第30話 ドッペルゲンガー×対決=戦略的撤退
「ちっ、私は一人目を追ってくる、てめえらはそいつをなんとかしやがれ!」
「分かった、気を付けろよ」
「はっ、つける必要がねえよ」
「あーそうかい」
九尾は一人目のエクスピールの消えた方向へ走っていった。
拓真はそれをみてから二人目に向き直り、
「誰だ?お前」
刀を鞘から抜き放ちながら二人目のエクスピールに尋ねる。
「吸血鬼。エクスピール・アンブライトだけど、どうしてそんな分かりきったことを?」
二人目のエクスピールは肩をすくめ、半笑いで拓真の質問に答えた。
「んなわけあるか、俺たちがさっき捕まえて、逃げてったのが吸血鬼。エクスピール・アンブライトだろうが」
「それでも、僕はエクスピール・アンブライトなんだよ」
「意味がわかんねえよ、お前本当は何なんだ?」
いや、拓真には今目の前にいるエクスピールが本当は何なのか見当がついている。それでも、拓真は確たる根拠をつかむために話し続ける。
「余が貴様で、僕が君」
二人目のエクスピールが突然そんなことを言った。
「は?」
「そう彼が言ってくれたから、"ボク"は僕になったんだ。僕は彼になることによって自分を手に入れた。だから、僕はエクスピール・アンブライトなんだよ」
「阿呆なことを申すでないよ」
ルシフが口を挟む。
「ぬしはあの吸血鬼ではない、ドッペルゲンガーであろうが」
「……」
二人目のエクスピールが黙り込む。
「僕、"ボク"はドッペルゲンガーですらなかった」
そして、開口一番に自分がドッペルゲンガーであることを認めた。
「なんじゃと?」
「"ボク"は彼に出会うまで、"ボク"という自我すらないただの"闇"だったんだ。ドッペルゲンガーという、僕という、『存在』以前の、"闇"」
ドッペルゲンガーが自らの左手を闇に変えて見せた。
「だから僕は"ボク"を、"ドッペルゲンガー"を、"僕"をくれた彼を助けることに決めたんだ。だから――」
ドッペルゲンガーは瞳に決意を宿し、構える。
「悪いけど、君たちをここで止めさせてもらうよ」
「……やる気のようだな」
椿が弓を構え、
「……」
サリエルが鎌を顕現させる。
「人通りが少ないとはいえ、あいにくここは住宅街だ。だから――」
刹那、拓真がその場から消える――
次の瞬間、電光石火を使った拓真はドッペルゲンガーの正面に。
「これで決めるぞ」
『分かってる』
いつの間にか、サリエルはドッペルゲンガーの左で鎌を振りかぶり、椿はドッペルゲンガーの右で弓矢を引き絞っていた。
「!……!?」
反応したドッペルゲンガーが後ろにかわそうとしたが、何故か身体が動かなかった。
目を移すと、ルシフが紅い目でドッペルゲンガーを見ていた。
「――動くな――」
ルシフが見たものの動きを封じる魔眼を発動していた。
『おおおおおぉぉぉ!』
正面からは拓真の最硬の刀による斬撃、左からサリエルの鎌による一閃、右からは椿の音速を超える矢による刺突。
三方向からのとてつもない威力の攻撃は、互いに相殺し合い、音すらも出なかったが、全てのエネルギーはドッペルゲンガーのいる一点に集約された。
(手応えあり……あり過ぎてる!?)
拓真が自分の感じた感触に違和感を感じていると、
「ふうん、すごい威力だね」
依然そこにいたのはドッペルゲンガーだ。
右肩から腰にかけて斬られ、左の腕を肩から失い、腹部の横に孔が空いている、攻撃を全て受けたことがわかるようなドッペルゲンガー。
しかし、ドッペルゲンガーは痛みを感じているような反応をせず、
「でも、僕には関係ない」
途端、ドッペルゲンガーの身体が闇となり、夜の闇に溶け込んでから、再びエクスピールの身体を形成した。
もちろん無傷の、だ。
「そんな……」
「彼のような吸血鬼は限りなく不死に近い存在らしいんだけど、僕のようなドッペルゲンガーは完全に不死なんだよ。そして――」
ドッペルゲンガーはサリエルを見てから、
「これがドッペルゲンガーの真骨頂だよ」
ドッペルゲンガーの身体が闇になり、そして――――
二人目のサリエルになった――
「……予想はしてたんだが、な」
拓真の額に一筋の汗が伝う。
「……」
サリエルがドッペルゲンガーを睨む。
「行くよ」
ドッペルゲンガーはそう言うと鎌を構え――サリエルに向かって投げた。
「!?」
サリエルは鎌を盾にして、なんとか直撃は避けたが、十分な体勢ではなかったため、そのまま吹き飛んだ。
「……かはっ」
「くっ!」
椿が弓を構える。
すると、ドッペルゲンガーは近くにあったコンクリートのブロック塀を豆腐でもそうするかのように手で抉り取り、そのまま片手で圧縮。そして椿に向かって投げた。
「なっ!?」
それは椿の足に掠り、椿の朱の袴が血で赤黒くなる。
「ぐっ……」
「椿!」
拓真は椿の方を向いた。
その隙に、ドッペルゲンガーは手放した鎌を手元に顕現させ、拓真に斬りかかろうとする――
「しまっ!――」
「余所見をするものではないぞ主さま!」
すると、ルシフが"否定で固められた矛盾の壁"を展開して鎌を受け止めた。
「サンキュールシフ!」
「しかし主さまよ……こやつの鎌、本物より重いぞ……!」
ルシフがそう言うと、"否定で固められた矛盾の壁"が砕けた。
ドッペルゲンガーは一度間合いをとる。
「んな馬鹿な…………しゃーねえか」
拓真は呆れたように現実を見つめてから、何かを決めたようにして、また消えた。
「……!」
ドッペルゲンガーが周りを見渡すと、サリエルと椿が消えていて、前を向くと拓真が二人を抱えて立っていた。
「勝てねえ、逃げるぞ」
すると拓真は足から電気を迸らせ、ルシフと共に消えた。
ドッペルゲンガーはしばらく立ち呆けて、
「逃げられちゃった……まあ、いいや」
闇となって消えた。
とある公園。
「はあ、はあっ…………死ねる……」
拓真は肩で息をしながら汗を拭った。
「大丈夫か?椿、サリエル」
「ああ、粗方血は止まったよ」
「……平気」
「そうか、よかった」
「して主さまよ、あれをどうするつもりじゃ?」
「んー……お前らアレに勝てる?」
『アレは無理』
三人が声を合わせて言った。
「だよなあ。情報が少なすぎるし……………くっ…………あいつに協力してもらうしかないか………………」
「君、まさかあの人に協力してもらうつもりか?」
椿が信じられないといった顔をする。
「……仕方ないだろ」
拓真が嫌そうな顔をして言う。
「主さまや、誰じゃ?そのあいつとは」
「……?」
拓真と椿は顔を見合わせてから、声を揃えて、言った。
『うちの学校の理事長』
戦闘描写がしょぼすぎなのが自覚できます……(~_~;)




