第15話 それは……多分天狗との開戦だったんじゃないかな
翌日の昼。
狐音神社に通じる山道の入り口。
そこにはメイドが二人、弓矢を携えた巫女が一人、普通の今時な服を着た女の子が一人、そして――
. . . . . .
一本の日本刀を携えた少年が一人。
「さて、行くか」
「まて、なんだそれは」
椿が拓真を止める。
「これか?……これが俺の用意だ。まあ使うこともないだろうがな。俺この面子じゃ弱いし」
拓真は若干邪魔そうに刀を見た。
すると、稲荷が、
「あの……皆さんの格好って……」
稲荷が言っているのはおそらくルシフと椿とサリエルのことだろう。
「「「……何か変なところでも?」」」
「す、すすすいません!なんでもないです!」
三人が稲荷を食い殺しそうな目で睨んできたので、稲荷は泣きそうになりながら謝った。
「……もういい、早く行く」
サリエルが一人で道を歩き出した。
すると、
「っ!サリエル!横だ!」
入り口の脇に立っていた巨木が突然サリエルに向かって倒れてきた。
拓真が叫んだのだが、サリエルは倒れてきた巨木を無表情で見つめたまま突っ立っていて、潰されてしまった。
向かいの木々が倒れ、鳥たちが驚いてとんでゆく音が木の葉揺れと共に伝わってきた。
「サリエルぅぅー!?」
「……平気」
サリエルが巨木を持ち上げて出てきた。どうやら大丈夫なようだ。
「……稲荷」
「え……あ、はい!なんでしょうか?」
初めてサリエルが稲荷の名前を呼んだので、稲荷は驚いて一瞬反応が遅れた。
「……神社は、どっち?」
「えっと、だいたいの場所はあっちですね」
稲荷が今見えている道から少し右にずれた方向を指差した。
「……そう」
サリエルは短く返事をして、
倒れてきた巨木を大きく振りかぶって投げた。
. . . . . .
神社の方向に。
「「「神社ぁぁぁ!?」」」
投げた本人とルシフ以外が叫んだ。
しばらくしてバキバキ、ズゥンという木々が折れる音がしたので、どうやら神社には届かなかった(もしくは当たらなかった)ようだが。
「おいサリエル」
「あっちにいる天狗に仕返し」
「お前、今めちゃくちゃ怒ってるだろう?」
「……怒ってなんかない」
「そうですか、そりゃよかった」
「さて、入口から罠があったんだから、これからも沢山罠が仕掛けてあるんだろう。稲荷さん……頼むぞ」
仕切り直した椿が稲荷に向かってやけに重い声で言った。
「はい、がんばります」
「んじゃ、行くか」
一行は山の中に入っていった。
しばらく歩いていくと、周りの木々が竹やぶになり、それから少し歩いたところで、
「……おかしくないか?罠が一つもないんだが……」
そう、大量に仕掛けてあると思われた罠が、入り口以外に一つもなかったのだ。
「ふむ、もしかしたらあれは罠というより私たちが来たことを報せるものだったのかもしれないな」
「なるほど、以外と相手は正々堂々なタイプだったんだな……って、もし俺たち以外が入ってきたらどうするつもりだったんだ?」
「それに関しては問題はなかったようじゃぞ。儂らのような異能持ちの輩が入ってきた時のみあの巨木が倒れてくるようにされておったからのう」
「そんなんわかるのか?」
「うむ、これ見よがしに札が貼られておったし、魔力に近しい……言うなれば妖力が地面と巨木から感じられたのじゃ」
「……サリエルには感じられないのか?」
「感じられるはずじゃよ」
「巨木の下敷きになりましたけど」
「よく見てなかったんじゃろ、山登りなど儂らがしたことあるわけないからのう。早く登りたくて気がはやったせいで、観察力が鈍っておったんじゃろうな」
サリエルがみんなからフイッと目を反らした。
「サリエル、別に気にすることはないぞ。その容姿にぴったりのおちゃめな行動をしたわけだし……」
「君、それはフォローになってないと思うぞ」
「……」
サリエルが鎌を召喚して、拓真と椿の間に投げ放った。
「……突然キレる最近の若者って怖えよな」
「私もそれは思うが……どうやらサリエルが鎌を投げたのはキレたどころか私たちを助けるためだったようだぞ?」
「だろうな、わかってるよ」
竹藪の中から人影が現れた。
それは……
「よう、天狗山。肩はもう大丈夫か?」
「やはり来たか、痴れ者どもがぁ!」
「椿、稲荷さんを連れて先に神社で待っとけ。天狗山の相手は人間にはやりづらいからな」
確かに、あの風は人にはやりづらい。
「君だって人間だろう」
「メイドが戦うってのに、主人が逃げ出していいと思ってんのか?」
「ふう、これに関しては、君は何を言っても聞かないんだろうな……また後でな」
「ああ、稲荷さんを頼む」
「……行くぞ、稲荷さん」
「……はい」
椿と稲荷は先に走っていった。
二人が見えなくなってから。
「……追いかけないんだな。狙いは稲荷さんなんだろ?」
「どのみちきさまらも殺さねばならぬのだ。順番などどうでもいい」
「そうかい……だが残念だったな。順番にとか言ってるがここで敗けてお前は終わりだよ。なんせ最強のメイドが二人もここにはいるんだからな」
「ほざいておけ、きさまらはこの地に踏み入った時点で終わりだぁ!」
「はは、そうかい。じゃあ始めようか」
「ゆくぞぉ!」
天狗対悪魔と死神の戦いが始まった――