第10話 それは……多分悪魔と死神の入学だった……と思う
月曜日。
一週間の始まりであるこの日の朝。
拓真は早速学校の机に突っ伏していた。
しかし、後ろから誰かに抱きつかれ、耳元で、
「起きて、あなた」
と甘い声で囁かれた。
「……誰のことかわからんな」
「君のことだよ未来の我が旦那様」
まあ、例のごとく椿なのだが。
「なる気ないな」
「そうかそれは残念だ。君が家に女を連れ込んで同棲していると言いふらしてやろう」
「……可能性がないわけじゃない」
「ふむ、では私も頑張るとしよう」
「ふん、頑張れ」
「……なにやら今日はご機嫌だな、君は」
「……そうか?」
「ああ、何かあったのか?」
「……まあ、後で分かる」
「……?」
その時、チャイムが鳴った。
担任があくびをしながら教室に入ってくる。「ふわぁぁ~……あー、今日の連絡は特にない。ただ、お前らに紹介する子たちがいる。入ってこい。」
教室がざわめく。
椿はまさか……という顔で拓真を見た。
入って来たのは、
悪魔。スノウシルバー・ルシファリオン・カオスフィールドと、
死神。シュガーホワイト・サリエリス・ソウルシェイカーだった。
二人のあまりの美しさと可愛さに、男子たちのみならず、女子たちも騒ぎ出した。
「雪風 ルシフじゃ」
「……白神 サリエル」
「えー、帰国子女なんだっけ?」
「はい」
「そう」
「あー、この子たちは……どっからきたんだっけ?」
「「魔界から」」
「あー、マカイというところからだそうだ」
二人がものすごい爆弾発言をしたのだが、先生及び生徒達は二人の風貌から自分たちの知らないマカイという国から来たと勘違いしたようだった。
「……おい、どういうことだ。なぜ彼女たちが……」
椿がひそひそと拓真に話しかけると、
「あいつら……あれほどアメリカから来たといえと言ったのに……」
拓真は頭を抱えて唸っていた。
「アメリカもどうかと思うが……それより答えろ」
「あいつら暇そうだったし、それに……」
サリエルがメイドになったあの日、事情を説明しようとした拓真がルシフに絶命させられそうになり、サリエルが拓真を守ろうとしてルシフと少しやりあったため、家の中がぐちゃぐちゃになったりもしたが、自分の下に就くのなら、という条件付きで、サリエルもメイドになった。
それから、そろそろ外にも、具体的には学校に行きたいと言ったので、いろいろと手を回してルシフとサリエルは学校に行けるようにした。
「……というわけだ。異議のある人は元気よく両手を挙げろ」
「大丈夫なのか?あの二人がここに来て」
「んー……この世界の一般教養はあるみたいだから特に心配することもないと思うが……なんか心配か?」
「ああ心配だ。君はなにか勘違いをしているようだから教えてやろう……私が言いたいのは……」
ルシフとサリエルはクラスの全員から質問攻めにあっていた。
好きな食べ物は?
マカイってどんなところ?
趣味は?
好きな音楽は?
そんなことを口々に言われて、ルシフは戸惑い、サリエルはピクリとも動かないで、全く答えられていなかった。
しかし、
好きな人はいるの?――
という質問にだけ、
「ふむ、おぬしらの言う好きとは違うかもしれんが、主さま……天村拓真が好きじゃよ」とルシフが言い、
「あれ……かもしれない」
とサリエルが拓真を指差した。
クラス中の視線が拓真に集まる。
男子全員と一部の女子から殺意の視線が注がれ、残りの女子から好奇の視線が注がれた。
「あの二人がここにいて、君が大丈夫かということだ」
「なるほど……」
「私が言いふらさなくてもすぐにバレるんじゃないか?同棲してること」
天村拓真。二人を学校に来させたことを、少しだけ後悔した。