男装麗人の私が恋愛に鈍感な令嬢に付きまとわれてますが、後ろの侯爵の視線が怖すぎる。
「サリィ様!」
ああ、今日も来たぞ。
その背後には滅茶苦茶目つきの悪い男も一緒だ。
「さあ、お昼を一緒に食べましょう」
「いや、私は先約があるから。すまないな」
「え~」
ちらっと背後の男を見ると頷いている。
よくやった。
私。
「じゃあ、また。ヒルダ」
腕を絡めてこようとするヒルダの腕をすり抜け、私は廊下をそそくさ移動した。
走ってはいけない。
ここは貴族学校。
私は一年生。
入学したらいきなり、一人の女生徒に付きまとわれた。
ちなみに私は女だ。
しかし身長が高くて、きりっとしている顔をしているため、よく男に間違われる。
スカートも嫌いだし、当主にも決まっているので、嫁ぎ先も探さなくていい。
なので、男子が着る制服を身にまとって入学した。
彼女に「男」を勘違いされたのは謝ろう。
しかし、その後しっかり訂正した。
が、彼女は付きまとってくる。
しかも彼女の幼馴染が最悪だ。
私が誘惑してるかのように、陰でなじられたことがある。
幼馴染は侯爵子息で、私は伯爵令嬢。
身分上逆らうことができない。
だけど、言い訳はさせてもらった。
しかし相手は納得していないようだ。
それなら、早く告白して、自分のものにしろよ!って思うが、二人が婚約しているという話はない。
なので、最近はどうにか彼女に会わない作戦を取っている。
「お、ルブランカ伯爵令嬢。今日もここでお昼か」
「ああ、邪魔する」
「いいぞ。別に。さあ、どうぞ」
「ありがとう。これ、ほんのお礼だ」
「おお、クッキー。美味しそう」
私は実はおかし作りが得意だ。
が、人に話すこともないので、自分が作ったなどと主張することもない。
ナインデル子爵子息は、美味しそうにクッキーを頬張っていた。
なんか嬉しいな。
自分が作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは嬉しい。
このナインデル子爵子息と会うようになったのは、つい最近だ。
ヒルダに会わないように避けていたら、いい場所を見つけたと思っていたら、ナインデル子爵子息が現れた。
彼の場所だったかと去ろうとしたら、引き留められた。
話も合ったので、ここを隠れ家にしてもらっている。
「見つめました!サリィ様!私も仲間にいれてください!」
とうとうこの場所もヒルダに見つかってしまった。
私は去ろうとしたのだが、ナインデル子爵子息はヒルダ、とその幼馴染の侯爵受け入れてしまった。
そういうことで四人で過ごすことになるのだが、この幼馴染最悪すぎる。
嫉妬しまくり、ナインデル子爵子息まで睨むようになったのだ。
私の堪忍袋は切れてしまった。
「侯爵。いい加減、子供じみた嫉妬をするのはやめてください!あなたはヒルダが好きなのですよね。だったら、ヒルダに告白して、愛を受け入れてもらってください!」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
無口な侯爵がやっと言葉を口にした。
「ば、馬鹿なこと。カール様はずっと私のことを見守っていただき、慈しんでくれたと思ってましたが、違ったのですね!それではどうして、私の傍を離れないのです!」
おお、ヒルダ。
気持ちには気づいていたのか。
それはそうだよな。
「わ、わた、わた。わたし、は緊張、すると、何、も、いえ、なく、なるんだ」
一応言葉にはなってます。
震えた声だけど。
「私のこと、どう思ってます?好きですか」
「も、も、もち、ろん!」
「わーい!」
ヒルダが侯爵カール様に抱き着き、彼はそのまま気を失ってしまった。
やばい。
とりあえず、この事件があってから二人は相思相愛になった。
だけど接近しすぎると、カール様が卒倒するので、微妙な距離は保ってる。
そして
「きゃー、カール様。だめですよお。睨んだら。私はカール様一筋ですから」
ヒルダはかなりやばい女になっているのだが、カール様はそれでいいらしい。
まあ、本人が幸せで、周りに迷惑をかけていなければいいかな。
そして私。
ヒルダを避けなくてよくなったが、昼休みはやはりあの場所に通ってる。
ナインデル子爵子息がいるあの場所。
落ち着くのだ。
「サリィ様」
「へ?」
名を呼ばれたのは初めてだった。
「俺の名前はジーク。そう呼んでもらえたら嬉しい」
「えっと、あの」
異性にこんな風に言われたのは初めて、心臓が早鐘を打っている。
痛いほど。
「サリィ様。入学した時からずっと気になっていたんだ。こうして一緒に話すようになって、気になるから好きに変わり始めた。俺は子爵で君より下の爵位だ。まるで君の爵位しか見ていないように見られるのが嫌だから、もし、俺が卒業まで首位を保持したら、結婚を申し込んでもいいか?」
………わからない。
ぶわっつ気持ちが溢れてきて、もうめちゃくちゃだ。
恥ずかしい、嬉しい。
なんだろう。あったかい気持ちだ。
「卒業まで時間もある。俺のことをもっとよく知ってもらいたい。これからもよろしく。サリィ様」
「は、は、はい」
まるでカール様のように途切れ途切れの返事をした。
だからカール様の気持ちが少しだけ分かった気がする。
それから友達関係を続け、三年。
彼は首位を三年間守り続けて、卒業した。
「サリィ・ルブランカ伯爵令嬢。ぜひ、私と結婚していただけませんか?」
根回しはすでにしてあり、両家の両親も賛成した結婚だ。
「よろこんで」
私は直ぐに返答し、ジークは飛び上がって喜んだ後、私を抱きしめてぐるりと一回転した。
目がま、回る……。
あと、恥ずかしく周りを見れない。
婚約期間を経て結婚。
ジークは私の家に婿入りして、当主である私を日々支えてくれる。
「私、恋のキューピットになっちゃったわ!」
ただ一つ難点は、ヒルダがそう言って、私とジークの馴れ初め話を広めることだった。
(おしまい)