19:差出人
ゆらゆらと優雅に。そして迷いなく学園の中を飛ぶ蝶々が私たちを導いている。
手紙を書いた人物への道を示す蝶々と。それを追いかける少年少女。
まるで童話の話みたいなドキドキと心踊る出来事とは違い、誰が手紙を書いたのかリーリエは緊張していた。
リーリエの前を歩いて蝶々の後を追うジェレミーの横顔をチラリと見る。
ジェレミーはどうしていつも助けてくれるんだろう。
出会いは図書館。いつも注目の的で気安く図書館で勉強もできないジェレミーに、隣を座っていいかと聞かれたのがはじまり。
アイヴァンに絡まれていたところを助けてくれただけではなく、私に変わる勇気を与えてくれた。
周囲を寄せつけない魔法学部の学年首席。高位貴族出身、実は王族だとか噂が絶えない上。この美しい容姿。
ジェレミーは否応なしに周囲の注目を集め、彼の瞳に写りたいとたくさんの人がジェレミーに話しかけようと遠目に見ていることしかできないの人たちをリーリエは何度も見た。
たまにジェレミーに直接話しかける人が現れるけれど、ジェレミーと一言二言話すとどこかに消えて行く。
ジャスミンにジェレミーと友人になった。魔法を教えてくれると伝えると、ジャスミンはお化けを見た時みたいな信じられないと驚いた顔をしたのを思い出す。
ジェレミーは優しい。
だからと言って私は特別じゃない。
ジェレミーの優しさは友達としてのもの。私だからいいものの。勘違いしてしまう人がいるかもしれない。
そんなことを考えていると、ジェレミーは足を止めた。
ここは……。女子寮と学術部を繋ぐ道?
ここに手紙を書いた人物がいるの?
慣れ親しんだ道に戸惑っていると。
「キャッ。なんなのこれは!?」
声の方に視線を向ければ、優雅に飛んでいた蝶々はクルクルと女子生徒の周りを飛んでいる。
「彼女がリーリエに手紙を書いた犯人みたいだね」
ジェレミーが手を横に振ると、女子生徒の周りをクルクルと飛んでいた蝶々がリーリエが持っている手紙に止まるとパッと弾けて消えた。
彼女が、犯人……。
リーリエが緊張の面持ちで女子生徒を見ると、女子生徒はリーリエを見て目を開く。
「あなたがどうしてここに……」
驚く女子生徒はリーリエま視線を合わせて石のように固まったまま動かない。
あなた。そう言った女子生徒はリーリエのことを知っているらしい。
「彼女とは知り合い?」
「…………いいえ。知らない人よ」
女子寮や学術部で何度か見かけたことはある。
けれど、彼女の名前も話したこともない。
リーリエにとって友人と呼べるほど親しい人は、女子生徒の中ではジャスミンだけ。
実のところ。リーリエは手紙を書いた人物はアイヴァンに関係している人だと思っていた。
魔法学部のアイヴァンの浮気相手。それとも、アイヴァンの取り巻きか。
予想外の知らない人物の登場にリーリエは、驚きを隠せない。
「そうか……。君に少し聞きたいことがある」
「……何でしょうか」
「リーリエに手紙を書いたのは君ですよね。どうしてリーリエに手紙を?」
ジェレミーの問いに女子生徒は驚いていた顔から表情を消して沈黙する。
しばらくの沈黙の後。
女子生徒はフッと笑みをこぼして口を開いた。
「わぁ……。隠し通せるとは思ってはいなかったけど、こんなに直ぐバレるなんて。びっくり。流石、魔法学部の学年首席ですね」




