4:気持ち
「僕の友人になにか?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、目の前に立っている人物を見てリーリエはわずかに目を見開いた。
どうして彼がここに……。
割って入ってきたのはリーリエが探していた人物ジェレミー・ベルナルド。
アイヴァンと向かい合っても負けない長身のジェレミーは、アイヴァンからリーリエを守るように立っている。
「友人?こいつと?」
「勉強仲間なんだ。昨日も一緒に勉強を」
友人という言葉に驚いた顔をしたアイヴァンは、リーリエとお前が友人?という感情がすけて見える冷笑まじりの声で言った。
そんなアイヴァンの声に対して、ジェレミーは気にしていないかのように自然に答える。
ねっ?と尋ねられたリーリエは反射的に首を縦に振ると、ジェレミーは満足気な顔をした。
アイヴァンから助けようとしてくれてる?
昨日はじめて会って隣で勉強をしただけなのに。
そんな二人をアイヴァンは訝しげに見る。
「なるほどな。図書館になぜいたのかと思ったらそういう理由か」
「君も一緒に勉強をするかい?歓迎するよ」
「いや、俺はいい。鍛錬で忙しいんでね」
アイヴァンはリーリエとジェレミーを見てフッと笑って言った。
「友人選びには気を付けた方がいい」
その言葉を残してアイヴァンは魔法学部を去って行った。
「ごめんなさい。迷惑をかけて」
アイヴァンが去った後。
本を返しに来たと伝えると、お礼がしたいと案内されたジェレミーの魔法学部にある研究室の椅子に座ってリーリエは謝罪の言葉を口にする。
リーリエの謝罪にジェレミーは不思議そうな顔をして言った。
「どうして君が謝る?悪いのは彼だろう」
「彼は私の婚約者だから……」
「それでもだ。謝罪するとしたら剣術学部の教授たちだ」
「どうして剣術学部の教授が?」
「彼の性根を教育できなかったから。どんなに優秀な剣士でも同じ男性として女性である君への態度は……、婚約関係にある君との関係性を考えてもあの態度は良くない」
アイヴァンのリーリエの態度に怒ってくれる人はいたが、はっきりと言葉をかけてくれた人はジェレミーがはじめてだった。
リーリエはメガネの中の瞳を潤ませる。
泣きそうな顔をするリーリエに、ジェレミーは優しい笑顔を浮かべて言った。
「君はもっと自分の気持ちに正直になった方がいい」
「自分の、気持ち……」
ジェレミーの言葉にリーリエはスカートをギュッと握った。
リーリエは自分の気持ちがよく分からないでいた。
アイヴァンのリーリエの態度は婚約者に向けるようなものではないと分かっている。
けれど、リーリエはアイヴァンと婚約破棄をしようと思ったことはない。
それは、アイヴァンに対しての申し訳なさから。
けれど……。
もう、無理かもしれない。
リーリエは限界を感じていた。
アイヴァンとリーリエが婚約して9年が経とうとしている。
考えるには十分過ぎる時間が過ぎた。
「私に、出来るでしょうか」
自信がなく小さな声で呟かれた言葉に、ジェレミーは優しい声で言った。
「君になら出来るさ」