章間 其の終
何のことはない、ただの月曜日。
学生が授業を受けているというのに、理事長、天宮報はコンピューターと将棋を差していた。
「ここは……こうだね。うん、楽勝楽勝♪」
天宮の10秒とかからなかった一手により、画面には大きく「詰み!」と表示される。
天宮の相手は世界最強といわれている将棋ソフトだったのだが、天宮は一手も迷わず、躊躇わず、間違えず、で恐らく最短であろう勝ち方をしていた。
「さ、て、と。次は何をしようかなぁー」
天宮が座ったまま伸びをしていると、電話が鳴った。
「……」
天宮は煩わしくも思ったが、一応理事長であるという自覚があるのか、とろとろとした動きで受話器を取る。
「はーい、天宮でーす」
『おひさしぶりやなあ、報ちゃーん』
「!?」
聞こえたのは、良く通る声をした関西弁。
天宮の識っている、いや、知っている人物の声。
『ん?無言やけど、もしかして報ちゃんじゃなかったんか?』
「……いいや、ボクが報ちゃんだよ」
天宮の受話器を持つ手に力がこもる。
『そうか、それはよかったわ。もしかしたら天宮という報ちゃんとは違う同姓の人間に偶然繋がってたんかと思てしもたやん』
「んー、まあそういう可能性もなきにしもあらずだよねー」
『なんや、ずいぶん動揺してるみたいやなあ、天宮ちゃん』
「そりゃあまあ、君から電話がかかってくるなんてボクでも識り得なかったことだからねー」
『変わらへんなあ、全然変わらへんわ。天宮ちゃんは。識らないことに関してはえらく弱いとことかが』
「君にそんなことを言われる筋合いはないよ。それで、何の用?君がボクに用事なんてあるわけないはずなんだけど」
『そうそう、俺も別に天宮ちゃんに用事ってわけやないんや。連絡がつけば誰でもよかったわけやし』
「で?何?」
『拓真に伝えてくれや』
拓真に―――と聞いたとき、
天宮が苦虫を潰したような顔をした。
まるで、嫌な方に予想が当たったと言わんばかりに。
『帰ってきたから今度はお前の全部を壊すわってな』
「…………わかった、気が向いたら伝えとくよ」
『気が向いたらじゃあ困るねんけどなあ……まあええか。それじゃ、俺はこれで』
「うん、二度と会いたくないけど、またね―――」
そう、いままでの物語は、きっとここに集約するのだろう。
拓真を中心とした物語は、総てここに集約され、集結され、終結するようにできていたんだろう。
かつて拓真から全てを奪った"最悪"との物語は、もうそこまで迫っていた。
「氷室くん」