第9話 それは……多分死神の本性だったんだろうな
あの騒動から一週間。
つまりは、月曜日。
しばらくはいつもの日常に戻ると思っていた拓真は、少しやつれていた。
「はあ……」
「どうしたんだ?最近元気が無いな」
拓真と椿は二人で屋上にて昼食をとっていた。
「ああ……まあ、いろいろと、な……」
「ふむ、ではそんな君を私の温かい愛の包容で癒してやろう」
「おう、ありがとう……」
「どうやら本気で疲れているようだな、いつもみたく拒否しないとは……まあそう言うなら喜んで抱き締めさせてもらうが」
そう言って椿は全く抵抗しない拓真を引き寄せて、抱き締めたり、頭を撫でたりしていた。
すると、
「……!」
拓真は急に椿を突飛ばした。
「……私は深く傷ついた。このまま屋上から飛び降りていいか?」
椿が暗く落ち込もうとしたが、拓真はそれに目もくれず、いつの間にか拓真の前にいた何かを取り押さえていた。
「あ、君は……」
その何かは、
死神。シュガーホワイト・サリエリス・ソウルシェイカーだった。
「……」
押さえられていても、抵抗する気はないとでも言うように、サリエルは拓真を凝視したままだった。
「はあ……お前、そんなに俺を殺したいのか?」
「……」
そう、拓真がやつれている理由は、この死神だった。
あの時に拓真の言った『いつでも殺しに来いよ』という言葉を律儀にも守り、三日前から一日一回、ランダムな時間にサリエルは拓真を襲っていた。
もちろん、拓真が生きているということは、それらを全て阻止しきったということなのだが。
「ほら、とりあえず今は帰れよ。また次頑張れ」
自分の命を狙っている相手に頑張れと言うのもおかしいが。
「……分かった」
そう言ってサリエルはまたあのときのように消えていった。
「……大変だな、君も」
「ああ……」
「まあ、君も頑張るといい。本当に困ったなら私に言えば、あの子を滅してやらんこともないがな」
「そうならねえことを願ってるよ」
翌日――
夕飯をとっている最中に襲われる。
一緒に飯を食べていたルシフが取り押さえた。
逆さ吊り一時間の刑。
翌々日――
朝起きたら目の前に死神が俺に跨がって鎌を振りかぶっていた。
被っていたシーツをそのままサリエルに被せて視界が失われているうちに撃退。
洗濯物と一緒に物干し竿に干してやった。
翌々々日――
風呂に入っていたところを襲われる。
シャワーで撃退。
屋根の上に磔の刑。
翌々々々日――
トイレ中に襲われる。
とりあえずトイレットペーパーを投げて牽制した後、チャックを閉めてから撃退。
くすぐりの刑。
翌々々々々日――
寝ようとしていたところを
「ってもういいわあああああ!!」
拓真がついにキレた。
サリエルがビクッとしたような気がした。
拓真はサリエルを上から押さえつける。
「どんだけだよ!?もういい加減許してくれませんかねえ!?」
「……」
サリエルは動かない。
「あー……なんだ、その、本当に悪かったからさ、許してくれねえかな」
「……やだ」
「いや、本当に悪かったと思って――」
「やだ」
「だから」
「やだ」
「な」
「やだ」
「……」
「やだ」
プチッ――
拓真の何かが切れた。
「おいお前、いまここで死ぬか魔界に帰るか俺のメイドになるかを選べ」
拓真はさりげなく自分の欲望も取り入れて、この問題を一気に解決しようとした。
しかし、
「メイドになる」
予想外の方向に即答だった。
「は……?」
「あなたのメイドになる」
「いや、俺としてはまさかの棚ぼたなんだが……お前は俺を殺しに来たんだよな?」
首肯。
「それで、俺のメイドになりたいのか?」
またもや首肯。
「俺のことを殺しに来たんだよな?」
コクン。
「……俺のこと嫌いか?」
フルフル。
まさか……こいつ……
「なあ、サリエル……俺のこと好きか?」
「……別に、あなたのこと好きなんかじゃない」
「あと、なんでいつも捕まったあと逃げないであんなアホみたいな刑を受けてたんだ?」
「……別に、苛められるのが好きなわけじゃない」
「……」
「でも、ちょっと苛め方が弱い気がした」
「……はぁ」
死神。シュガーホワイト・サリエリス・ソウルシェイカー。
ものすごく分かりにくいツンデレ&ドM。
拓真にそんなメイドができた。