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主人(マスター)と悪魔(メイド)の主従関係  作者: 睡蓮酒
第二章 ~吸血鬼とか、ドッペルゲンガーとか~
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第26話 ルシフ×遊園地=デート?

「ルシフ……も、もう無理だ、我慢できねえ……」

「主さま、もう少しじゃから、我慢するんじゃ!」

ルシフが慌ただしく動く。

「ちょっ、そんな動いたら……出る……!」

「主さま!中で出すのは……!」

「!まじで……もう出すぞ……!」

「主さまっ!主さまぁ!――」


















「こんな密室で吐瀉物を出されても困るのじゃ!」




ルシフ渾身の叫び。

今拓真とルシフがいるのは観覧車。

そんな密室の中で、拓真は絶賛乗り物酔い。

「いや、もうこれ無理だ、出すわ、出して楽になるわ……」

「出した後が大変なことになるんじゃぞ!?」

「……あ、もう……駄目……」

拓真の顔がいっそう蒼白になる。

(はぁ、なんでこんなことになったんじゃっけ……?)


というわけで過去回想――

「それじゃ、まずはどこに行きたいんだ?ルシフ」

「主さまや、儂にはまだ遊園地というのがよくわからんのじゃが……何をして遊ぶ園地なのじゃ?」

「んー……なんかいろいろして遊ぶ園地なんだが、説明するのが面倒なうえに難しいな。とりあえずいっしょにまわるか」

「そうじゃの」



とりあえず二人でいろいろまわることにしたのだが、ルシフがいるせいか、周囲の視線が集まっていた。

「なあルシフ」

「なんじゃ?主さま」

「俺たちって今、周りの人達から恋人同士って思われてんのかなあ」

「なっ!?」

ルシフが周りを見渡す。

「……ほれ」

「?」

すると、拓真が手を差し出してきたのだが、図りかねるというようにルシフはその手を見つめるだけだった。

「手ぇ繋ごうぜ、そっちのほうが恋人同士っぽい」

「!?……まあ、よいか……」

ルシフの手が拓真の手をおずおずと掴まえる。

「ははっ……お、あれ乗ろうぜ」

何故かそれが面白くて笑ってしまった拓真が指差したのはジェットコースターだった。

今見えるジェットコースターの乗客が楽しそうに叫んでいた。

「……見たかぎり楽しそう?に声をあげておるが……あれは何が楽しいのじゃ?」

「……さあ?」

拓真が首をかしげる。

「主さまもよくわかっておらんのか?」

「あんまり来ねえしなあ、こういうところって」

「むぅ、よくわからんのじゃが、とりあえず行ってみるかの」

「そうだな」


それなりに長い時間待ち続けて、順番がきた。

運がいいのか悪いのかわからないが、一番前の席。

「これはこうして座っておるだけでよいのか?」

「安全レバーをさげるんだよ、こうやって」

「ふむ、こうかの?」

拓真がレバーをさげたのを真似してルシフもレバーをさげた。

「そうそう、ちゃんと自分の身体が固定されてるか確かめるんだ」

「されておる……んじゃが、この固定感……何かを思い出すのう……なんじゃったかの……?」

ルシフが宙を見て何かを思い出そうとする。

「?なんにせよ、始まるぞ」

アナウンスが流れ、ジェットコースターが発進した。

「なんじゃったか……?」

ジェットコースターは初めにゆっくりとなにをそこまで上がる必要があるのかといえるほどに上がってゆく。

そして最後まで登りきって――

「!ああ、中世西洋の拷問道具じゃってなあああああああああ!?」

急降下。

ジェットコースターは慣性の法則にしたがっていままで登ってきた分の力を惜しみ無く使い、右へ左へ上へ下へ、高速で走る。

「当たるっ!当たる!主さま当たるんではないのかこれぇいやあああああ!」

「ん?ああ大丈夫大丈夫ー」

絶叫するルシフとやっぱり何が楽しいのかよくわからない拓真。

それから意外と早くジェットコースターは終了した。

「はあ、はぁ……な、何故今の人間はこんな拷問道具に自分から嬉々として乗っておるのじゃ?」

「まず拷問道具じゃないからな、案外安全なんだって、こういうのは」

「そうなのか、拷問道具を安全な遊び道具にしてしまうとは、人の発想とはなかなか凄まじいのう」

「だから拷問道具を参考に作ってねえって、多分……いやー、それにしても……」

「どうかしたのか?主さま」

「あそこまで焦って叫ぶルシフ、可愛かったなあ、と」

「なっ!?あぅ……」

「そこで顔が紅くなるのがルシフの可愛いところだよな」

「!」

「さ、次行くか」

「う、うむ。次はあまり速くないのがいいのう……あれなんかゆっくりでいいのではないか?」

ルシフが指差したのは園内で最も大きくてよく目立つ観覧車だった。

「……観覧車……か。あれって最後に乗るっつーイメージなんだが、まあいいだろせっかくルシフが選んだんだし……うん」

「ふむ、では行こうか主さま」

「ああ……」

この時拓真の額に一筋の汗が伝ったのはルシフには知るよしもなかった。


今回はあまり待つこともなく乗れて、十分程で一番高い場所にきた。

「高いのう、主さま」

「……ウンソウダナ」

「主さま?」

「ナ、ナンデモアリマセンノコトヨ?」

拓真が外を見ないようにうつむきながら裏返った声で返事をした。

「主さま、まさか高い所が怖いとか……」

「……ナンノコトヤラ」

「怖いんじゃな?」

「……うん」

「まったく、ならどうしてそうと言わんのじゃ」

ルシフが嘆息する。

「せっかくルシフが選んだのに、拒否るわけには……それにもしかしたらいけるかなぁとか思っちゃったりで」

「もうよい、あまり話さん方がよいぞ」

「ああ……」


「主さまや、もう少し楽をしてもよいのではないか?」


拓真の高所恐怖症が発覚してからしばらく外を見ていたルシフが突然そんなことを言った。

「……してるよ、充分」

拓真は顔を上げない。

「しておらんよ、主さまは」

「……」

「意外と自己犠牲な主さまや、九尾の狐と戦ったとき、どんな感情があったのじゃ?」

「そりゃあ椿のために頑張ろうとか――」

「最も大きかった、心の中を占めておった感情は?」

「……」


『恐怖』


二人の声が揃う。

「ああ自分でわかってるよ、怖かったさ。だって一撃で死ぬかもしれなかったんだぜ?そりゃあ恐怖で心がいっぱいにもなるだろ」

「じゃろうな」

「あの場面でそんな感情が心を満たすような自分が嫌になったりもしたさ」

「じゃろうな」

「なんで俺はこんなに臆病で、弱いんだろうなーとかもちょっと考えた」

「主さま、人間なんて……人間であるかぎりそれが普通であろう?」

「……そんなもんかな」

「恐怖を捨てるのは勇敢になることではないし、人間として高みに至るということではない。恐怖を捨てたならば愚かで"人"を失った何かに成り下がるだけじゃよ。恐怖を捨てるのではなく恐怖に克とうとした主さまは勇敢で強いと思うよ」

「……」

「ただ、主さまは強すぎて自分でやらなければならないと思ったことは絶対に一人でやろうとするんじゃよ。たとえそれが命懸けだろうとも、自分一人ではできないかもしれないことだろうとものう」

拓真が顔を上げる。ルシフもいつの間にか拓真を見ていた。

「もう少し楽をしても、儂らに頼ってもよいのではないか?主さまが守ろうとしたものは、主さまを守ろうとするものでもあるんじゃぞ?」

「……そうかもしれねえけど、頼りすぎるのもどうかなって思うんだ。頼る強さを使いすぎたら、自分は弱くなってしまうんじゃねえかって考えちまう」

「むぅ……そこは、まあ自分で折り合いをつけていくしか、ないのではないか……?」

ルシフはいい答えが見つからず、とりあえず思ったことを口にした。

「……はは、そうだな、ありがとうなルシフ」

「礼などよいよ、主さま」


二人がまた黙って静かになった。

「……ところでルシフ」

「なんじゃ?」

ルシフが拓真の方を向くと、拓真の顔がとても近いところまできていた。

「……え?」

「ルシフ……」

「ぬ、主さま?」

拓真の吐息が感じられ、ルシフは戸惑う。

だんだん二人の顔がさらに近くなっていき――













「……吐きそう」


「は?」

ルシフが頭の上にハテナマークを浮かべる。「いや、なんか俺、こういうゆっくり揺れる系の乗り物駄目みたいだわ……うっ、出そう……」

「…………いやいやいや主さま!?駄目じゃ!出してはならぬぞ!もう少し我慢するのじゃ!」

「あ、あと五秒……?」

ルシフが元の場所までの距離を見る。

「えーと、あと二分くらいかのう?」

「……出すわ」

「主さまぁぁぁぁぁ!」



なんとか吐瀉物を出さないで観覧車を出た二人は、近くにベンチを見つけて、ルシフが膝枕して拓真を寝かせていた。

「なんとか堪えきった……俺偉い」

「はいはい、よく頑張ったよ主さまは」

ルシフが拓真の頭を撫でる。

「……このまま寝ていいか?」

「よいよ、しばらく横になっておれ」

「ああ、ありがと……」

「……どういたしまして、主さま」

拓真はそれからすぐに寝息をたてることになった。




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