第20話 それは……多分拓真の刀の正体だった……と思う
「ぐ、がぁ……村……正だぁ?」
「そうだ。この刀が、幾億もの武人を刃こぼれひとつすることなく斬り殺したと伝えられている伝説の妖刀、村正だ」
江戸時代。当時の刀匠、村正春暁が何百代と造り直した村正の最高にして最後の傑作、それが"妖刀村正"である。その妖刀村正は最高の切れ味を誇り、どれだけの敵を斬っても刃こぼれをしないという日本刀としての完成形でもありながら、この世の物とは思えないほどの妖しさ、美しさより、芸術品としても完成形であると言われていた。
「だが……たとえ妖刀だろうが名刀だろうがぁ、所詮は鉄の棒だろうが……んなもんで、私に傷をつけられるわけねぇんだよぉ」
「鉄っつーか玉鋼なんだけどな。まあそれでも、ただの玉鋼じゃあお前に傷をつけるなんてことは無理だろうな」
「……魔術かぁ……!」
「不正解。この刀に魔力なんか微塵も使ってねえ。造られた当時のまんまだ」
「だったら――」
「世界一硬い鉱物って何か知ってるか?」
九尾の言葉を遮って突然拓真が出した問いに、九尾は目を見開いた。
「!……ダイヤモンドかぁ!」
「そうだよ、いくらお前が硬くたって、さすがに世界一硬いダイヤモンドには勝てねえだろ。玉鋼のモース硬度はせいぜい6ってとこだが、ダイヤモンドのモース硬度は最高の10だからな。ダイヤモンドカッターのように刀の刃にダイヤモンドをコーティングして、切れ味を上げたってわけだ。お前が世界の物理法則まで無視するようなやつだったら無駄だったけどな」
村正春暁は、玉鋼のみを使った刀の製造法での切れ味の限界を感じていた。
そこで、玉鋼を基調に、さらに切れ味を極めることができる素材、または技術を探していた。
すると、海の向こうからやって来た人間が、この世にこれに勝る硬いものなしと謳われていた鉱物と、この世に斬れぬものなしと謳われた刃という物を造る技術を春暁に伝えた。
もちろん初めからダイヤモンドを使用した応用技術を、刀に100%反映できるわけがない。十二年の歳月、一万と十一の刀を踏み台にし、ついに春暁は村正シリーズの完成形。
幾億もの武人を葬り後に妖刀と言われた"妖刀村正"を完成させた。
実は最後の村正には、他人がつけた"妖刀村正"とは別に春暁のつけた銘がある。その名は――
「"村正・金剛"」
「あぁ?」
「この刀の本当の銘だ、人を斬れすぎて、妖刀なんて呼ばれちまうようになったがな……さて、椿の分の仕返しはさせてもらったぜ?」
「ぐ……う……ふ、ざ、け、やがってえぇぇぇ!!」
九尾が激昂し、三本の尾を拓真に叩き付けた。
「がっ!?」
拓真は刀を盾にして、なんとか直撃は防いだが、あまりに力任せの攻撃に吹っ飛ばされた。
しかしいつの間にかそこにいたルシフが飛んできた拓真を受け止め、拓真が追加のダメージを負うことはなかった。
「ありがとな、ルシフ」
「構わんよ、主さま」
拓真はルシフから離れて立ち上がる。
九尾は苛立ちから尾で周りの竹を手当たり次第に破壊していた。
「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがってぇぇぇ!!この程度で私を殺せると思うなよぉぉぉ!!人間の分際で私に傷をつけた分、可能な限りぐちゃぐちゃにして殺してやるからなぁぁぁ!!」
拓真は嘆息して肩をすくめた後、
「言っただろ?俺は誰も、お前さえも殺させない。倒すだけだ。そして、お前を倒すのは俺じゃない」
「はっ!誰だろうが関係ねえんだよぉ!私が全員殺すんだからなあ!この最強の妖怪、白面金毛九尾の狐がよぉ!」
「だったら俺からも言わせてもらうぜ。最強の妖怪?だからなんだ、こっちには最悪最狂と謳われた悪魔、スノウシルバー・ルシファリオン・カオスフィールドっつう最強のメイドがいんだよ」
「……私もいる」
今は無視。
「頼んだぜ俺の、天村拓真の最強のメイド、スノウシルバー・ルシファリオン・カオスフィールド!あの勘違いしてる馬鹿狐を倒してやれ!」
「かしこまりました、我がご主人様」
ルシフが、拓真に喚ばれたあのときのように、嬉しげに口元を歪めた。
お分かりだと思いますが、この話に載せている知識はほぼすべて作者の妄想です。
村正という刀は存在していますが、村正春暁とか、ダイヤモンドとか、一万と十一の刀を踏み台にとか、そういうのは作者が
そんなだったらいいなあとか考えながら書いたものです。
信じないでくださいね?