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0:婚約者と少女

 制服に身を包んだ少年が少女を隠すように胸に抱いている。


 夜になると肌寒くなるとはいえ、昼間から抱き合うのはまだまだ暑苦しい陽気が漂っている。


 しかし、ここが数多くの男女が通う学園である限り隠れるように身を寄せ合う男女を見たことがある。つまり、学園ではさして珍しくない光景だ。


 その少年はリーリエがよく知る人物。分かりやすく説明すると親が決めた幼い頃からのリーリエの婚約者である。

 婚約者がリーリエ以外の女性と身体を寄せ、胸に抱き親しくしている。


 これを世間一般では"浮気"というのをリーリエは理解している。



 リーリエが大きな丸いメガネ越しに静かに婚約者を見つめていると。

 


「お前のその目が気に入らない」

 


 憎悪さえ感じる目で睨み、婚約者に向けるような言葉ではないことを言うアイヴァンに、リーリエは傷つくどころかどういう反応をするのが正解だろうと考えていた。



 この目はリーリエが肖像画でしか見たことがない曽祖母より受け継いだもの。

 光の当たり具合によって宝石のように輝く瞳をリーリエは気に入っていたが、人によっては目をひそめる人がいることを知っている。


 昔から見慣れているアイヴァンが言うほどだ、私が思っているよりも私の瞳に嫌悪感を感じる人がいるのかもしれない。

 


「尊重するわ」



 気にしていないかのように無表情で言うリーリエに、アイヴァンはハッと吐き捨てるように笑う。



「可愛げのない女だ」



 可愛げのない女。

 それはリーリエが一番分かっている。


 表情を隠す顔の半分を覆うほど大きな丸いメガネ。猫っ毛のフワフワとした胸まで届く老婆のような白い髪。

 長いスカートにきっちりと着こなした制服は全体的に野暮ったく見える。


 アイヴァンの胸の中にいる髪色こそ平凡な茶色の髪だが、髪色と同じ茶色の大きな瞳を潤ませる少女こそが可愛らしいという表現がよく似合う。


 少女を観察していると少女と目が合う。


 少女は小動物的な可愛らしさからは想像できない意地悪な目をして、口角を上げ馬鹿にしたようにフッと笑った。


 なるほど。これは男性が騙される訳だ。


 少女の変わり身に関心していると。



「聞いているのか」



 言い返そともせず、何も反応しないリーリエに苛立つアイヴァンの姿に、リーリエはどうしたものかと考え込む。



『自分の気持ちに正直になった方がいい』



 友人に言われた言葉を思い出す。

 

 悲しみ。怒り。呆れ。諦め。憎しみ。嫉妬。


 リーリエはこの感情をどう表現するのが適切なのか分からないでいた。

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