14:非日常
朝の食堂で手紙を受け取ったリーリエは学術部の廊下を歩いていた。
気を付けて。
そう書かれていた手紙のせいか、いつも無表情のリーリエの顔が緊張感で顔がこわばっている。
そして、リーリエの足取りはいつもより速くなっていた。
勉強するため学術部にいくつかあるいつもと違う図書館に向かいながら、リーリエは手紙について考える。
気を付けてって何に気を付けたらいいの?
私をただ怖がらせるためのいたずら?それにしても悪趣味すぎる。
たった5文字。
それだけの差出人なしの手紙なのに、リーリエに警戒させるには十分だった。
いつも通らない廊下を歩いてみたり、授業の時いつもと違う席に座ったり。
手紙の忠告を無視してはダメな気がしたリーリエは、普段と違う選択をするように心がけていた。
今まで何も変わったことは起こっていない。
いつまで気を張ったらいいのか、アイヴァンの婚約者だという理由で注目されていたのがマシになってきたと思ったら、これだ。
次々と起こる出来事にリーリエは頭を抱えたくなった。
「危ない!!」
学術部の校舎にこだまする声に廊下を歩いていたリーリエは足を止め振り返る。
すると、リーリエの身体の横を何かが横切った。
その何かを視線で追う。
すると、次の瞬間。
ドンっ
身体に衝撃が走り、リーリエの身体は冷たい廊下の床に投げ出される。
痛い……。
強い痛みを身体に感じながら、リーリエは『気を付けて』その5文字を思い出していた。
「ほんっとうにごめんなさい!!」
「わざとではないのですから、そんなに謝らないでください」
何度目かの謝罪をする女子学生に、リーリエは湿布が貼られた痛々しい手を横に振る。
動かすとわずかに痛むけれど、本当に申し訳なさそうにする彼女にリーリエは自分は大丈夫だと伝える為わざと大袈裟に振る舞ってみせた。
泣きそうな彼女は本をたくさん抱えて廊下を歩いてあると、つまづいた勢いで本が宙を舞い、身体はリーリエにぶつかったらしい。
「それより、急いでいたのではいですか?」
なおも申し訳なさそうにする彼女に、リーリエは話題を変えてみた。
彼女が持っている『魔法と公衆衛生の相互作用』を使うのは気難しいと有名な先生。
授業に遅刻なんてしたらどれほど嫌味を言われるかわからない。
リーリエの言葉に彼女は今では授業のことを忘れていたのか、キョトンとした顔をしたかと思うと顔を青ざめさせる。
「お詫びは後日改めてさせてください!!」
授業のため足早に去る彼女の背中を見送って、リーリエは深いため息を吐く。
少し、神経質になっていたみたいね。ただのいたずらかもしれないのに。
…………私も図書館に急がないと。
「おい。何が起こってるんだ」
「図書館の中が大変なことになっているんですって」
「大変なこと?それは何だ?」
廊下を歩いていると、今度はいつも使う図書館の外に人だかりができているのに気が付いたリーリエは、足を止めた。
人の隙間から図書館の中を覗くと、いつもより暗い図書館の中を見てリーリエは目を見開いた。
「図書館の照明が割れたのよ」




