20:月明かり
太陽が地平線に沈みかけ、学園の上には三日月が輝いてる。
リーリエの手首に付けられたブレスレットが街灯に照られされキラッと輝く。
リーリエは一人。女子寮に帰るために歩いていた。
女子寮までわずか数十メートル。
肌寒さに身体を震わせるリーリエはピタッと足を止める。
女子寮へと続く道を塞ぎ、立ちはだかる人物が無表情のリーリエを緊張を帯びた顔で見つめている。
「久しぶりだな」
「久しぶりね」
女子寮の前で会ったのは偶然で何でもないかのように挨拶するアイヴァンに、リーリエは表情を変えることなく静かに挨拶を返す。
アイヴァンの悪態にはじまり、アイヴァンの悪態で終わる。
そんなことが何年と続いていたアイヴァンとリーリエの関係に、罵声がないいつぶりかの穏やかな挨拶。
リーリエの返答にアイヴァンはリーリエに気付かれないようにホッと小さく息を吐く。
「元気にしてたか?」
「毎日授業に出て、アイヴァンと今ここで話せるぐらいには元気にしているわ。アイヴァンこそ元気にしていたの?」
「リーリエが元気で良かったよ。俺はもちろん元気だ」
「そうなの……。アイヴァンに立てなくなるまで重傷を負わされた生徒は、授業に復帰できていないと聞いたから心配していたのよ」
「俺を心配してくれるのか?実践授業で傷を負っただけなのに、教授たちに注意されて大変だった。お陰で数日間、剣を握るのを禁止されたんだ」
リーリエが自分のことを気にかけてくれている。そう思ったアイヴァンは嬉しそうに話す。
「私はあなたに怪我を負わされた生徒を心配しているだけよ。でも、良かった。ペンも握れないのかと心配していたのよ?」
「ペン?」
なぜペンの話を?ペンは剣と比べれるまでもないぐらい軽い。
剣術学部のアイヴァンはペンより剣を持つ時間の方が長い。
何を言っているのかと戸惑うアイヴァンにリーリエはフッと笑みをこぼす。
「ペンを握れないと文字も書けないと心配していたの」
「あぁ。そういうことか。教授たちに剣ではなく本を読んで、剣士としての心得を勉強し直せと言われたぐらいだ。ペンぐらい何本でも持てる」
「そうなのね。じゃあ――」
リーリエの続く言葉にアイヴァンな目を見開く。
「はやく。婚約破棄にサインをして」




