第14話 それは……多分対天狗の作戦会議だったんじゃろうな
「さて、じゃあ第一回対天狗戦線作戦会議を始める」
「あの……」
「なんだ?稲荷さん」
「いいんですか?あれ……」
稲荷が庭の方を見ながら言った。
「俺には何も見えないが……稲荷さんには何か見えてるの?」
「そうですね……私を助けてくださった人達がみのむしみたいに吊るされている姿が……見えますね」
そう、かつて椿がそうして吊るされたように、今度はルシフ、サリエル、椿がまとめて簀巻きにされて吊るされていた。
「稲荷さん、きっとそれはただの洗濯物が悪い悪魔とか死神とかエロ女にとり憑かれて幻覚を見ているだけだ。あっちを見ちゃいけない」
「はあ……そうなんですか……」
「さて、それでは会議を始めまし――」
「おい、君」
「なんだ?エロ女にとり憑かれた洗濯物?」
「こんなことをして君は罰を与えているつもりなのか?言っておくが、私にはむしろ快感だ」
エロ女にとり憑かれた洗濯物が真顔で言った。
「そうか、なら首から下地面に埋めてやろうか?」
「……拓真」
「なんだ?死神にとり憑かれた洗濯物?」
「……こんな責めじゃ物足りない。せめて逆さ吊りにして火炙りにするくらいじゃないと私は快感を得られない。付け加えるなら――」
「うるさいぞ、ドM」
「……蔑まれるのも、いい……」
死神にとり憑かれた洗濯物はぷるぷると震えていた。
悦んでいるとそうなるのだろうか?
「主さまや」
「なんだ?悪魔にとり憑かれた洗濯物?」
「……縄を解いてくれぬかのう?」
上目遣いで見てきやがった。
「解きます、今すぐ」
「「おい」」
残りの洗濯物から声が上がった。
「なんだ?文句でもあるのか?」
「あるな」
「……ある」
「そうか、文句は差別だ以外で頼むぞ」
「……拓真」
「なんだ?」
「私たちの縄も解け。さもなくば―――――――――――――――(自主規制)するぞ?」
「解かせていただきます」
拓真はエロ女にとり憑かれた洗濯物のあまりにも恐ろしい内容の脅しに屈して仕方なく全員の縄を解いた。
「さて、そろそろ真面目に会議するか」
「そうだな、早い内に稲荷さんの安全を確保したいところだ」
「というわけでなんか意見ある人ー」
サリエルが真っ先に手を挙げた。
「はいじゃあサリエルから」
「あの天狗を抹殺する」
「はい他に意見ある人ー」
「……」
今度は椿が手を挙げた。
「とにかく、稲荷さんの安全を確保するためには天狗山を殺すとまではいかなくても、捕縛するなりしておくのが一番だろう」
「ふむ……そうだな、それでいくのが一番かな……で、天狗山はどこにいるんだ?」
「あの……それなら多分狐音神社にいると思います。私が生きていても、天狗にとって住みやすいことには変わりありませんから」
稲荷がおずおずと小さな声で言った。
「んー……それじゃあ神社に俺とルシフと椿で天狗山を捕縛しに行って、稲荷さんはここで待機しておく。サリエルは稲荷さんの護衛。みたいな感じでどうだ?」
「あ、あの……やっぱり私も一緒に行った方がいいんじゃないんでしょうか?」
「どうして?危険じゃないか」
「いえ、あの……私以外神社への道を知りませんし……」
「あの山なら登ったことがあるから、だいたいの場所さえ教えてくれれば大丈夫だと思うが……」
「いえ、あの……天狗山が住んでいるのならどんな罠を仕掛けられているかわかりませんし……普段から森を散策して細かいところまで知っていて異変に気づける私が必要なんじゃないかな……とか思うので」
「んー……この面子なら罠だろうがなんだろうが平気でいられる気がするんだが……そこまでいうなら一緒に行った方が逆に安心か?天狗山が神社にいるとも限らねえし」
「そうですよね、それでは私もついていこうと思います」
稲荷は安心したように笑顔になる。
「……」
「どうした?椿」
「ん?いや……うん、そうだな。稲荷さんも一緒に行った方がいいと思うぞ」
「椿も賛成ならそれで決定だな」
「じゃあどの程度の時刻に行くのか決めんとのう」
「山の中だし、地の利は向こうにあるだろうな。夜になって暗くなれば更にこっちが不利になるだろうから、行くなら太陽が出ているうちだろうな。後は何時、何処から行けばいいのかなんだが……」
「……面倒くさい。正面から堂々と行けばいい」
「ふむ、面倒くさいというわけではないが、この際昼間であればどんな時に、何処から行っても変わらないだろうな。どうせ向こうも夜に来るとは思ってないだろうし、昼間は常に警戒はしているんだろうからな」
「なるほどな……なら、明日の午後二時に行こうか。正面から堂々と、な」
「問題ないだろう」
「異議なしじゃ」
「……それでいい」
「いいと思います、とても」
「ん、それじゃあまた明日」
こうして、それぞれは明日に向けての用意をしてから休息をとった。
ところで、
「なあ、主さまよ」
「なんだ?ルシフ」
「儂は明日何を着ていくんじゃろうか?」
「メイド服に決まってるだろ?」
「……当然」
「じゃろうな……」
げんなりしている悪魔と、
当たり前だろうという顔をしている主人と死神が、そこにはいた。