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我が身におこった事、すべからず我が身から出たサビと思へ

作者: 北風陣

高校デビュー。


大人しかったり、目立たない人間が、突然高校生になって、ヤンキー化したりして、目立とうとする事。


かつて、志田は高校3年計画というものを立てた。


まず一年目にした事は、制服から、シャツを出す事。

そして、中の下着のシャツを赤色にして、ヤンキーの風格を出す事。

以前の自分を知っているものから、軽んじて声をかけられたら、睨んで知らんぷりして立ち去る事。

強そうな先輩の後輩になる事。

精神的ヤンキー根性を付ける事が目標。


二年目、筋トレに励んで、筋力を増やして、肉体的に強くなる事。

目標は鉄棒の横の棒に水平に成れるようにする事。

ダンベルは二、三十キロの物を買う事。

もし人が家にきても、これ使ってると言う事。

肉体的にヤンキー根性を付ける事が目標。


三年目、オーラだけで、電車の一区画が空く、位の歩き方の作法、身のこなしを身に付ける事。

人を一瞬見て、見られた人がこっちを見た時、ガン無視して、前だけ真っ直ぐみて、決して相手をみず、振り返られても、決して振り返らない。

ひそかに成績ではなく、全国模試で学年トップをとる。

お年寄りと妊婦には、疲れた時じゃなかったら、電車の席を譲る。


押忍。以上をもって、高校デビューとする。


志田はシャツを制服から出す所から初めた。

初めは隣のクラスの奴等から、水を飲んだり、トイレに行ったりした時、あいつ、本当に強ぇーのかよって言われたが、涼しげな顔で、余裕のある顔で、聞き流す事につとめた。

ティシャツは赤。当然体育で先生にも注意されるが、中々譲らなかった。

皆の前では、赤がトレードマークと公言し。

陰では先生に、赤がオシャレ何でって、突っぱねた。

以前からの知り合いにあって、よぉ〜サイダー買ってこいよとか言われても、ガン無視。さらに、無機質に通り過ぎた。


学校で一番背の高くて、強そうな人の後輩になった。虎の威をかるキツネ戦法だ。

一年の時は精神面をヤンキー化するために、肉体的な事よりかは心の芯の部分を強くした。


二年目、筋トレを初め肉体的にも強くなる。

ありとあらゆる筋トレを行った。

家にある机を使って逆腕立て伏せをやったり、腹筋、背筋、スクワット、腕立て、ダンベルで筋トレ、とにかくガムシャラにやった。


遂に目標だった。鉄棒の横の棒に水平になり、スイスイと上の棒まで上がれるようになった。

この頃から、学食などでも、割り込んでくる奴に、片っ端から注意するようになった。

メンタルが一年目でついている上に、二年目の、筋肉が物言う時代になった。

この世は、筋肉が物を言う、良い時代になった。と内心ほくそ笑んでいた。

ダンベルは、雑誌の裏に載ってる、30キロで重さ調節出来るものを買った。

もし、人が家にきても30キロをMAXで使っているという事にした。

これで肉体的ヤンキーが完成した。


三年目、目標だった、電車一区間が、電車に乗ると空くという予定通りになった。

成績はとらないが、全国模試だけは学年トップをとるようにした。

予備校で、学校のトップが貼り出された瞬間、まんざらではない顔で小声で、トップは俺かと呟いた。


お年寄りと妊婦さんには優しく接した。

次世代や今の世代を作って貰ったんだ。当たり前だ。


かくして、三年計画が中盤まで差し掛かった事である事に気づいた。

彼女がいない。

突然焦った。

だが、ヤンキーの人が好きな人も一定値いるらしい。

声を可愛い女の子からかけられた。

ヨシャと叫びそうになるのを押さえて、話をしてたら、電話が。

友達から、後輩に女の子を紹介して欲しいと。

ヤンキーはこう言う時、友情を選ぶ。

泣く泣く、女の子を紹介する。


また出会う。紹介する。の繰り返しで一向に彼女が出来る気配がない。

クリスマス??バレンタイン??青春がヤンキー化だけで終わってしまう。

道を通れば、左右に人が寄り、新しい道ができる。

前人未踏の地である。そんな志田に彼女がいない。

クリスマス先生。バレンタイン先生。help me。


時間が刻一刻と迫る中、クリスマスが来てしまう。


恋人の居ない苦しさに、学校でボスを演じて、誤魔化そうとした。

帰り道、電車で降りたその時、シャンプーの匂いがした。

中学校のマドンナ、才華である。

白いジャンバーを、羽織って、嬉しそうに携帯をイジっている。街行きの方向である。


そうか。そうだったんだ。

俺が欲しかったのは、違う。

ヤンキー街道でデビューして、人から崇拝されたかったんじゃない。

目立ちたかったんじゃない。

全ては、情けない中学生活で手に入らなかった、彼女の心を、どうにか手に入れたかっただけなんだ。

志田は気づいた。

俺は彼女が好きだった。

こんな自分でも、何か変わればいつか可能性の文字が、見えてこないかと。


だが、どうやら心の芯の部分までも、振り回されたり、奪われたりしていたようだ。


問うべきだったのだ。

自分自身にやましくないのか。

嘘をついて、見えない闇にとらわれてないか。

本当の自分自身に嘘をついてないのか。


後悔にさいなまれた。

欲しかったものから遠ざかって行ってたんだ。

何をしていたんだ。

後悔してもしきれなかった。


志田はシャツを入れる事にした。

卒業式の日、名前が呼ばれた。

校長先生に卒業証書を貰った後。

大変お世話になりました、と全力で頭を下げた。

自分の卒業式の席に帰る前、来賓にも後輩たちの前でも、深々とお辞儀をした。


俺には後悔の三年間になってしまった。

本当に、悪い夢であって欲しい。


外に出て、歩くと数人の女の子がいた。

ハサミを持って走ってきた。

刺される。そう思ったが、大丈夫だった。制服の第二ボタンを取られただけだった。

それは、まるで悪い夢を切り取るように、神秘的な出来事のように感じられた。

救われた。そう思った。

君の名前は??

ふと口から自然と言葉が出ていた。

相手は赤ら顔に夢乃と答えた。


そうか、三年間無駄だったと諦めていたが、人生は今が終わりではない。

気付いた時が人生で一番若い。無駄じゃない。

高校デビューは失敗したが、この子と幸せな恋人生活を送りたい。


自然と頭が下がった。俺と付き合って下さい。

中学生の時言えなかった台詞を口ずさんでいた。



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