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主人(マスター)と悪魔(メイド)の主従関係  作者: 睡蓮酒
第二章 ~吸血鬼とか、ドッペルゲンガーとか~
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第38話 変容×本物="繋がり"

停まっていた世界が、ガラスの砕けるような音を発してから一気に動き出す。

「あ……」

ルシフは足に力が入らないらしく、そのまま倒れそうになったが、拓真が後ろから受け止めた。

「すまぬな、主さま……」

「いや、いい。むしろ役得…コホン……ごくろうさん、ルシフ」

「うむ……」

ルシフは薄く笑った。


「さっ、てと。エクスピールの方は……うん、椿たちが勝ったみたいだな。ドッペルゲンガーは……!?」

ドッペルゲンガーはいつの間にか立ち上がっていた。

「ちっ、やっぱまだ消すまではできないか」

「いや……なにやら様子がおかしいぞ……主さまや」

「様子が……?」


ドッペルゲンガーは拓真たちを見ていなかった。

虚ろに虚空を見つめ、ブツブツと独りで何か呟いていた。

「勝てない?……模倣コピーじゃ本物オリジナルには?そんなんじゃあ模倣コピーなんて意味がないじゃないか。だったら模倣コピーしかできない僕には意味がない?存在している意味がない?あれ、でも『僕』は彼からもらったものだから僕は元々存在してない?……え、じゃあ今の僕は何?『僕』?『ボク』?『僕』?『ボク』?……解らない、分からない、判らない、わからない、わからない、わからない、ワカラナイワカラナイワカラナイワカラ……ナイ―――――」



ドッペルゲンガーは独り言さえ止めてただ虚空を見つめるだけになった。



そして、思いつく。気づく。悟る。

「そっか、だったら――――」























――ボクガオリジナルニナレバイイ――


















ルシフの模倣コピーだったドッペルゲンガーの身体が闇に溶けた。

闇となったドッペルゲンガーは急激に変容していく。

消耗しているとはいえ、ドッペルゲンガーの大量の魔力が奔流し、風が巻き起こる。

「ボクヲ僕をボクヲ僕をボクヲ僕をボクヲボクヲ形成けいせいケイセイィィィィィィィ!!!?!?」























「ん………あ……」

眼を覚ましたエクスピールがまず感じたのは後頭部に柔らかい感触。

そして視界には椿の顔。

膝枕、をされていた。

「お、起きたか」

「…………しばらくこのままで、いたいところだね……」

エクスピールはまだ意識が覚醒しきっておらず、サリエルから受けた傷も普通に致命傷まがいのものだったので、話し方が不安定だった。

「それは駄目だ。ここは元々ある特定の一人のためのものだからな、君には貸しているだけだよ」

「そうかい、それは残念だね」

「それより、どうやらドッペルゲンガーの様子がおかしいようなんだが、あれは一体どうしたというんだ?」

「様子が……?」

エクスピールが見ると、

闇は禍々しく、不整合が当然のようにいがみ、ゆがみ、ひずんでいた。

不規則な流れだが、明らかに中心部のある一点に闇が収束している。

「……余もアレについて詳しいというわけではないが、アレと余が初めて出会い、余になったときと見た目は似ている……おそらく模倣コピーをしようとしているんだろうが……二回目以降はあそこまで派手な変容はしなかったのに、何故今頃なんだ?」

「……つまり、ドッペルゲンガーは今までにやったことのないことをしようとしているんじゃないか?」

「え?」

「初めてすることは、要領を得難いということだよ。二回目以降は模倣コピーもすんなりできていたが、初めはあれと似たようなものだったんだろう?」

「確かにそうだが……だったら一体アレは何をしようとして―――――!」

「多分、そうなんだろうな。ドッペルゲンガーは――――」

椿は一度言葉を切る。



「自分自身だけの変容で本物オリジナルになろうとしている」



「そんな……だったら余との、契約の意味がない――――」

「契約だと?」

「……ああ、もういい加減話しておくことにしようかな。さて、そうなるとどこから話したものか………」

エクスピールは少し考える。

「じゃあまず余の目的から話そうかな」

そして、エクスピールは打ち明ける。





「余はさっさと死ぬつもりだった」





「な……」

「余はかれこれ二千年くらい生きてる二番目に古い吸血鬼だ」

「……ふぅん」

椿は動揺を落ち着けてエクスピールの話に耳を傾ける。

「余は幸か不幸か上位過ぎるほど上位の吸血鬼でね」

「自慢か、ウザいな」

「お願いだから話聞いてくれないかなぁ!……うぅ……」

エクスピールは傷口に痛みを感じて呻く。

「わかってるよ、それで?」

「死ぬ方法がないんだよ。にんにくやら十字架が吸血鬼に効くというのは人間の勝手な後付け設定だし、日光もいままで余が学校に行っていたことを考えれば効かないと気付けるだろう?それに魔力を使い果たすというのも駄目だ。吸血鬼は魔力を使い果たすと永い眠りについてまた復活するという性質があるんだ」

「ああ、だからあえて魔力を溜め込んでパンクしようとしたということか」

「そうさ、吸血鬼に魔力を自己精製する能力がほとんどないからね。他人から奪うしかないんだが、使わないで溜め込み続ければ身体が耐えきれず破滅するというわけさ」

「馬鹿なことを……なんというか、九尾の件といい、長く生きてると飽きてしまうものなのかな?」

「九尾先生がどれだけ長い時間生きているのかは知らないが、やはり周りに人間のいる環境で生き続けていると飽きる以上に辛くなってしまうのさ。二千年というのは少なめに考えても人間の寿命およそ二十人分だからね。それだけの死を見ることになる」

「九尾先生は"居場所"がないと言っていたな」

「そうだね、永く生きていると"居場所"はなくなってしまう。余もそれが辛い。ただそれ以上に余は―――――」





「―――――"繋がり"が薄くなっていくのを感じるのが、辛いんだ―――――」





「"繋がり"……」

「誰もが生きていくなかで"繋がり"を作っていく。ただ、余の作る"繋がり"は一時的にしか保てないんだ。老いない身体というのは確実に周りを不審にさせる。だから作った"繋がり"はしばらくすれば断ち切らなければならなくなる。余が居なくなるという形でね。そして"繋がり"を断ち切った時、少しでも痛みを和らげるために"繋がり"を薄くしている自分がいることに気づいた。うん、だから"繋がり"が薄くなっていくのがじゃなくて、"繋がり"を薄くしている自分を感じるのが辛いのかな、今になって考えるとね」
































「………………え?だから?」







「………………………………………………」絶句。

「いや、話終わったんならさっさと拓真の方を助けたい……あ、いや、やっぱり今はサリエルの介抱でもしていたいんだが……」

「泣いていいかなぁ!?」

「はぁ……"繋がり"を薄くする自分が辛い?だったらそんな自分を止めて"繋がり"を強くする自分になればいいだろう?『○○が嫌だから××をする』において××に入るベストな答えはとても単純で明解な一つしかないんだよ。いいか?"繋がり"なんて元々そんなに長く続くものじゃない。君の言っていたとおり二千年あれば人間が二十回生きられるんだ、つまりそれだけしか"繋がり"は続かない。しかし、だからこそ"繋がり"を大事にしようとするんだろう?"繋がり"を強固にしておけば、"繋がり"があったということが分かる跡くらい残るだろうさ。"繋がり"を、いつまでも覚えていられるだろうさ。自分から"繋がり"を弱くしてしまってはその跡すら残らないんだぞ?そんなのは、辛いというか、悲しいじゃないか……嫌じゃないか」

「…………」

「私たちといてどうだった?私の主観だが、君はとても楽しそうにしていたじゃないか。私たちはかなり変わった集団だからな、いままでにない"繋がり"を感じられたんじゃないのか?」

「……そう、だね」

「だったらまだ君は死ぬべきじゃないよ、君の人生には私たちとは違った"繋がり"ができる可能性があるんだから……な?私たちとの"繋がり"を忘れないでくれよ?」

椿はエクスピールの顔を柔らかく抱き締めた。

「あ……」

「……役得、かな」

「ふふ、こんな幸せもそれなりに感じられるときがあるだろうさ、生きていれば」

「余としてはこれ以上の幸せなんてありえない気もするけどね……まあ、そう思っておくことにしようかな。これから長いこと生きることになりそうだしね」

「そうか、だったらまずはやることがあるだろう?」

「そうだね、アレは余が止めないとね。君はサリエル君の介抱を頼む」

「わかってる、だからさっさと拓真とルシフを助けてやってくれ」

「君からの頼みなら、何でも」

「行ってこい!」

「ああ!」

「あ、ちょっと待て」

「……なんだい」

椿が突然引き留めたせいで、エクスピールはガクッと滑った。

「結局契約とはなんだったんだ?」

「ああ、つまりね………」









「余が死んで、アレが本物オリジナルのエクスピール・アンブライトに成り代わるという契約だ」

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