第6話 それは……多分幼馴染みと悪魔の戦いだったんじゃないかな
拓真は覚悟を決めて、ゆっくりとドアを開けた。
「やあ」
「……本当に来たのか」
「もちろんだ、来るに決まっているだろう?私としては君の家にこのまま住み込みたいと思っているところだ」
「帰れ」
「ふふ、君は二言目にはそれだな、たまには他のことを言ってみてはどうかな?」
「失せろ、エロ女」
「はは、君はそうやって私を悦ばせてどうするつもりだ?誘っているのか?」
「誘ってねぇよ……それよりお前……なんだそれは?」
「ん?……ああ、巫女服だ」
そう、椿はなんと巫女服を着ていた。
しかも、椿のそれは、明らかに改造の施された露出度40%アップな代物だった。
「……ついに狂ったか?」
「何を言う、私は神社の娘だぞ?巫女服くらい何時でも着ている……どうだ?萌えるだろう?」
「……」
神社の娘が、そんな背徳的な巫女服を着るわけがないだろう……そんなことを拓真は心の中で呟いた。
「おや?君に巫女属性は無かったか?……ふむ、では今すぐ脱ごう」
そう言って――むしろ嬉しそうに――椿は巫女服に手をかけた。
「待て、わかった……ぶっちゃけ萌える」
「ふふ、ありがとう」
……いや、違う。聞きたかったのはそちらではない。真に違和感を感じていたのは―――「……その右手に持っているものと背負っているもの……
. . . . . . . . . .
その弓と矢はなんだ?」
「ふむ……そうだな、これの説明をする前に……君に聞いておかなければならないことがある」
「なんだよ」
瞬間、椿は拓真の胸ぐらに掴みかかって昼間のように顔を近づけた。
しかし、今回の椿の表情は糾弾するような恐ろしいものだったが。
「……!?」
「君、私に隠し事をしていないか?」
「心当たりがありすぎて何のことだかわからんな」
内心驚愕しながらも、拓真は冷静を装って冗談を言ってみた。
すると、椿は手を放して、
「そうだな……例えば……」
弓に背負っていた矢をつがえて、
「人外を自分の家に住まわせているとかなっ!!」
ルシフが様子を伺っていた庭に向かって放った。
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矢の後ろに発生している乱気流を感じられ
. . . . . . . . . . . .
る程の、音より速い一撃を―――
「な……!?」
そして、それが着弾した音。それは例えるなら巨大な鉄の塊を、高層ビルの屋上から落としたような音だった。
「ちっ……駄目か……」
しかし、椿はミスをしてイラついているような顔をした。
「……って、ルシフ!?」
拓真はルシフがいたことに思考が追い付き、ルシフのいた方向に走っていった。
「なんじゃ?主さま」
しかし、ルシフは事も無げに、いつも通りの雰囲気で、拓真に返事をした。
「大丈夫か?」
「うむ、安心せよ、あんなもの儂には届かんよ」
「そうか」
「君!早くそいつから離れろ!」
そう言って椿はまた弓に矢をつがえてルシフに向ける。
「おい椿、何を勘違いしているのかは知らんが、ルシフは……」
「……くそ、どうやら遅かったようだな……まずはあの女から……」
どうやら椿は早合点しているように、拓真は感じた。
「下がっておれ、主さま」
ルシフは拓真の前に出る。
「喰らえ!」
そう言って椿はルシフに先程と同威力の矢を放つ。
しかしそれは見えない壁のような物に阻まれ、ルシフには届かない。
それでも、椿は怯まず、どんどんつがえては放った。
それも、常人にはつがえているところが霞んで見えてしまうほどの速さで。
「ふむ、主さまや、あれは殺してもよいのか?」
「……よく分からんが、駄目だ、あいつは俺の幼馴染みだからな。出来る限り傷つけないようにして、あいつを拘束しろ。そんで話を聞く」
「かしこまりました、主さま」
ルシフは軽く拓真に礼をして、椿に向き直った。
「……くそ、なんて強い魔を……」
椿は肩で息をしながらも、弓を構えて、ルシフを見ていた。
どうやら矢もすでに底をつきそうになっているようだった。
「おい、そこの小娘よ、儂の主さまのいるところに向かってよくもあんなものを放ってくれたのう……主さまがあれを食らっていたら死んでおったぞ?」
「く……」
「本来なら儂が惨たらしく殺してやるところじゃが……よかったのう、主さまが寛大にもぬしを殺すなとおっしゃったから、死なずに済むぞ?」
「黙れ……私の大切な人に害を与える存在を、放っておくわけにはいかない」
椿は矢をつがえる。――今度は二本同時に――
「ふむ、確かに悪気があってこんなことをしているわけじゃなさそうじゃのう……ただ、少しばかり勘違いをしておるようじゃな、後でしっかり主さまとのことを説明してやるぞ」
「いくぞ……!!貴様を滅する……!!」
「やってみせよ」
椿は目一杯引き絞り……二本同時に……放った。
矢が着弾した衝撃で、地面が削れ、家の窓ガラスが割れた。信じられないほどの風が荒れ狂う。
そしてルシフは――
「……そんな……」
相変わらず、平然として立っていた。
「――動くな、小娘――」
ルシフがそう言って朱の瞳で椿を睨み付けると、椿は本当に動けなくなった。
「くそ、魔眼か……!?」
「悪い……なんて微塵も思っておらんが、拘束させてもらうぞ」
そうして、どこからか取り出した縄を持って、椿に近づいていった。
ルシフの圧倒的な力が、少しだけ垣間見えた日だった。