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主人(マスター)と悪魔(メイド)の主従関係  作者: 睡蓮酒
終章 ~神とか、天使とか~
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第56話 銀の死神と赤の少年

赤神は腰にぶら下がっているホルスターから、刃渡り十五センチくらいの大振りなナイフを二本取り出して、両手に握り締めた。足を肩幅より広めに開き、二本のナイフを胸の前で交差させてピタリと動きを止める。

 腰を落とし、いつでも動けるよう構えていたサリエルは、予備動作抜きで駆け出した。

 ゴッ! と爆発じみた音を打ち鳴らして、十メートルはあった距離を一気につめる。射程圏に赤神を捉えると同時に、疾走によってついた勢いをソウルシェイカーに乗せて、上段から振り下ろす。

 赤神は右のナイフをその刃と接触させ、その一点から滑らせるように地面へと受け流した。激しい擦過音が鳴り響き、互いの刃が鮮やかに火花を散らすなか、赤神はもう片方のナイフをサリエルの右肩に向かって突き出す。鈍色の凶刃が、サリエルの肩に噛み付かんと肉薄する。

 一瞬目を細めたサリエルはしゃがみこむようにしてなんとかそれをかわす。舞い上がった長い白髪が数本刈り取られたが、目もくれず、かがんだ身体をバネに、跳ぶようにして少し距離を取った。

 赤神は後退するサリエルに向けて両手のナイフを同時に投擲する。ソウルシェイカーを一振りしてそれらを打ち落としたサリエルの目には、新たなナイフをやはり両手に握り込んだ赤神が低姿勢から切り込んでくる姿が映った。

 切り裂く、突き刺すという機能を両方兼ねるナイフが二本、連携してサリエルを襲う。大振りで手数に欠けるソウルシェイカーだが、サリエルは刃と柄を使い分けて怒濤の連撃をやり過ごす。

 鋭い突きを素早く弾く。

 抉るような斬撃を柔和に受ける。

 挟むように振るわれた二本を退いてかわす。再びの投擲を軽く打ち落とす。

 赤神の攻めが切れ、二人は互いに距離を取って静止。そして次の瞬間には二人同時に駆け出した。両者同時に突撃したせいで、一際大きな衝突音を奏でながら、ソウルシェイカーと赤神のナイフがぶつかり合う。

 刃が交わり鳴る禍々しい金属音がむしろ心地よいほどに響き渡るが、余韻に浸っている暇はない。サリエルと赤神は視線を交わし、睨み合った。防御なんて度外視して、二人は全力で武器をぶつけ合う。鮮やかな火花が燦然と輝いては消え、刃同士が激しく、急速に交錯して、擦過音が重奏のように鳴り響く。

 そんな中、赤神が肘を引いてナイフを腰の辺りまで落とす。サリエルはこれがナイフを投擲する赤神のモーションであることを先の二回にわたる前例を見て知っていた。

 案の定投げられたナイフを事も無げに打ち落とし、次の攻撃に構えたが、赤神はサリエルとの距離を随分離していた。

「……同じ技は効かない」

「だろうね。僕もお姉ちゃんに同じ手が通用するとは思ってないよ、お姉ちゃんが実はあたまイイキャラだって知ってるからね。知識の方じゃなくて、学習能力や適応力が高いって意味で」

「……じゃあ、どうして」

「そろそろ本気出していこうかなって思ってさ」

「……」

 表情に笑みを浮かべながらも、翡翠色の瞳に狡猾な獣のような気迫を見え隠れさせる赤神に、サリエルはソウルシェイカーを握り直した。

 すると、赤神は準備運動でもするかのようにその場で足踏みを始めた。

「じゃあ、いくよ」

 赤神がそう宣告した瞬間、サリエルは脇腹に強烈な衝撃を受け、痛みに意識が追い付いた時には吹っ飛んでいた。

「……!? く、あっ……」

 二度、三度と地面に身体を打ち付け、どうにか持ち直して、自分に何が起こったのか確認する。

 忽然と姿を消した赤神は、さっきまでサリエルのいた場所に立っていた。つまり、一気に、なんてものではない。まさに一瞬で、サリエルにも反応できない程の速さを以てして、赤神はサリエルとの距離を縮めていたのだ。

 あまりにも急で、得体の知れない攻撃だったが、いつまでも止まってはいられない。痺れるような激痛を無理矢理に意識の外へと追い出し、サリエルは赤神に斬りかかる。上からの刃は横にかわされ、勢いを殺さずに放った横一閃は退いて避けられる。しかしまだ攻撃を止めることはない。赤神が何をしたのかわかっていないサリエルは手を緩めることができない。こうしている今でさえ、サリエルは赤神の瞬間移動について考えている。

 そして鎌を赤神に叩きつけるように振るう第三の攻撃は――突然に減速した。

「……っ!?」

 サリエルがそうしたわけではない。むしろ自分の最速を求めて鎌を振るったはずなのに、何故か密度の濃い液体の中にいるかのように腕の動きが鈍重になっているのだ。

「ほら、どうしたのお姉ちゃんっ」

 予想の外からやって来た事態によって散漫になったサリエルの注意力の隙をつき、ナイフが鈍色の輝きを発しながら、大気を切り裂き突撃してくる。サリエルは腕を動かすことを諦め、身体を翻し、間一髪のところで凶刃をかわす。さらにナイフが過ぎ去ると同時に、赤神の腹に向かって全力の蹴りを放った。

「ぐっ!」

 ナイフが避けられることが考えられなかったのか、赤神はまともにその攻撃をくらい、何歩か後ずさった。それがきっかけだったのだろう。金縛りにあっていたような腕の重みが消失し、自由に動かせるようになった。

 赤神はしばらく咳き込んでいたが、収まると、一度深呼吸をして、唇を吊り上げた。

「やるね、お姉ちゃん」

「……まだ材料が足りないけど、お前が速くなったり、私の腕が遅くなったりした能力の正体は、多分、」

 赤神の走る速度が急に上昇した。サリエルの腕の速度が急に下降した。つまり、それが表す赤神の能力は、

「速さを操る能力だよ、お察しの通りね。僕は"極限値域アクセルブレーキ"って呼んでるけど。あらゆる物の速さを上から下まで自由自在に操れるチートじみた能力だよ」

 サリエルの言葉を遮る形で、赤神は自己の能力を明かし、また先程のような足踏みを始めた。

「つまり、僕にかかれば」

 赤神の輪郭がブレた次の刹那、その場からまた忽然と姿が消えた。

「百秒を一瞬にすることも」

 声がしたのはサリエルの背後。赤神の高速移動を一度目にして知っていたサリエルは、反射動作のような素早さで左足を軸にして身体を百八十度翻し、バックダッシュで間合いを開こうとする。

「一瞬を百秒にすることも」

 赤神がそう呟いた途端に、サリエルはまたもぬかるみにはまったような感覚に襲われ、全力で後退していたはずの足の動作が鈍くなる。逃げることができなくなったサリエルは、突きだされたナイフをソウルシェイカーで叩き上げた。かん高い音を響かせながら大振りなナイフが赤神の手から離れる。

 サリエルは足が自由になったことを確認し、その場から三歩離れた。

 武器が弾かれたからか、赤神は追撃をせずに腰の辺りから五本目のナイフを取り出す。

「なんでもできる」

「……嘘。お前の能力には制約がある」

 赤神の身体がピクッと震えた。

「まず、一つずつの対象にしか使えない。そして、相当に集中しないと効果はすぐに切れてしまう。この短い間でこれだけ判った、まだ弱点が出てくるはず」

「ふぅん、すごいねお姉ちゃん。その二つに関しては正解だよ。まだ制約があるって考えたところも鋭いし……うーん、お姉ちゃんなら気づいちゃうかもなあ。ま、そうなる前にさっさと終わらせればいいんだけどさっ」

 赤神が再び消える。今度は正面。

 突く、受ける、斬る、受ける、突く、突く、受ける、受ける。

 鎌を振るう、流す、振るう、受ける、蹴る、かわす。

 応酬、応酬、応酬――応酬。

 互いにダメージを与えることなく、武器だけが不協和音を奏でるように交錯し、体力だけが消耗されてゆく。

 赤神の斬撃を受けながら、サリエルは赤神の戦い方の違和感について考えた。

 どうして赤神はもっと"アクセルブレーキ"を使わないのか。こうして応酬している中でも、使えば一方的な攻撃ができるはずなのに、何故かそうはしない。赤神の気まぐれ、戦いを楽しむためのハンデのつもり。その可能性も少なくない。

 しかし、そうではなくて、何らかの理由があって使えないとしたら、そこが紛れもなく――最大の弱点だ。

 それならば――

 サリエルは赤神のナイフを受け損なったふりをして、わざと懐を大きく開いた。もちろん赤神がそんな隙を見逃すわけがない。迷わず一歩踏み込み、サリエルの懐に進入し、容赦なくナイフを突き出す。

 そこでようやく、サリエルは以前エクスピールに使ったソウルシェイカーの能力を使う。形を変えるソウルシェイカーの刃が赤神の背中へと迫る。

 それはエクスピールに勝利した一撃。

 変幻自在の刃を背後から襲わせる反応不可のカウンター――!!

 しかし、エクスピール以上にサリエルを評価し、常に行動に気を配っていた赤神は、自らのナイフがサリエルに突き立つ前にソウルシェイカーに気がつき――回避しようとして、避けきれずに脇腹を浅からず裂かれた。

 避けようとした(,,,,,,,)

「痛っ!!」

 赤神は脇腹から噴き出す鮮血に顔をしかめながら、サリエルの懐から脱出した。額に脂汗をかき、呻き声を上げながら赤神はサリエルを睨む。

「その鎌にそんな能力があったなんてね……びっくりしたよ。でもそのとっておきも不発に終わっちゃったね。これで万策尽きたんならお姉ちゃんの負けだ」

「……どうして避けようとしたの?」

「え?」

「……あそこで"アクセルブレーキ"を使えばソウルシェイカーの刃は届かないで、お前のナイフが私を貫いたはずなのに。どうして?」

「それは、お姉ちゃんも言ってたじゃんか。集中してないと使えないんだよ、"アクセルブレーキ"は」

 赤神の表情に焦燥が浮かぶ。

「……思えば、お前の能力の使い時はおかしかった。初動から使えばいいのに、足踏みをしたり、三回目にしてやっと私の攻撃を止めたり……いわゆる動作の流れの中でしか"アクセルブレーキ"を使っていない」

「……」

 赤神は黙り込む。サリエルは構わず続けた。

「……多分、お前の能力は単純に"速さ"を操るなんていう使い勝手のいいものじゃなく。もっと限定的に縛られたもの。例えば――リズムを操る」

 赤神は黙り込んでいたが、思い出したように大袈裟な拍手をした。

「すごい、本気ですごいよ、お姉ちゃん。まさか本当に僕の能力を見極めるとは思わなかった。そう、僕の本当の能力名は"混声合唱メトロノーム" 速さじゃなくて耳が聴き取ったリズムを操る能力だよ。リズムを刻んでいるものじゃないと操れないっていう制約をごまかすために、敵には"アクセルブレーキ"っていう嘘の能力名を言うことにしてるんだけどね」

「……だから、こんな何もない空間に」

 サリエルは改めて周りを見渡す。

 何もない、ただ広いだけの、白い、静かな空間。こんな場所で赤神が待っていたのは、"メトロノーム"を使うためのリズムを聴き取りやすくするため。

「うん、ちょっとずるい気もするけど、これくらいは許容範囲内のハンデだよね。もともとは何もない静かな空間が僕に有利だなんて気づかれるつもりはなかったんだけど」

 赤神は肩を竦めて自嘲するように笑った。

「それにしても、結構まずいことになっちゃったなあ。僕の能力が、これで半分くらい使えなくなったよ」

「……私はもうリズムを作るようなことはしない。お前が私の速度を操ることはもう、ない」

「お姉ちゃんの速度を操れなくなったから、"メトロノーム"は半分くらい使えなくなったってのはそうなんだけどさ、それでも僕が万事休すってわけでもないよ。"メトロノーム"を見破られたから、逆になりふり構わずに本気が出せるし」

 そう言って赤神は両手のナイフを微塵の躊躇いもなく床に放った。

「……何を」

「ここからは無駄な雑音は本当に邪魔なんだよ、あれは聴こえにくいからね」

「……」

 赤神の奇怪な行動に驚いたものの、隙を作ることをしないように気を引き締め、サリエルは赤神の一挙一動に注視した。

「いくよ」

 赤神は軽く足踏みをして、"メトロノーム"で一息にサリエルとの距離を詰める。

 丸腰で射程内に入り込んだ赤神に、戸惑いながらもサリエルはソウルシェイカーを振るった。赤神は攻撃を捨てて回避に集中しているため、ソウルシェイカーをどれだけ振っても、全て紙一重で避けられる。

「それとさ、お姉ちゃんの速度はもう操れないって言ってたけど、正確にはそうじゃないよ」

「……私は動きにリズムをつけてない」

「そうだね、お姉ちゃんの動きにリズムはない。でもさ」

 赤神はぐいっとサリエルの顔に自らの顔を近づけた。

「いいの? 僕をこんなに近づけたら聴こえちゃうよ――心音」

「――っ!?」

 赤神の宣告にとてつもない怖気を覚えたサリエルはソウルシェイカーをいっそう激しく振るった。しかし、赤神にはどれだけ振るっても全く当たらない。まるで風に舞う綿毛のように、ふわりふわりとかわされる。

「……っ! "円月輪ムーンサルト"ッ!」

 一帯をまとめて切り裂く攻撃は流石にその場では避けられないと判断したのか、サリエルが溜めの動作に入っている間に赤神は"ムーンサルト"の届かない位置まで後退した。

 "ムーンサルト"が荒ぶる竜巻のような風を巻き起こす。それが収まったときには、肩で息をしているサリエルが苦々しい顔で立っていた。

「惜しかったなあ、もう少しで聴こえたのに」

「……心臓のリズムを、操るつもり?」

「そ、もしも心臓のリズムを狂わされれば、ひとたまりもない。まあ、殺す気はないから、気を失う程度の時間心臓を止めるつもりだよ。一秒もあれば気が遠くなるには十分」

 一秒。

 赤神に懐に入られてから、一秒。

 それがサリエルの、デッドライン。

「これでわかったかな? 僕はまだお姉ちゃんの速度を操れるって言った意味」

「……」

 黙りこんだサリエルに対して、赤神はなぜか少し悲しそうな、躊躇っているような表情を作った。

「お姉ちゃん、氷室兄はさ、多分お姉ちゃんたちには興味がないと思うんだ。あくまでも天村拓真に何かをしに来たってだけで、お姉ちゃんたちに何かをするつもりはない。だからさ、しばらくここにいない? ここにいて、氷室兄と天村拓真との決着がつくのを待ってようよ。そうすればお姉ちゃんの心臓なんか止めなくてもいいんだから。少なくとも僕たちはこれ以上傷つかなくて済む」

「……嫌」

「どうして」

 赤神の表情の端に苛立ちが表れる。

 赤神は「あれは聴こえにくい」と言っていた。つまり、一度は"メトロノーム"で誰かの心音を操ったのだろう。その時の相手を殺してしまったのかどうかは判らないが。どうやら赤神は"メトロノーム"で心臓を操ることに積極的ではないようだった。

「……拓真が傷つくかもしれない。だったら、ここに留まっているわけにはいかない。私は拓真のメイドだから」

「……そっか。まあ僕もお姉ちゃんと同じ立場だったら、僕なんかぶっ倒して助けにいくだろうけどね。ああ、でも無理か。どうしたって僕は倒せないんだから」

「……私は次でお前を倒して、拓真の所へ行く」

 サリエルはソウルシェイカーを初めから溜めの状態にまで運んで、構える。

「僕も、次でお姉ちゃんの心臓を止めて、ここで倒れてもらう。氷室兄の所へは、行かせない」

 赤神は足踏みを始める。

「終わりにしよ」

「……来い」

 赤神が消え、今度は小細工はせずにサリエルの正面に現れる。

 サリエルがソウルシェイカーを振るう、かわす、振るう、かわす、振るう、かわす、振るう、かわす。

 そして、次の攻撃を赤神は――ナイフで弾いた。

 いつの間にかナイフを握っていた赤神にソウルシェイカーを弾かれ、サリエルに隙ができてしまう。赤神はそこに忍び込むように付け入る。ナイフを捨て、ソウルシェイカーを、サリエルと同じように握った。これでサリエルはソウルシェイカーを振れなくなった。

 あとは赤神が耳をサリエルの心臓に近づけるだけで、赤神の勝ち。

 心臓の音を聴くために、声を出すわけにはいかない赤神は、目でサリエルに告げる。サリエルも赤神と視線を合わせる。


――僕の勝ちだね。

――ううん、お前の負け。


 サリエルは、肺に空気を限界まで満たしていた。

 そして――

「……っああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 爆発させるように、叫ぶ。

「―――――――――――!!」

 絶叫、咆哮、疾呼、歓呼、大喝、咆吼、叫喚。

 何もないだだっ広い空間を満たす、大気が震動するほどの大音量で、サリエルはひたすら叫ぶ。

「聴こえな……いっ!?」

 心臓の音なんて――聴こえるわけがない!

「ああああああああああ!!」

 サリエルは驚愕に身体を硬直させていた赤神の下顎に、全力でアッパーカットを打ち込んだ。ゴスッと生々しい音をたてて、赤神のその小さな体躯が吹っ飛んだ。

 赤神は仰向けになって地面に転がる。

「く……あ……お姉ちゃんが、そんな大きな声を出すなんて、予想外だったよ……」

 下顎にダメージを受けたおかげで、脳が揺れているのだろう、ろれつの回らない口調で赤神は言った。

「うーん……絶対、勝てると、思ったんだけどなあ……」

「……"メトロノーム"が聴力に頼るものだとお前が言っていなければ、私はあんな勝ち方はしなかった」

「言っていなければ、負けていた……とは、言わないんだね……」

「……なりふり構わない、殺すつもりの戦い方をすれば、多分私は誰よりも強い」

「誰よりもって……」

「……ソウルシェイカーの、"魂を刈る死神の鎌"としての能力を全開にすれば、相手が何処にいようとも、一振りするだけで当たる当たらない関係なしに命を刈り取ることが出来る。私はこの能力がすごく嫌いだから使わないようにしてるだけ」

「はは、なんだそれ……"アクセルブレーキ"なんかとは、比べものにならない、くらい……チートな能力じゃん……」

 流石に脳震盪で意識を保つことは出来なかった赤神は、その場に倒れ伏した。

 すると、白い空間がメッキが剥がれてゆくように砕け散っていき、サリエルは気がついたときには一年十組のサリエルの席に座っていた。白い人形の対処に出払っているため、教室には誰もいなかった。

「……私にはまだやることがある。だから、先に行く」

 サリエルは誰に言うでもなくそう呟いて、席を立った、が。突然にピタリと動きを止めたかと思えば、プルプルと身体を震わせ、力が抜けたかのようにストンと再び席に座った。

「……うう」

 滅多に感情を出さないサリエルが、今にも泣き出してしまいそうに、端正に整った顔をくしゃりと歪めていた。真っ赤になった顔に浮かぶのは、羞恥。

「……大声を出すのは、恥ずかしいから、嫌い」


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