大歓迎だよ」
なぜか涙が出てきた。そんな言葉を言われたことがないから余計にだ。
でも一瞬、躊躇った。でも、このまま見逃されて何もできなかったよりもいいかもと思いなおす。
「うう……魔王とは思えないほどの優しき言葉。承知しました! このギルマノス・ハルゼア……命果てるまでマオ様にお仕えさせていただきます」
その後のオレは、マオ様に仕え魔族となる。そのおかげで何年、何千年と生き続けマオ様の最高幹部として支え続けた。
いや、それだけじゃない。
マオは女で、オレ好みのボクっ子だった。
そのせいではないが月日を重ねる毎に何時の間にか恋仲になり結ばれる。
それが良かったのか悪かったのか、オレが魔王となってしまったのだ。
だが勇者だった日々に比べれば充実していて楽しい。
「ギル……何をそんなにニヤけてる?」
「随分とオレ好みになってきたなって思ってな」
「勿論そんなの当たり前だ! ギルのために、ボクは何時も試行錯誤してるんだからね」
その言葉を聞くと、あの時のオレの決断は正しかったと思える。
そして、その後のオレは魔王として襲いくる勇者を倒し……いや追い払ったり味方につけたりした。
自分がそうだったように……。
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