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「私、特化型で行こうと思います!」
榊原の宣言に、いきなり何の話だと考えてみると、そういえば前に万能型か特化型のどっちで行くのかと聞いたなと思い出した。
『マジックプリンセス♡キングダム』の件や学校の先輩の件で、すっかり忘れていた。
「そっか、じゃあその方向で重点的にメニューを組んでいこう」
「はい! ところで◯◯型って二種類しかないんですか? 何だかもっと多くても良いような気がするんですけど……」
「ああ、これは師匠が勝手に決めた枠組みだから気にしなくて良いよ。結局の所、その人の長所を重点的に伸ばすか、満遍なく伸ばすかの違いでしかないから」
「そうなんですか? 何かこう! これをやったから急激に強くなったー! 的な奴かと思っていました」
なにそれ? みたいに思ったが、そういえばもう一つの枠組みを作っていたなも思い出した。
「んーそれとは違うけど、特殊型っていうのも一応ある」
「特殊型? 何だか特別な響きですけど、どういう特徴があるんですか?」
「基本的には特化型と変わらないんだけど、特有の力を持った人が稀にいるんだよ。その人には同じような訓練をしても効果は薄いし、独自の戦い方を構築しないといけない人達で、訓練方法も異なるんだ」
「そんな人がいるんですね。例えばどんな力ですか?」
「んー……例に上げて問題なさそうな人のだけど、肉体をダイヤモンドよりも硬く変化させる人や、虫を操る人に、数秒先の未来が見える人もいたな。みんな僕よりも強い人達だよ。絶対に勝てないって言い切れるくらいにはね」
彼らは独自の戦い方を手に入れ、その圧倒的な実力で探索者のトップに君臨している。
そんな人達が子供向けの特撮に出ていたので、かなりの驚きである。
そう、マジカルプリンセス♡キングダムには、今の探索者のトップ層がスタントマンとして参加していたのである。
一体どれほどの大金を積んだら、あの人達を集められたのだろう。その疑問は、次に時雨が訪ねて来た時にでも聞いておこう。
「そんな人達がいるんですか? 一度会ってみたいですね」
「絶対にやめておいた方が良いよ。あの人達手加減知らないから、気付いてたら殺されてたって可能性もあるからね」
時雨に連れられた時を思い出す。
「どれだけ成長したんだ?」と言いながら腹に風穴を開けられたのは、一度や二度ではない。
彼らは、いろいろと頭がぶっ飛んでいるのである。
その中には、当然時雨も含まれていたりする。
話を聞いて「揶揄わないで下さいよ、そんな人いるはずないじゃないですか」と信じていない様子だったので、お前の好きな特撮に出演しているからなと教えてやろうか迷ってしまった。
とりあえず、この話は切り上げて本題に戻る。
「特化型で行くのなら、これからは身体強化の習得とモンスターとの戦闘がメインになる。武器は……剣で大丈夫? 他のを試したりしなくていい?」
「えっと、どうなんでしょう? 私、これが初めての武器で、他のを使った事がないんです。変えた方が良いですか?」
「そのままでも問題はないけど、榊原さんの場合はフィジカルがメインになるから、大きな武器に変えても良いかなって思ったんだ」
「……え? 私って、前衛職なんですか?」
「え?」
じゃあ、他に何があるんだ?
身体強化の習得が早く、かなりのセンスがある。それに対して、魔法は残念ながら普通レベルだ。なら、武器をメインにした戦い方になるのは必然ではないだろうか。
「わっ、私、福斗さんみたいな戦い方がしたいんです! 素早く動いて、モンスターを倒すっていうのに憧れたんです!」
「あー、あれね……」
そういえば、マジカルプリンセス♡キングダムのヒロインの戦い方も、素早さで翻弄するタイプのものだった。
ヒロインのアクションを時雨が演じており、その弟子である天音が似るのもおかしな話ではなかった。
「正直、榊原さんにはこのスタイルは難しいよ。やるにしてもかなりの時間が掛かるし、目標にしている領域には、まず到達出来ない」
天音の動きは身体強化に加えて、風属性魔法を応用したものである。細かい魔力操作が必要で、向かない人にはとことん向かない技術だ。
榊原がこれを習得しようとするなら、天音の十倍の時間は必要になるだろう。それなら他に注力した方が良いのは当然の話だった。
「そんなぁ〜」
悲しそうな声を上げる榊原だが、この現実は変えようがない。
特化型を選択した以上、榊原が目指すのはフィジカルお化けであり、テクニックはおまけ程度で良いのだ。
ただ、別の選択肢は存在する。
「どうする? 辞める?」
それは、天音に師事するのを辞めて、他の探索者に弟子入りするというものだ。
特化型や万能型は、あくまで時雨や天音が考えて利用しているもので、他の探索者は違う。
天音が示す道が望む物ではないのなら、他の可能性に賭けてみるのも悪くはない選択肢である。
「辞めません! 私は福斗さんについて行くと決めたんです!」
「……そっか」
その言葉に少しだけ心が動かされた。
師匠に命令されたからとかではなく、彼女に真剣に向き合ってみようと思えた。
「ところで、万能型だったらどんな訓練方法になるんですか?」
「今やっているのを続けて、いろんな魔法と武器を使った戦闘訓練。勝てないモンスターからの逃走方法とか、回復魔法の習得とかだね。やる事がかなり多い分、中途半端になりやすいのは欠点だね」
「回復魔法は私も使いたいです。教えてもらえませんか?」
「それはタイミングを見てからにしよう。回復魔法は中途半端に覚えても意味がないし、ポーションを使った方が効果的だ。だから、そうだな……僕に武器を握らせるくらいになったら、回復魔法の練習に取り掛かろう」
「本当ですか⁉︎ 絶対ですよ!」
喜んでいる榊原に「約束するよ」と了承して、今日の訓練を開始する。
今回まではこれまで通りの訓練を行い、早目に切り上げる。そして地上に戻ると、ギルドの隣に併設している探索者用のショップに足を運んだ。
「あの、本当にどれでも良いんですか?」
「訓練に必要だからね、あまり高額な物じゃなければ問題ないよ」
最近は60階以降も行けるようになったので、一度の成果がかなりの物になっており、ここに並ぶ武器くらいなら問題なく購入可能だ。
オーダーメイドだと桁が一つ二つ違って来るので、流石に無理ではあるが。
んーと悩みながら榊原は武器を手に取っていく。
握りや重さ、振った時の手応えなど様々な武器を試していた。
ジッと見ながら悩み、あれでもないこれでもないと感触を試しており、最後はうんと頷いて一つの武器を手に取った。
それは大きな剣だった。
長く太くて、凡そ普通の人では持つのも不可能な巨大な剣。
「それはやめとこうか、いくら何でも身体強化無しで持てない物は駄目だよ」
流石に止めた。
えーと不満の様子だが、そんな無謀は認められない。
常に身体強化が使えるはずもないし、魔力が切れたらどう戦うつもりなのだというのだろうか。
「どれでも良いって言ったじゃん」とぶつぶつ言いながら、榊原は普通サイズの戦斧を手に取った。
手に持つと榊原の顔の位置に刃部が来ており、刺突用の切先部分が上に飛び出ている。長尺物ではあるが、持ち方を変えれば接近戦も可能な武器である。
「うん、良いんじゃないかな」
「はい、これなら身体強化使わなくても大丈夫そうです」
手に持ち構えると、なかなか様になっていた。
本人も手に馴染むのか、うんと頷いてその感触に満足しているようだった。
そのままお会計を済ませて店を出ると、ギルドに向かい「じゃあまた」と言って別れた。榊原はいつも通り親が迎えに来ており、着替えたら車に乗って帰るのだろう。
顔を見せた父親に会釈をしてから、天音もロッカーに向かった。