5:終わりにしましょう
『アイヴァン・フォン・クレイフォード。貴殿の卓越した功績に対し、ここに勲章を授けることを決定する。これにより、我が国への貢献と勇敢な働きに深い感謝の意を表す』
アイヴァンが国王から勲章を得ている。
膝をつくアイヴァンはまだ幼く、それは名ばかりの勲章で精霊の愛し子という存在を誇示するためのものだと、リーリエは幼いながらも理解していた。
そして、アイヴァンが首を垂れる姿を、リーリエは取り返しのつかないことをしてしまったと後悔の念がこもった瞳で見つめていた。
魔法学部の庭園で隠れるように抱き合っているアイヴァンと魔法学部のローブを羽織った少女。
その二人をリーリエは何の感情もこもっていない瞳で見つめていた。
『君はもっと自分の気持ちに正直になった方がいい』
ジェレミーにそう言われたのもここだった。
リーリエははじめて魔法学部にやって来た時に、アイヴァンに会ったことを思い出す。
人に会いに来たって彼女のことだったのね。
リーリエが誰に会いに来たのかをアイヴァンが気にしていたことにも合点がいく。
アイヴァンは私が浮気相手である少女に会いに来たのだと勘違いしたんだわ。
「彼女だったのね」
「何がだ」
「あなたが魔法学部に会いに来てた人」
「だったら何だ。お前に何ができる」
お前には何も出来ない。そう言うかのようなアイヴァンの物言いにリーリエは、無表情から表情を変えはじめて笑みを浮かべた。
そう。私は今まで何もしてこなかった。
アイヴァンの浮気はこれがはじめてではない。
アイヴァンが誰と親しくなろうと見ないフリをしてきた。
それは、私がアイヴァンに対して申し訳なさを感じていたから。
だけど、私は十分に耐えた。
笑うリーリエをアイヴァンは怪訝な顔で見つめている。
もう終わりにしないといけない。
「知ってる?」
朗らかな笑みを浮かべ、リーリエは優しく問い掛けるような声で言った。
「何をだ」
「領地にあるワイン畑のブドウが豊作で例年より実りが早かったの」
「そんなこと俺が知るわけないだろ。それに、俺に何の関係がある」
質問の意図が分からないとアイヴァンは困惑した声色で言った。
リーリエの領地には大きなワイン畑がある。
そのワイン畑のブドウは、他の地域のブドウが不作になっても、何か特別な力が働いているかのように何年も豊作が続いている。
「そうよね。アイヴァンには関係のないことだわ……」
豊作続きの理由が、精霊の愛し子であるアイヴァンの婚約者だからなんて言う人がいるけれど。
それは、半分正解で半分不正解だ。
だって、精霊の愛し子はアイヴァンではなくて私だから。
リーリエは数秒間の間、瞳を閉じると宝石のように輝く瞳をアイヴァンに向けて口を開いた。
「ごめんなさい。そして、終わりにしましょう」