小説削除依頼申請書

俺は日々小説を書いてはサイトに投稿している無職の三十歳だ。

二十歳から小説を書き始め早十年。半ばあきらめかけている。

小説で食っていける奴はほんの一握りだ。ほとんどの奴が挫折するか黒歴史にして辞めちまう。

ただ働くよりも辛いのが小説家って仕事だ。いや、仕事にすらなっていない。

給料が発生していないからだ。俺はこれ以外になにかしているわけでもない。

ってことはお金を得ることができないただのニートってわけだ。

なんで上手くいかないかはわかっている。

それは、俺が書いた小説はすでに投稿されているからだ。

そんなもの俺が投稿したところで二番煎じだって書かれて終わりだ。

正確には書かれてすらいない。十年やって評価をもらえないゴミ以下の人間だ。

親のすねをかじるのも、もう限界だ。

あと一年で結果を残せなければ、就職すると約束している。

何としてでも入賞し、出版までこぎつけたいところである。

だが、どんな小説を投稿すればいいのかわからない。

今までの作品はどれもパッとする内容ではない。

“ 本物 “ってやつには未だに勝てないし、届かない。

どうすればいい．．．．．．そう、いつものように頭を抱えているときだった。

あるサイトが見つかったんだ。　それは「小説削除依頼申請書」というサイトだった。

怪しさ満点だったが、俺にはもう後が残っていない。

藁にもすがる思いでそのサイトをクリックした。

そこには、こう書かれていた。

小説削除依頼申請書

ここではあなたが不要と思った小説の削除を依頼することができます。

どのような作品でも申請をすることが可能です。

ですが、削除したい小説によってはそれ相応の” 対価 “をいただきます。

一度騙されたと思って依頼してみてはいかがでしょうか。

あなた様のご利用を心からお待ちしております。

こんなものにすがるなんてどうかしてるって理解はしている。

理解はしているが．．．．．．俺は、依頼をしてしまったんだ．．．．．．

依頼したのは俺と内容がかぶっている三作品を選んだ。

どの作品も俺の投稿した小説の内容と酷似している。もはや同じと言っても過言ではない。

「あいつらが先に投稿したのが悪いんだ．．．．．．この作品がなければ俺が有名になれたはずなんだ。」

俺は勢いにまかせて申請書を書き上げた。

申請書に書くことはいたってシンプルだ。

削除したい小説名と作者名を書き、いつ削除したいのかを書くだけだ。

いつ削除するって項目が気になるが、まあ明日でいいだろう。

この世からきれいさっぱりなくなってくれないと、俺が日の目を浴びれないからな！

そうして申請書を送信した後、俺は久しぶりに熟睡できた。

最近は小説を書くのがストレスで不眠症になっていた。

「これで．．．．．．明日になれば．．．．．．俺の天下が始まる．．．．．．！」

翌朝起きた時俺は冷静だった。

よくよく考えれば小説を削除するなんて書いた本人しかできることじゃない。

まして人気小説を対象にした。　削除なんて無理だろう。

ほとんど諦めている状態で俺は削除対象にした作品を検索した。

すると、三作品とも検索にヒットしない。

出版もしていたはずなのにそのことすら” なかったこと ”になっている。

その事実を見て俺はにやけ顔が止まらなかった。

「あの申請書は本物だったんだ．．．．．．！あの申請書さえあれば．．．．．．！」

そう思ったときにはもう手が動いていた。

また「小説削除依頼申請書」のサイトを開きほかの作品も削除すべく依頼書に書きまくった。

俺の小説と同じ内容のものは当然として、人気のある作品はすべて削除依頼を出した。

気づけば夜七時になっていた。

もう何作品を削除依頼したかわからない。きっと数百は申請したはずだ。

こうなるならもっと早くこのサイトを知りたかったな。

そういえばもうご飯の時間のはずだが、親が呼びに来ない。

今日は晩飯抜きということだろうか。　ずっと部屋にこもっていたからしょうがないか。

これからは小説でばりばり恩返ししていかないとな。

「はぁ．．．．．．なんだか疲れたし、もう今日は晩飯はいいか。寝るとしよう。」

翌朝になった。　俺は意気揚々と削除依頼した作品を検索した。

やはり、すべてなかったことになっている。

俺は笑みがこぼれたと同時に思いついた。

いっそのこと俺以外の小説を全て消してやろう。

そうすれば全人類は俺の小説を見るしかなくなる。

なんて素晴らしい発想だろうか。

手を夢中で動かし早速依頼をしようと思った時だった。

「む、胸が．．．．．．」急に胸が苦しくなった。

立つことも座ることもできず、俺はその場に倒れてしまった。

意識が遠くなる．．．．．．「これからだって時に．．．．．．」そう呟き俺はこの世を去った。

「はぁ．．．．．．疲れたなぁ．．．．．．」

僕は小説を書き終え、パソコンを閉じた。

小説を書き始めてから、早三年経とうとしている。

未だに芽が出る様子はない。僕よりも後に書き始めた人はみんな芽が出始めてるって言うのに．．．．．．

どうすれば人気が出るかわからなかった。

自分なりに面白い作品はできているはずなのに．．．．．．

そんな時、ふとスマホの画面が光りだした。

そこには、

「小説削除依頼申請書」

と書かれたサイトが開かれていた。