2:美しい人
リーリエの大きなメガネ越しでもキラキラと輝く金髪に、エメラルドのように輝く理知的な瞳。
美しい人……。
男性にこの言葉が合っているのか分からないが、リーリエはこんなに美しい男性を初めて見た。
王子様が図書館に迷い込んだのかと思ったけれど、彼が魔法学部のローブを纏っていることで学園に通う男子生徒だということが分かった。
リーリエは本物の王子を見たことがある。
本物の王子以上にただならむオーラを放つ彼は、彼がいる図書館という空間を特別な場所に思わせる不思議な魅力を放っている。
リーリエは瞬きを数回繰り返して言葉を絞り出す。
「………………隣、ですか?」
「他の席には座り辛くて」
眉尻を下げて困ったように言う彼はチラッと周囲を見て言った。
彼を真似するようにリーリエも周囲を見ると、ビクッと身体を震わせる。
凄い見られてる……。
図書館にいる全ての人の視線が集中しているんじゃない?
そう思わせる視線の数と飢えた猛獣のようなギラギラと輝く視線に圧倒されたリーリエは、目の前に立つ彼に視線を戻す。
リーリエの反応に申し訳なさそうにする彼が、リーリエの瞳には猛獣の中に解き放たれて震える子兎に見えた。
勉強さえも簡単に出来ないなんて……。
こんなに美しい人なら、誰かに助けを求めることは簡単なことではなかったはず。
勉強をしに図書館に来たら彼を狙う猛獣達。
そして、彼が助けを求めたのは人畜無害そうな私。
困っている人を助けない理由はない。
「どうぞ」
「ありがとう」
リーリエの言葉にフワッと花が咲くように笑った彼はキレイで、リーリエは眩しい物を見るように目を細めた。
彼が隣に座ると時々視線が気になりはしたけれど、図書館には静かな時間が流れていた。
最初こそアイヴァンに会って気分が落ち込んでいたリーリエだが、課題の進み具合に満足そうに頷く。
隣を見るとすでに彼の姿はなく、かわりに一冊の本が取り残されていた。
忘れ物?
本を手に取ってページをめくると、キレイな字で書き込みがされている。
小難しい魔法の話が永遠と書かれている本をパラパラと最後のページをめくると。
「ジェレミー・ベルナルド……」