第32話 タンク×蛇口=ドッペルゲンガー攻略法
「……全部だ」
なんとか生き返った拓真が言った。
「お前が識っているドッペルゲンガーに関すること全部話してくれ」
「……あ、ちょっと待って。これは"借し"になるけど、それでも話していいの?」
報は片手で拓真を制してから、質問した。
「ああ、これで俺はお前に"借り"一つだ」
報は一瞬だけ意外そうな顔をして、すぐさまニヤリと笑った。
「そう、じゃあ話そうか。ドッペルゲンガーについて」
報が今までからは想像もできないほどに真剣な顔つきになる。
「まず君たちは、アレと戦ってみてどう思った?」
『強すぎて話にならん』
拓真たちが声を合わせて言った。
「だろうね。あの不死性といい、模倣性といい、ドッペルゲンガーは反則的な性質と強さを持っていることで有名なんだ。
でもね、ドッペルゲンガーの脅威は不死性でも模倣性でもないんだよ」
「何?」
報の意外な言葉に拓真が反応する。
「正直、まともに全力を使って戦えばルッシーがドッペルゲンガーを殺すとまではいかなくても退けることはできるし、他人の模倣ができるとはいっても所詮模倣だからね、模倣された側が太刀打ちできない道理がない。だから不死性も模倣性も問題にはならない」
ちなみに、ルッシーとはルシフのことらしい。
報は一度話を切る。
「ドッペルゲンガーの恐るべきところは、魔力の内蔵量なんだよね」
「魔力の内蔵量?」
拓真が聞き返す。
「そ、あらゆる生物の模倣ができるということは、あらゆる生物の魔力量を凌駕しているってことになるんだよ。つまり……」
報は少し考え込む。
「うん、つまり水の入ったタンクを想像してくれれば分かりやすいかな。ドッペルゲンガーはそのタンクの大きさが他の生物の比じゃないんだよ。
でもね、奇しくもドッペルゲンガーには中の水を使うための蛇口が備わっていないんだ。どれだけタンクの中に水があってもそれを使うための蛇口がないんじゃ意味がないよねー。だからこそ、ドッペルゲンガーは他人の蛇口を模倣して中の水を使うんだ」
「なるほどのう……しかし報や、話が戻るが、あやつが死神をコピーした時の攻撃は、本物でも砕くことのできんかった"否定で固められた矛盾の壁"を砕きおったぞ」
「……あの時は本気じゃなかっただけ」
「そう、それが正解」
サリエルの言い訳を、報は肯定した。
「サリーが手加減していて、ドッペルゲンガーは全力だった。この差がルッシーの"否定で固められた否定の壁"を砕けたか、否かに繋がっているんだよ。確かにドッペルゲンガーは真似た蛇口でしかタンクの中の水は出せないけど。その蛇口を全開までひねることができるからあんなに強いんだ」
「しかし、そんなことをしてはすぐに魔力は枯渇してしまうんじゃないですか?」
タンクの水は無限ではない、そんな当たり前の観点から椿が質問する。
「もちろんドッペルゲンガーにも魔力の枯渇はあるけど、さっき言った"魔力の内蔵量"だよ。ドッペルゲンガーが蛇口を全開にしてくるんだったら、君たちも蛇口を全開にしないと対抗できないんだけど、ドッペルゲンガーの尋常じゃない魔力量と張り合えば、先に枯渇するのは君たちの方さ」
「そのドッペルゲンガーの魔力量ってのはどの程度のものなんだ?」
「ルッシーが二、三歩及ばない程度だね」
「そんなにか……」
「あ、ちなみに聞いているとは思うけど、ドッペルゲンガーに"死"はないからね。君たちが魔力を使いきることは死ぬことと同義だけど、ドッペルゲンガーが魔力を使いきっても、ゼロから魔力の回復ができるんだ。まあそれにはかなりの時間が必要だと言われているから、ドッペルゲンガーの魔力を枯渇させることが君たちの勝利になるね」
「それで、一体どうすればドッペルゲンガーに勝てるんですか?」
「ドッペルゲンガーってさ、いわゆる魔力の塊なんだよね。この世に存在はしているものの、物質としては無の存在で、エネルギーが形どっているだけ。たとえ模倣を使っても、固まっているのは表面だけで、内側はただ魔力が詰まっているだけ。闇の状態ならその表面すらない」
「すなわち、ドッペルゲンガーは防御力が低い。模倣していない闇の時の防御力なんて皆無なんだ」
「あ……」
拓真は初めてドッペルゲンガーを斬ったとき、手応えがありすぎたことを思い出す。
「そして、ドッペルゲンガーには斬撃や矢は効かないけど、火とか電気とかの魔力を使った"与える"攻撃ならドッペルゲンガーの魔力にダメージを与えて消すことができる。つまり――」
報は両手で机をバンッと叩きながら立ち上がって、高らかに結論を述べる。
「闇の状態のドッペルゲンガーに"与える"攻撃をぶちかましてやれば、ドッペルゲンガーは倒せる!!」