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「ふう……やっぱり無理」


 先程、マジカルプリンセス♡キングダムを見終わった。全26巻の52話、最後はオリジナルでTVで放映されていなかった物だ。


 その全てを見て、冒頭の結論に至った。

 どうにか榊原でも到達出来そうな戦闘はないかと探したのだが、天音でも難しいレベルの物ばかりなので、どうやっても無理だった。

 榊原がこの特撮の領域にまで踏み込むには、奇跡のような偶然でも重ならない限り不可能だ。

 もっと具体的に言うと、何らかの力に覚醒して、国家予算並みの値が付く武器をダンジョンから手に入れるという物だ。


 もうそこまでいくと、天音の訓練云々は関係ない領域である。


「素直に謝るしかないかな」


 うーんと悩みながら、もう一度マジカルプリンセス♡キングダムを見直してみる。

 ストーリーは全部飛ばして、戦闘パートのみを再生すると、迫力満点のシーンの連続で息つく暇もないほどだ。

 ただ、ずっと見ていて思ったのは、


「これって参考になるな」


 というものだった。

 天音自身、師匠にスパルタで鍛えられたのもあり戦闘スタイルは確立している。その中に、新たな手数を組み込むには相応のレベルの物が求められる。

 それが、このマジカルプリンセス♡キングダムには多く詰まっているのである。

 体の動かし方、目線の動き、魔力の使い方は不明だが、今の天音になら何となく想像が出来る。


 これは天音自身に取っても、大きく成長するチャンスだった。





 季節は秋を迎え、高校では文化祭が近付いて来ていた。といっても一ヶ月先ではあるが、そろそろ催し物を決めなくてはならない。


「じゃあ、この中から決めて行こうと思います。それぞれ読んでいくので、これがしたいと思う物に手を上げて下さい」


 学級委員長の男子が前に出て、候補に上がった物を読み上げていく。

 その中にはメイド喫茶やお化け屋敷に屋台などあり、変わり種でいうと映えスポット作りなんかもあった。


 メイド喫茶やお化け屋敷は不評で手が上がらず、無難な屋台や変わり種の映えスポットが多くの手が上がった。


「何でだよ⁉︎ メイド喫茶やろうぜ! 女子のメイド服姿見たいだろう!」


 そう主張するのはぷっちょ……ではなく、クラスカースト上位の茂木だった。ダンジョンでやらかして以降、磯部と共に大人しくしていたのだが、最近勢いを取り戻していた。


「やめてよ、ドラマとかアニメだと簡単にやっているように見えるけど、これって準備とか大変なんだよ」


 そう反論するのは、これまたカースト上位の真希である。真希は女子を代表しているのか、他の女子達も頷いて同意していた。


「でもさ、せっかくの文化祭なんだからさ、みんなで頑張ってやりたくない? 一生の思い出になるんだぜ」


 そう言うのは磯部だ。

 プロの探索者を目指しているだけあり、体を鍛えており他の同級生よりも一回り大きい。それなのに性格は穏やかなものなので、男女共に支持されていたりする。


「思い出なら他でも作れるから嫌」

「誰がメイド服作ると思ってるのよ」

「必然的に女子に負担が来るでしょうが」

「もっと考えてから発言してよ」


 しかし、今回の意見は支持されなかった模様である。


「じゃあ、映えスポット作りということで良いですか?」


 天音のクラスの出し物は、変わり種の映えスポット作りに決まった。


「なんで屋台じゃないんだ?」


 そう呟いたのは、食い意地の張ったぷっちょだけだった。


 それからどのような物をクラス内に設置するのか検討していき、役割を振り分けて行った。


「僕は撮影係か」


「簡単そうで良いな、俺なんて作成係だぜ」


「仕方ないよ、天音はバイトもしてるし」


 天音は当日の写真撮影係に任命された。他にも三名おり、交代でやるのでキツくはないし文化祭も楽しめる。かなりお得な係である。


「でもさ、映えスポットってどういう風に作るの?」


「えっと風船エリアに絶景エリア、ファンシーエリアか……まったく分からん」


「風船エリアは色んな形の風船を設置して、黒壁をバックにする。絶景は、ネットに転がってる画像を映すんだって。ファンシーは縫いぐるみを敷き詰めるみたい」


 何故か知っている高倉くんが教えてくれる。

 因みに高倉くんは受付担当なので、天音と変わらないくらい楽である。


「そうなのか、って言うか俺だけ大変じゃない⁉︎」


「いいじゃないか、本番はゆっくり出来るんだし」


「いいや納得いかない。せめてさ、撮影係って言うなら絶景な写真撮って来てくれよ! ネットの画像なんて使いたくねーよぉ!」


「どういうこだわり? 絶景って言われても……学校の屋上からでも良い?」


「駄目、珍しいやつじゃないと許さん」


「ええー」


 ぷっちょの無茶振りに頭を悩ませる。

 別に無視してもいいのだろうが、何かしら写真を撮って来ないと文句を言われそうである。


「分かった。面倒だから何か適当に撮って来るよ」


「本音ダダ漏れにしてんじゃねーよ⁉︎」





 本日は土曜日というのもあり、泊まり掛けでダンジョンに挑戦している。

 60階から出発しており、行ける所まで行くつもりでいる。物資も昨日のうちに購入しており、準備万端だ。

 モンスターとは極力戦いつつ、危ないと思ったら即撤退。この階層で出現するモンスターとの戦闘にも慣れては来ているが、確実に勝てると言える戦いはそう多くはない。

 それだけ、ここで出現するモンスターは強力なのだ。


「絶景スポットか……」


 相性の良いアースドラゴンを仕留め、一息ついているとぷっちょの言葉を思い出す。

 絶景と言われても、天音自身そういった場所に行った記憶がない。イメージは海外の巨大な滝や超高層ビル群。そんな物は近くにはなくて、とてもではないが行く余裕は……一応ある。

 それでも、文化祭の写真のためというのは、いくら何でも嫌だ。


「どこかお手頃な所はないかな」


 なんて油断していたら、上空に巻き上げられる。

 一瞬の出来事で反応に遅れてしまい、目前に迫る鉤爪に鉈を合わせるのが精一杯だった。


「ぐっ⁉︎」


 ギンッと激しい音が鳴り、錐揉みしながら落下する天音。

 風属性魔法を使い、空中で体勢を立て直すと、強襲者に向けて風の刃を飛ばす。

 不可視の刃は一直線に飛び、上空で旋回している巨大な鷲を襲うが、途中で搔き消されてしまい届かない。


 大嵐大鷲(テンペストイーグル)

 大気を操る空の王者で、この階層で苦手なモンスターの一体だ。

 大嵐大鷲の狩は獲物を直接狙わず、魔法で上空に巻き上げてから襲うというものである。強力な鉤爪と纏う羽は対物理対魔法共に高い耐性を持っており、空を飛ぶ機動力と相俟って倒すのが困難なモンスターだった。


 これまでに倒せたのは一度きり。

 だから問題なく倒せる。


 周囲から鈍器のような風が迫る。

 それを急降下して避けると、地面に着地する。すると、また同じように巻き上げられ、視界が激しく回転する。

 それは分かってる。次に来るタイミングも分かっている。


 天音は自分の体を魔法で上空へ押し上げ、大嵐大鷲の攻撃のタイミングをずらす。

 凶悪な鉤爪が下を通過し、体を捻って次に襲う嘴に向かって鉈を振り下ろす。

 ガッと鉈が食い込むと大嵐大鷲は一瞬だけ怯む。痛みで動きが止まらないのは、それだけ強いモンスターの証だ。しかし、天音にはその一瞬で十分だった。


 一瞬の隙に首元にしがみ付くと、大嵐大鷲が操る魔法に干渉する。

 同じ風属性魔法を得意とする者として、大嵐大鷲の腕前には嫉妬すら覚える。それほど熟達したモンスターだが、直接触れれば魔力に干渉するのは可能だった。

 魔力が乱れ、魔法が使えなくなった大嵐大鷲は天音を乗せたまま落下する。

 ドンッという落下による衝撃が天音を襲うが、そのほとんどは下敷きになった大嵐大鷲が引き受けてくれた。

 だが、それだけのダメージを受けても、死んだ訳ではない。この階層のモンスターは、落下程度のダメージでは死んではくれない。


 天音は即座に立ち上がり、嘴に突き刺さった鉈を引き抜くと、大嵐大鷲の首を斬り飛ばした。


「ふう、同じ方法で倒せるのはいいね」


 これまで倒し方を見出せなくて何度も逃げていたが、前回初めて倒せてから、このモンスターも恐れる必要はなくなった。


「このモンスターの羽は高く売れるからありがたいな」


 そう言いながら採取に取り掛かろうとすると、再び上空に巻き上げられた。

 どうやら、おかわりが来たようである。


 上空からの景色って何だか凄いよなぁと思いながら、天音は鉈を振り翳した。

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