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主人(マスター)と悪魔(メイド)の主従関係  作者: 睡蓮酒
第二章 ~吸血鬼とか、ドッペルゲンガーとか~
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第37話 最悪最狂×最強の影=絶対的な力達

やたら長くなったパート2^_^;

「死神さんになった時にも思ったんだけどさ、君たちの服装って、なんていうか、独創的だよね」

ドッペルゲンガーはメイド服のスカートを摘まんでひらひらさせながら言った。

「ふん、今さらこの服のことで何か文句を言うつもりはないわ」

ルシフは自分が嫌な方向に成長したことを実感しつつ、ドッペルゲンガーの嫌味に応えた。

「彼から聞いたよ、こういうのって元々は身分の低い女性が着ていたらしいね」

「儂や死神においてはその限りではないよ。主さま曰くこの服は完璧な女性が着るらしいからのう」

「ふうん……でも彼は今のこの服の意義はこうだと言ってたよ……えーと………萌え萌え~キュン(ハート)」

ドッペルゲンガーはルシフの姿で胸の前に手でハートをつくり、星が散りそうな勢いでウインクをした。

「な!?」

「ほう、エクスピール分かってんな。ルシフのあんな萌え行動が見られるなんてあいつには感謝感グハッ!?」

顔を真っ赤にして取り乱したルシフが振り向きざまにおもいっきり拓真に拳を入れたため、拓真は目測10メートルは吹っ飛んで、五回はバウンドするたびに「痛っ、痛っ!」と言って転がっていった。

「……主人なんじゃなかったっけ?」

ドッペルゲンガーは理解し難いが、どうでもいいといった風にルシフに問いかける。

「黙るがよい。誰にこの服の意義がどうと言われても別に構わんが、儂の姿でそのような屈辱的かつ変質的な身振りをされるのは不快じゃ。やはりさっさと始めた方がよいようじゃな、ドッペルゲンガーや」

「確かに、どうしてだか話が長くなったね。始めようか」

ドッペルゲンガーが一歩前に出た。

が、はたとドッペルゲンガーは動きを止めた。


「ああ、でもその前にやることがあったっけ」

「あ?」

泥を顔につけた拓真が起き上がると同時に、ドッペルゲンガーの言ったことへの疑問を抱いた。

「ふん、ドッペルゲンガーは思考回路までは模倣しないはずじゃがの。考えることは同じじゃったか」

しかし、ルシフは苛ついたような呆れたような顔をして、ドッペルゲンガーに向かって歩いて行く。まさに自分とドッペルゲンガーの考えることが一致していると確信しているように。

ドッペルゲンガーも今だけはルシフに敵意を持っていないようで、何故だか手を前につきだした。

ルシフはそれに手を合わせる。

二人とも同じ姿なのでどちらかが鏡に写っているようにも見えた。


「儂はここからこちらがわの半分、ぬしはそちらがわの半分じゃ」

「わかってるよ」


「おい、何を――」




万象固定ラ・フローズン










その時、世界が停止した。









空間が停止する―――――








現象が停止する――――――







あらゆるモノの流れが停止する――――――








計算が停止する思考が停止する感情が停止する生物が停止する行動が停止する原因が停止する結果が停止する時間が停止する次元が停止する森羅万象有象無象が停止する。



「え?……な……」

拓真は世界の変化に呆然としながらルシフに話しかけようとする―――驚きすぎて言葉が出ないが―――。

「ふぅ……ん?なんで君は動いてんの?」

「む、確かに主さま、何故動けておる?この世界の総てを儂とこやつで半分ずつ停止させたんじゃがのう?」

一息ついたドッペルゲンガーとルシフが、おかしなものを見る目で拓真に問うた。

「ああ、半分ずつってそういう……じゃなくてだな!こんな見た感じ総てを停めるようなことして大丈夫なのかぁ!?」

拓真はハッと我に返り、ルシフたちに質問した。

「問題ないよ、正真正銘総てを停めておるから世界のどこかにずれが出たりはせぬ。儂らがこれを解けばまたいつものように動き出すよ」

「そうか、それはよか……つーかお前らは何のためにこんな総てを停めるようなことをしたんだ?」

ルシフは少し説明の仕方に戸惑ったが、すぐに思い付いて、

「主さま、刀を地面に突き立ててみるがよい」

「?」

拓真はルシフに言われた通り村正を地面に向かって突き立てようとした。

本来なら学校のグラウンドの土になど、力を入れるまでもなく簡単に突き刺さるはずである。

しかし、村正が地面に突き刺さることはなく、グラウンドの土だというのにカキッという音を発して衝撃が拓真の手に跳ね返った。

「……なんだこれ」

「実際、儂らが施したのは"停止"ではない。正しくは"固定"、さらに正しく言うなら"固定"した後に"切り取って"おるのじゃ」

「つまり……」

拓真は時計を見る。

「俺たちは切り取られた今日の午後七時十四分の世界に移ったっつーことか」

「うむ、流石主さま。物わかりが早いのう。そしてこんなことをする理由は儂らが本気でやろうとするなら、些か強度が足らんからじゃよ、この世界はの」

「そりゃそうだ……あ、だったら元の世界に俺たちは?」

「もちろんおらぬ。ただしあちらの世界では儂らがおらんことにはなっておらぬよ、元から居なかったことになっておるんじゃ」

「はあ、いい感じにご都合主義だなあ……なんか、改めてお前らがとんでもない存在に思えてきたわ」

「ま、今は主さまの出る幕ではない。そこらで観ておれ」

「そうそう、君が何をしても、僕たちにとっては意味のない些細な邪魔にすらなってない出来事にしかならないんだからさ」

「っ……!」

「主さま」

ほとんど無意識に動き出そうとしていた拓真を、ルシフがたしなめる。

「……分かってる」

(……そうだ、今はまだ、俺の出る幕じゃない。落ち着け、目的を忘れるな……)

頭ではわかっている。

しかし、心はそれに易く従わなかった。

従えなかった。

ルシフはそれを一瞥して、


「……やるぞ、影や」

「やろう、悪魔」




顕現コールせよ』

とたんに、空気が鉛のように重くなった。


ティア

空が割れる。

そこから這い出てくるのは千万の黒い腕たち。

空を割り出てきた双方千万ずつの腕が掴み合いちぎりあい、ひしめき合い、せめぎあう。

イーター

空が呑まれる。

現れたのは巨大な黒い口。

空を呑み出てきた対の巨大な口は、千万の腕を喰らい、呑み込み、喰らい尽くしたら、呑み尽くしたら、今度は口どうしで喰らい合い、呑み込み合う。


スケワー

地面が割れる。

突き出て来たのは指とも言えない鋭利に尖った無数の黒い杭。

地面を突き砕き出てきた無数の杭どうしは、砕き合い、刺し合い、終にはせき止めあった。


ラフレシア

空気が溶ける。

降ってきたのは総てを溶かし尽くす黒い雨。空気を溶かしながら降ってきた無尽蔵の雨は、喰らい合う口も、せめぎあう無数の杭も、全てを無かったことにするように溶かしてゆく。




それは、最早戦いという言葉が当てはまらない、戦争という言葉でも生ぬるい――




天災―――


抗うことのできない絶対的な力。

理不尽なほどに強大な、天災のようなものだった。


「まだじゃよ」

「もちろんだよ」


片や直径三十メートルはあろうかという巨大な紅い炎球。

片やそれと同程度に巨大な蒼い炎球。


衝突したそれらは、爆風だけで街を吹き飛ばしそうな威力。

爆熱は鉄製の建築物など一瞬で溶かしつくしそうな温度。


「まだだよ」

「わかっておる」


片や突然現れた、先ほどの炎球が簡単に通れそうな蒼き門。

片やそれとは対照的な紅き門。


蒼き門から出てきたのは当然のように巨大な剣の刃。

紅き門から出てきたのはこちらも必然というように巨大な矛。


ある一点だけで衝突したそれらは、ドゴォ!とダンプカー同士が最高速でぶつかり合ったような音を発してから、門ごと消えた。


静寂、小休止。


「ふん、不愉快なほどにやりおるのう」

「君も十分すごいと思うけどね。自分で言うのもなんだけど、今の僕ってすっごく強いんだよ?」

「当たり前じゃろう、おぬしが今使っておるのは儂じゃぞ?」

「そうだね、君の敵が君だからこそ、君はそろそろ限界なはずだよ。僕がさっきから使っているのは君にとって最上級の魔法だし、そもそも"ラ・フローズン"を使った時点で結構消耗しているんじゃないのかな」

そう、ドッペルゲンガーはルシフの力を限界まで引き出して戦っている。

すなわち、それに張り合っているルシフも全力を出す必要があるのだが、

たとえどれだけ走り込んでいる人間でも、全力で走ればすぐに体力が尽きてしまうように、たとえどれだけルシフが魔力を持っていても、全力で出しきってしまえばすぐに枯渇する。

ルシフの額に一筋の汗が伝っていた。

「かといって僕がぜんぜん疲れていないと言ったら嘘になるんだけどね、それでも君よりは大丈夫だよ」

「儂もまだ、無理をしているというほどではないよ」

ただそうは言っても、やはりルシフのほうが劣勢なのは明らかだった。

「そっか、それじゃあいくよ」

「っ!」

ドッペルゲンガーが腕を振り上げると、風の奔流が起こった。

それを感じ取ったルシフもまた、風の奔流を巻き起こす。

視えない攻撃が衝突する。

「くっ……」

だが、今回は均衡ではなかった。

ドッペルゲンガーの押し気味、つまりルシフの押され気味。

だからルシフは正面からの勝負を止め、ドッペルゲンガーの攻撃を横にずらすように風を操作した。

それはなんとか功を奏し、風は地面にぶち当たり消える。


「うん、やっぱり限界みたいだね。僕の攻撃を相殺しきれなくなってる」

「はぁ……はっ……」

ルシフが肩で息をし出した。

(確かに少しばかり敵わんのう……このままでは量的な力差で儂の負けか……いっそ、こうなったら、一気に全部使い果たしてしまうくらいのことはせんといかんかのう……)

確かに今ある全ての魔力を一気に使えば、ドッペルゲンガーを消し去ることができるかもしれない。

魔力を使い果たすというのは、ドッペルゲンガーにとってはただの無茶。

しかし、ルシフにとっては死と同義である。(確かに儂が死ぬのは困るが、主さまの命令に応えられないのは嫌じゃしのう。主さまのためになら、別に命が尽きようとも―――――いいかの)

さて、そうと決まれば主さまに一言掛けておくかとばかりにルシフが振り返る。

それは、あまりにも軽率な決断だった。


「ぬ―――」





「ルシフゥゥぅぅーーーーーーーーー!!!!!!」




ルシフの声を遮る大音響。

もちろん出所は拓真だった。


「お前が死んだら、俺死ぬからな」


そして、拓真がどこまでも普段通りに、普通の声で言ったのがそれだった。

「あ……………」

そうだ、拓真は初めに言った。


ずっと一緒にいてくれ――――


約束したではないか、ずっと一緒にいると。それに――まだ死にたくない理由なら、あるじゃないか――――


(ふん……何ゆえ儂は死んででも――――なんて考えたんじゃろうかのう。阿呆じゃったの、そんな必要は塵ほどもないというのに、そんなことで主さまは喜ぶはずがないとわかっておったはずなんじゃがのう)

ルシフは一度深呼吸をして、ドッペルゲンガーを見据える。

ルシフの眼に、活気が宿る。



「……おぬしのは所詮の模倣コピーじゃ、本物オリジナルが敵わんわけがない。それに―――――――」




ルシフは、笑っていた――――――



「ドッペルゲンガーごときに、最悪最狂の悪魔、スノウシルバー・ルシファリオン・カオスフィールドが負けるわけがなかろう!」



そして、

「"矛盾で固められた否定の大壁ラ・イージス"」

ルシフが展開したのはルシフではなくドッペルゲンガーを包む大きな壁。

「? 何を―――」


「"業火ボルカ"」


突如、大壁ラ・イージス内で大爆発が起こり、空間を焼きつくした。


「……無駄だよ、この程度の魔法で僕は倒せない」

ドッペルゲンガーはイージスを自分の周りに展開して"ボルカ"を防いでいた。

確かにドッペルゲンガーはボルカなど簡単に防いだ。

ドッペルゲンガーは感じた。考えた。

――しかし、何故だ?――


――どうして今自分はこんなに不安になっているのだ?―――


「……確かに、あの程度ではイージスは破れんじゃろう。それは儂がよく知っておる」

「……だったらどうして―――」



「なら、儂以外の力に、儂が魔力をのせれば、儂の限界以上の威力が使えると思わんか?」

「? だから、そんな力が何処に――――」


「何のために儂が大壁ラ・イージスを使ったと思っておる?」





すでに大壁ラ・イージス内の酸素は燃やし尽くされ、火は落ち着いていた。




「!」

自らの状況に気がついたドッペルゲンガーが動きだそうとしたが、突然身体が動かなくなる。




「―――動くな―――」




魔眼。

視たものの動きを封じるルシフの紅い眼。

「く……ぅ……」

「終わりじゃよ、ドッペルゲンガー」


「どうして、何処に、こんな力が残っていたのかなあ?確かにこれなら僕を倒せるけど、もうすでに君の魔力は大壁ラ・イージスボルカ、魔眼を使える程残っていなかったはずなのに、限界だったはずなのに……!」


「"空環爆発リ・エクスプロード"」


大壁に穴が空いた。



ドッッッッッゴオオオオオオオオン――――



酸素を喰らい尽くし、『静』の状態であった炎が、再び『動』の炎となり大爆発を巻き起こす。


バックドラフト現象。

密閉空間で不完全燃焼をしていた火が、ドアなどが空いたとき、酸素を一気に供給して大爆発を巻き起こす現象である。

ルシフはその現象を自分で創り出し、自分の魔力をそれに乗せたのだ。



「ふん、限界じゃと?知らんのか?本物オリジナルは時に限界以上の力を出せるんじゃぞ。それがおぬしと儂の違いじゃよ」


ルシフは勝った。

悠然と、圧倒的な美しさで、立っている――

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