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主人(マスター)と悪魔(メイド)の主従関係  作者: 睡蓮酒
序章 ~始まり、始まり~
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第7話 それは……多分椿の正体だったんだろうな

ルシフに縄で縛られ、椿は洗濯竿に簑虫のように吊るされていた。

「さて主さまや、この小娘、どうするつもりじゃ?女に生まれたことを後悔させてやろうか?」


ルシフは主に椿の胸を見ながら、すこし忌々しげに言った。


「いや、そいつはそんなことしたって悦ぶだけだ。っていうかしねぇよそんなこと、話を聞くんだ」

「ふむ、私も君にされるならむしろ大歓迎だ……緊縛プレイか……ぜひ君の欲望を私にぶつけてくれ」

「お前も乗るんじゃねぇよ……もう冗談はいいから、椿。俺の質問に答えろ」

「何でも聞いてくれ。ちなみに95、49、85だ」

「なんの数字かは聞かねえぞ」

「私のスリーサイズだ」

「聞かねえっつってんだろ」



「私、実は今日はいてな――」

「――椿――」

拓真が表情と声音が真剣にして話を遮ったので、椿は諦めたようにため息をついて、

「……分かったよ。どうせそんなものと一緒にいるんだから、私の言うことが信じられないなんてことはないだろうし、話させてもらおう」

「ああ、頼む」

「さて、まずはどこから話したものか……そうだな、では初めに、私のこの異様な力について話そうか」

「そうだな、じゃあそこから話してくれ」

「君は鬼の存在を信じるか?」

「は?」

突然の椿の言葉に、拓真は追い付けなかった。

「鬼だよ、鬼。赤いのが青いのに助けられて人間と友達になったり、犬と猿と雉を従えた男に退治されたりしている鬼。君はこの鬼が現実に存在しているということを信じるか?」

「まだ見たことねえからな、どちらかというと信じねえ」

「ふふ、実は君は鬼をもう見ているんだ」

「……まさか」

「そうさ、私だ。私は鬼。正確には鬼の血を継いでいるものだ」

「なるほどな、そんであんなでたらめなことができたわけだ」

「そう、私の、いや、綾乃桜の家系の人間の力は、一般人の百倍以上だと言われている。だから私はあんな音速を越える矢を放てるというわけだ。そして、裏で私たちは代々この土地の退魔師という役割を務めてきた」

「そうだったのか」

「……怖いか?」

「は?」

「今までつきまとってきた女が、実は人から外れた存在だったんだぞ?……君がもう近づくなと言えば、私はそれに従うつもりだ。私は君に嫌われるくらいなら、もう近づかないほうがましだからな」

椿の表情は暗かった。

「なに言って――」

「怖いだろう?近づきたくないだろう?気持ち悪いだろう?私はもしかしたら触れるだけで君を殺しかねない存在なんだからな。むしろ、いままでそんなことを隠して私が君に近づいていたことに怒りを、憎しみを感じるだろう?」

「そんなことは……」

拓真は言い切ることができない。

「あるだろう?だって……私は……鬼……なんだから……」

椿は涙声だった。

いつも笑みを崩さない余裕のある椿しか見ていなかった(むしろ椿がそれしか見せていなかったのかもしれないが)拓真は、かける言葉を必死に探すが見つからなかった。

だから……

「ルシフ」

「なんじゃ?主さま」

「縄を切れ」

「かしこまりました、主さま」

拓真の命令に疑問を持つことなく、そう言って、ルシフは風の刃を手のひらに生じさせ、軽く投げて縄を切った。

「な……?何をしているんだ?君は……」

拓真は理解できず呆然としていた椿の頭を抱えるように抱き締めた。

「え?……君は、何を……」

「悪い、お前にかけるろくな言葉が俺には見つけられねえ、だから、頭のいいお前が、俺の行動から察してくれ」

「……いいのか?私は鬼だぞ?いつ君を傷つけるか、殺してしまうかわからない、危険な存在なんだぞ?」

「知らねえよ、俺はお前を信じるよ。現にお前は、一回だって俺をきずつけたりすることなく、あんだけ俺にまとわりついてたじゃねえか」

「それは、私が君のことを好きで、君が私のことを知らなかったから……」

「だったら、ただ俺がお前のことを少し詳しく知ったってだけじゃねえか」

「でも、私は君を騙して……」

「椿……ありがとうな」

椿の言葉を遮って、

「お前は俺のために自分のそんな秘密を打ち明けず、俺なんかにずっと構ってくれてたんだ。なんで俺がお前を怖がったり、嫌ったり、気持ち悪がったりするんだ?お前はこんなにも、俺に優しくしてくれたんじゃねえか」

椿は、もう我慢できないといった風に、拓真の胸で、泣いた。

「ごめんっ……なさい……いままで……騙してきてっ……」

「ああ、ありがとうな、お前はよくがんばったよ、椿」

「うあ、ああ……うわああああああ……」

椿はとにかく泣いた。いままで無理矢理塞き止めてきたものを、全て吐き出すように。

それから椿は、30分は泣き続けて、しばらくすれば、すっぱり泣き止んで、

「ふふふ」

「……どうした?」

「惚れ直したよ、君には」

「そりゃどうも」

「……」

「ん?どうしたルシフ」

「……主さま、格好よかったぞ」

「そうか、ありがとう……で、なんでそんなに怒ってるんだ?」

「怒っとらんわ!主さまの阿呆!」

「?」

ルシフは少しだけ、さっきの拓真と椿のやりとりが羨ましかった。


もうちょっと続きます

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